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詩的で宗教的な調べ第七番(後編)
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世界は崩壊の危機に瀕しており、ブライトリング住民の間では人類滅亡が不可避だとする考えが支配的になった。一方で、宇宙人と合衆国政府の密約を根強く信じる者は北米大陸のどこかに葉巻型UFOの脱出艦隊が隠匿してあると主張して州軍基地を襲撃した。奪われた武器弾薬、装甲車、戦闘機は退役軍人が組織した武装勢力が支配地域の拡大に活用している。合衆国は分裂し、さながら東西南北戦争の様相を呈した。
そんな折、合衆国首脳部はロス海北端のバレニー諸島に到達した。そこは南極探検史上、初めて人類が上陸した記念すべき場所でもある。
ネズミは沈みかけた船から逃げるというが、頭の黒い彼らが極寒の地を選択するなど自殺行為の他ならない。いったい何を考えているのか。
潜水空母伊四百八が指揮艦と米海軍潜水艦艦隊との交信を傍受した。通常の電波は海水で遮断されるため、超長波という特殊な波長を使用する。空母ライトからTACAMO機(空中通信中継機)が飛び立った。それは空中から全長八キロにも及ぶケーブルアンテナを垂らして行う。機体はアンテナを水平に維持するために大きなループを描いた。一方、受信するほうは魚雷発射管から曳航ケーブル付のソナーブイを海面に射出した。五百蔵艦長は半歩進んだ枢軸のやり方で傍受を命じた。
「誘導電磁氷塊、撃ち~かた、始め!」
専用の発射筒からドイッチェラント製の機器が発射される。
「大統領はロジウム動力潜水艦に何て言っているの? 福音書の引用? 玉音放送? それとも、徹底抗戦?」
ハーベルトがスピーカーに耳を澄ますと、担当技師がすべて否定した。
「いいえ。例の『集団』に霊的救済を求めています。川端エリスが今わの際に申請したように。大統領府が発したのは短い命令文です。ただ『ロザリオの祈りを捧げよ』と。それだけです。そもそも長波は複雑な内容の電文を送れませんし、潜水艦に送信する機能はありません」
その言葉を聞いてハーベルトの胸中は決まった。「宇宙人」とやらに霊魂を搾取させてはならない。いや、「宇宙人」など居やしない、と彼らに自覚させる時が来た。それは今を置いてほかにない。彼女はためらいながらも死に体の世界に引導を渡した。
「ジョンストン環礁の遺産に点火しなさい!」
異世界の西暦1952年8月。ジョンストン環礁において高高度核爆発実験が行われた。それは通常の核攻撃ではなく、非殺傷性兵器――すなわち、人間でなく敵戦力そのものを破壊する兵器である。遮る物のない宇宙空間では核爆発の熱エネルギーがすべて強力な電磁パルスに変換される。それは凶悪なキラーパルスとなって地上のありとあらゆる電子機器を滅多打ちにする。接続コードや回路そのものが自明のアンテナとなって電磁波を招き寄せる。そして、焼き切れてしまう。ハーベルトたちの枢軸軍はジョンストン環礁からHANE実験の予備弾頭を発掘して使用可能状態に整備したのだ。キラーパルスの効果は半径千キロにも及び、指揮艦隊の通信機能を完膚なきまでに破壊した。
もちろん、枢軸軍に影響はない。旅人の外套効果が保護してくれる。伊四百六が潜望鏡深度まで浮上して通信傍受ドローンを放出した。
「艦隊に若干の混乱は見られますが、応急処置は準備しているらしく、最低限必要な通信波が飛び交っています。ただ、作戦行動は当分の間は不可能なようです。おそらく、対電磁被覆した通信機を積んでいるのでしょう」
情報将校が分析して見せた。
「危ないところだったわ。シックスナイン装置を稼働させられたら取り返しのつかないことになる」
胸をなでおろしているハーベルトに五百蔵が訪ねた。「シックスナイン装置とは?」
