幼なじみと同棲生活、始めました。

もちぃ

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第二十六話

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『…もしもし陽斗?どしたの?』

「メーデー、メーデー、緊急事態発生緊急事態発生。本部の樹里ちゃん、応答ヲ求ム」

真凛が着替えている隙に、樹里ちゃんに電話をかける。樹里ちゃんはしばらく無言を貫いた後、仕方ないなぁというように軽く息を吐いた。

『こちら司令官総司令部作戦最高責任者の樹里だ。何が起こった?』

低い声を出しながらそう返す樹里ちゃん。前々から思っていたけど、樹里ちゃんノリ良すぎない?

「未確認二足歩行生物、通称『バイト仲間』が速度を上げながら『陽斗宅』に接近中。『バイト仲間』特有の言語の解析に成功したので伝えます。『我、今晩陽斗宅一日宿泊也』とのことです」

『…なるほど。警戒レベルを1から4に一気に繰り上げ。『陽斗宅』内の全職員を現場から撤退させる』

すでに真凛は俺の家に泊まる気満々だ。真凛を説得するのは無理そうとなると、申し訳ないが樹里ちゃんに今日一日家を出てもらうしかない。この辺は事前に樹里ちゃんと話をつけていた。誰かが俺の家に泊まることになったら1日だけ家を出ていてほしい、お金はあげるから、と。

真凛に樹里ちゃんと同棲していることがバレるのは流石にまずい気がするし、昨日俺の悪友にバレたばかりだ。なるべく樹里ちゃんの事は知られたくない。

『はぁ、模試を控えたこの時期に家を出てけと言われるとはね』

「ごめん、本当ごめん。いつか埋め合わせはするので…」

『あはは、冗談冗談。あたしは居候の身だからね。陽斗の生活を優先するのは当然の事だよ。近くのネカフェにでも行ってくるね』

そうは言っても、樹里ちゃんに迷惑をかけるわけだし…いや、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

…というか、俺にその気は無いにしよ、真凛を家に泊めるというのは倫理的にどうなのだろう。

『…ちなみにだけど、そのバイト仲間って男の子?女の子?』

なんてことを考えていると、突然、樹里ちゃんの言葉の凄みが増した。なんだろう、返答次第では電話越しに殺されそうだ。とはいえ嘘をつくわけには…

「…ヒトではあるよ」

『いやそれは分かってるよ。ここで陽斗がチンパンジーとか連れてきたらそれこそ困るし』

言い逃れることはできなそうだ。仕方ない…

「生物学上では女の子だと思う」

『総員第一戦闘配備。『バイト仲間』を迎え撃つ』

「樹里ちゃん?司令官総司令部作戦最高責任者の樹里ちゃん?」

『主砲『確固たる意思』発射用意。続いて副砲『陽斗と女の子で一夜を過ごすなんて絶対に許さない』、『過ちを起こさないようあたしも一緒に居させてもらう』発射用意。目標、陽斗の顔面』

「なぜ俺!?」

なんか今日は俺の思い通りに行かないことばっかりだ。だから人生は面白い!(ヤケクソ)

「…というか、俺と樹里ちゃんはすでに何夜も一緒に過ごしてるんだけど」

『……とにかく、あたしが家を出るつもりはないから!来るなら来なさい!あたしは負けない!』

ブチっと電話が切られる。何に勝とうとしてるんだ彼女は…

「お待たせしましたはるとせんぱい!さぁ行きまshow time!!」

なぜか真凛はすこぶる機嫌がいいし…手提げの鞄をぐるぐる回しながら鼻歌を歌っている。

「…ねぇ真凛。本当に今日じゃなきゃダメ?」

「ダメです。もうアタシの足はせんぱいの家に向かっています」

「…下着とかどうするんだよ。替えなんて持ってないだろ?」

「あ、それはそうですね」

う~んと悩んでしまう真凛。うんうん、やはり今日は無しの方向で…

「…まぁノーパンノーブラで行けばなんとかなるでしょ」

「待て真凛。お前は今女性として大切な何かを失おうとしている」

「むむ、一理ありますね。じゃあパンツはせんぱいに貸してもらいます」

「すまん。俺は真っ白のブリーフしか持ってないんだ」

「ふむ、じゃあそれで」

「抵抗しろよ!?」

男モノのもっさりブリーフ、それも真っ白だぞ!?もうちょい躊躇いがあってもいいだろ!本当に、一体何が彼女をここまで突き動かしているのだろう。

「ほら、女の子は特に…化粧!化粧用品も持ってきてないだろ?」

「チッチッチせんぱい。アタシは化粧なんてしなくても充分可愛いです」

「自分の言っていることに間違いはないという曇りなき眼をしてるのが非常に癪である」

そういえば樹里ちゃんが家に来て以来、彼女が化粧をしているのを見たことがない。ノーメイクであれだけの美貌を保ってるとは末恐ろしい。

「はぁ…もう分かりましたよ。こうなったら最終手段です。せんぱいがどうしてもアタシを家に招きたくなる秘密の呪文を唱えます」

「秘密の呪文だと?」

「ええ、ちょっと失礼します」

そういうと真凛はぎゅっと俺の手首あたりを掴む。秘密の呪文だかなんだか知らないが、樹里ちゃんが家に残ると言ってしまった以上、鉄の意志を持って彼女の要求を拒み続け–––

ふにっとした感触が俺の手を覆っていた。俺の手は真凛の右胸を思いきり鷲掴んでいる。正確には鷲掴まされているだが、この程度ででででででで俺の鉄の意志しししししし

落ち着け。こういう時は素数を数えて落ち着くんだ。1、3、5、7、11………しまった俺ガチガチの文系だった!!