「済んだことだし機密解除するわね。六十九装置というのは人類の死亡確率が99.9999%、すなわち、9が六個も並ぶ状態に陥った時に発動する最終兵器。別名、人類安楽死機構ともいうわ」
「――ッ?!」
艦橋に詰めていた全員が言葉を失った。ハーベルトを除いては。
■
「「「助けて~~ハーベると~ぉ~~」」」
銃を突きつけられて泣き叫ぶ少年の映像は高美が買収したケーブルテレビ局を通して全欧米に配信された。高美は大総統全権大使を交渉の席に引きずり出す腹積もりだ。枢軸特急に子飼いの技術者を詰め込んで、どこか未開の異世界へドンヅラするのだ。ベンチャースターの富裕層からは前金を搾り取って鶏ガラのように捨てる計画だ。中世ヨーロッパ程度に進んだ文明世界に降臨し、豊穣の科学力で進化を加速する。高美は異世界の女王に収まる未来図を思い描いていた。
「そう来ると思ったわ」
ハーベルトは同僚のピンチを決して座視しているわけではない。例の「鈴」を通して祥子を四六時中監視している。艦橋のモニタースクリーンに少女の慟哭が放映されている。一刻を争う事態だ。
「こちらから出向きます。艦長。スタージ島へ進路を取って」
ハーベルトはハンティートーキーで最寄りの機関区へ臨時列車の到着を要請しはじめた。
「ハーベルトより東南極オーツランド運転区運転総合指令所へ。トワイライトエクリプスTWX666Ω号の配車をお願いします。……ええ。バレニー諸島引込線。スタージ島のブラウン・ピーク山頂駅まで。可及的速やかに」
「オーストラリアまでお一人で?」
不安になった五百蔵が護衛を申し出たが、ハーベルトは低調に辞退した。
「相手の出鼻はさっきのキラーパルス攻撃で挫いたわ。事は優位に進むはず」
「しかし……」
「高美は豊穣人類の『祈り』を集約してワールドクラスを揺さぶろうとしているのよ」
シックスナイン装置の恐るべき実態をハーベルトが淡々と暴露していく。人類安楽死機構とは文字通り、滅亡から生き残った人々に安らかな死を与える仕組みだ。人類の存続が不可能なほど汚染された環境で苦しみながら無意味な余生を過ごすよりは、一瞬で集団自殺しようという計画だ。高高度核爆発で生じる中性子線を浴びた人間は数秒足らずで大脳が沸騰する。弾道弾迎撃ミサイル用核弾頭W66は効率よく中性子を発生させることができる。米国は全人類が集団自決できるだけの量を極秘裏に配備していた。ノーザンプトンが潜水艦隊に送った指示はシックスナインの発動に先駆けて最期の祈りを捧げよという内容だった。
「猿ヶ森のダイポールアンテナも当初の計画ではそれ用に使う予定だった。宇宙人から叡智を授かる、なんて真っ赤な鵜。大衆の断末魔を宇宙に放射する道具なの。換言すれば慟哭レーザー砲とでも呼ぶべきかしら。精神波を束ねて宇宙の一点を狙うつもり」
ハーベルトの説明に五百蔵は合点がいったらしく、大きく頷いた。
「なるほど。ノーザンプトン艦隊の任務も作戦の一環だったと?」
「未遂に終わったわね。スペースX社が七つの海に隠した『送信機』は沈黙させたわ。あとは楽勝よ」
潜水空母が浮上すると、ハーベルトの垂直離着陸機がブラウン・ピーク山へ飛び立った。
■ ギャラクシーベイ・オブ・オセアニア
セーフティーロックが外れる音をヒステリックな汽笛がかき消した。夏希が思わず耳を塞ぐと今度は猛煙が目や鼻に染みた。コンテナヤードの荷下ろし場に普段は貨物列車が待機しているが、そこへ勢いづいた枢軸特急が無理やり入線してくる。貨物列車は慌てて側線へ移動した。
勿怪の幸いとばかり、祥子は翼を全開した。セーラー服が背中から破れ落ちて、ビキニブラやブルマが兵士達の顔面に被さる。すぐさま機銃が唸るが、吹き抜けの作業場を右へ左へ射線をいなす。祥子は懸命に羽ばたくが、じょじょに翼から力が抜けていく。その間にもTWX666Ωからハーベルトが降り立つ。片手にはM65無反動核ライフル。小さいとはいえ出力は0.1キロトン。広島型原爆の百六十分の一の核弾頭を銃口に装備して三マイルの射程を持っている。