「ふ、ふん、色仕掛けか?この程度で俺を誑かせると思うなよ?」

そうだ、俺は不可抗力だったにせよ麗奈さんの凶悪なそれを堪能したこともあるんだ。それに比べれば真凛の普通レベルのなんてああああなんで今麗奈さんの思い出した?余計変な気持ちになってきたじゃないか俺のバカ!

俺の手は真凛にロックされているため離すことができない。顔を真っ赤にした真凛は無理矢理口角を上げている。すぅぅぅと大きく息を吸うと、大きな声で叫んだ。

「助けてくださぁぁぁい!胸を揉みしごかれていまぁぁぁぁす!!」

「ちょおまっ!?」

慌てて周りを見渡す。しかしここは居酒屋内。店長は翌日も早いからと先に退勤しているため、この場には俺と真凛しかいない。ははぁん分かったぞ。

真凛のことだ、犯罪者として通報されたくなければせんぱいの家に泊めてください!とでも言うつもりだったのだろう。しかしながら場所が悪かった。第三者のいないこの場ではただ単に俺が無償で胸を触れたという結果だけが残ってしまう。

「…うん、こんくらいでいいかな」

割と呆気なく俺の手を解放する真凛。そのまま踵を返し、バックルームに置いてあったスマホを手に取ると録画の終了ボタンを押した。

「さてせんぱい。このスマホには今せんぱいがアタシの胸を触った証拠が動画として残されています」

こいつまさか…その動画を警察に届けるつもりか?本当に俺を犯罪者として訴えるつもり…いや、警察なら動画の不自然さに気づくはずだ。タイミングよく犯行のシーンが動画として残されている不自然さに。俺がはめられているという事実に。

証拠不十分として大事にはならないと見た!つまり俺が真凛を家に招く筋合いもない!

「この動画を…」

警察に出すなら出せばいいさ!俺は警察の方々を信じている!

「麗奈さんに見られたくなければアタシをせんぱいの家に入れてください」

「それは絶対ダメだぁぁぁ!!」

麗奈さんにこの動画を見られるともう二度とお近づきになれない!仮に誤解が解けたとしても俺が女の子の胸を触ったという事実は覆せないわけだし、それだけで俺の品位が地の底に落ちることは確定的に明らか!折角ここまで仲良くなれたのに全てがパァになる!

「真凛…お前なんてことを…」

「言わないでください!アタシも麗奈さんを利用するのはなんか違うと思っているんですから!肉を切らせて骨も断たせるというやつです!」

「骨まで持ってかれるな!致命者だろ!」

「で、どうするんですか!麗奈さんに送ってもいいんですか?」

「それは…うううううう分かったよ!家でもなんでも来ればいいじゃないか!」

もうどうにでもなれだ…樹里ちゃんが考え直して家を出てくれていることにかけるしかない。

「…じゃあついてきて」

やったー!とくるくると回っている真凛を無視して居酒屋の裏口から外に出る。すでに深夜と言える時間帯に入っており、通りを行く人はほとんどいなくなっていた。はぁ…大変なことになった。

「っそうだ真凛。その動画消しとけよ?この先も脅されちゃかなわないからね」

「はいはーい、前向きに善処していきます」

「…今消せ。俺の見ている前で」

「え~あ、ちょっとせんぱい!」

嫌な予感しかしなかったため、隙を見て真凛のスマホを取り上げ、先ほどの動画を開く。

…見るに耐えないなこれは。返してくださいと腕を回し喚く真凛をかわしながら操作を続けるのだが、前を見ていなかったせいで誰かとぶつかってしまった。

「っととすみませ…あれ、店長」

「陽斗くんに…真凛ちゃん。まだいたんだ」

なんだ、誰かと思えば店長か。忘れ物でも取りに来たんだろうか。っと、それよりまず動画を消さなきゃ。

「店長!アタシのスマホせんぱいに取られました!取り返してください!」

真凛が店長に助けを求めるが、それより早く俺の手が動画の削除を完了する…より早く、店長が俺からスマホを取り上げた。今店長の動きが見えなかったんだけど。え、職人技?

「全く、仲良いのはいいけど喧嘩は良くな…ん、何この動画」

ニコニコとしている店長の表情が固まった。っまずい!真凛大好きの店長に、俺が真凛の胸を触っている動画を見られたら…

「て、店長!そういえば来週のシフトの事で相談が–––」

なんとか話を逸らそうと試みるも、ガシリ、と俺の顔が店長の手に掴まれ、持ち上げられる。片腕で、だ。バタバタと足を動かすも、店長はぴくりともしない。

『助けてくださぁぁぁい!胸を揉みしごかれていまぁぁぁぁす!!』

スマホからは真凛の悲痛な叫びが聞こえてくる。店長を直視できない。重力に反して身体を持ち上げられる痛みより、店長への恐怖が勝っていた。

「陽斗くん。何か言い残す事は?」

今まで聞いたことのない、ドスの効いた店長の声。あ、俺死んだ。視界の端で真凛がそっとその場を離れようとしているのが見えた。おい、お前が撒いた種だろ。

「…優しくしてください」

涙ながらにそう伝える。外見はアレだが心は優しい店長。きっと許してくれるに違いない。

ニッコリと店長が笑った。笑った、と形容していいかどうか分からない笑顔だった。

「それはできない約束だね」

遺書とか書いておけばよかったな。衝撃も痛みも置き去りにした一撃が俺を襲いながら、全てを諦めてそんなことを考えた。
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