こんなものを至近距離で撃たれたらひとたまりもない。高美のボディガードは銃を下ろした。
「あらまあ。わざわざありがとうございます。お電話いただければ、こちらから出向きましたのに」
臆面もなく高美はビジネススマイルで出迎えた。ハーベルトも引きつった表情で社交辞令を述べる。殺意をくすぶらせながらも、二人はにこやかに人質解放交渉を進める。まずは、先制パンチ。ハーベルトが安楽死機構を封じた旨を伝えると、高美はほんの少しだけ狼狽した。それでも何事もなかったかのように枢軸特急の切符と祥子の交換を求めた。
「ええ。お安い御用ですわ。高美さん」
ハーベルトのエルフ耳が激しく痙攣している。
「乗せちゃ駄目だ。は~……ギャガグぅ!」
銃把が祥子の顔面に命中する。
「ありがとうございます」
ドイッチェラント大使館発行の入国ビザと乗車券が高美と関係者に手渡された。祥子は拘束を解かれ、列車が動き始めた。客車は異様な雰囲気に包まれている。エコノミークラスは完全装備した兵士が男臭さをプンプンさせ、ファーストクラスではセレブで賑わっている。列車が異世界間回廊に入ると高美は会議開催を理由に車両の扉を固く閉じた。防犯カメラやセンサーも遮断され、中の様子はうかがい知れない。
「このまま、奴らを亡命させていいんですか」
ブレーズは憤懣やるかたない思いだ。機関車は国境を越え、枢軸基幹同盟の圏内に入った。開かずの間の要求に応じて亡命希望者五千名分のビザがオンライン認証される。
「ハーベルト。ごめんよ。ボクの身勝手で……」
単独行動を恥じ入る祥子にハーベルトは優しい声をかけた。
「エルフリーデ大総統は慈悲深いお方。わかったでしょ。一人の異世界逗留者のためにここまで目をかけてくれるのよ。それにゲルマニアは豊穣文化の免疫を獲得したの。ワールドクラスの差異は優秀な科学者たちが克服してくれたわ」
「ごめんッ!」
祥子は両掌を頭上で打ち鳴らし、深くこうべを垂れる。
「気にしないで」
ここまではハーベルトの思惑通りだ。自尊心の権化である高美が大総統の支配下に入りたがるはずがない。
案の定、客車で異変が起きた。警報が鳴り響く。
「4号車以降でシステムトラブル発生。ATSが誤作動しています!」
留萌が大慌てで急制動をかける。だが列車自動制御装置はうんともすんともいわない。それどころか、信号が勝手に切り替わり、普段は使われていない路線に入った。ハーベルトが小銃を構えてデッキに向かう。
「こうなると思ったわ。祥子、行くわよ」
「ハーベルト、待ってよ」
3、4号車接続部分。バリバリと銃撃が聞こえる。狙撃対象は連結器だ。それは列車強盗やテロに備えて特別頑丈な造りになっている。業を煮やしたハーベルトが徹甲弾を取り出す。連結器が爆散し、車両の間に距離が空き始めた。分離工作に対する妨害がない事に祥子が気づいた。
「ハーベルト、これってひょっとして?」
「そうよ。高美はこれを狙ってたのよ」
「列車なんか奪ってどうするんだろうね?」
「そこじゃないわ。彼らは自由が欲しかったのよ」
ハーベルトは遠ざかっていく車両を悲しげに見送った。その前途は明るくない。一転にわかに掻き曇り、赤紫色の毒々しい雲が青白い雷を伴っている。
「あんまり穏やかじゃなさそうだね。ハーベルト。この先はどこに続いているの?」
「永劫回帰惑星。プリリム・モビーレの地獄大陸。『寂寥の漠野』駅。薄暗くてジメジメして肌寒い場所よ。彼らは未来永劫、彷徨うでしょうね。あ~ヤダヤダ。わたしはまっぴらごめんだわ」
したり顔で答えるハーベルトに祥子は当然の質問を投げた。
「キミは旅行したことがあるの?」
「りょ、旅行ってもんじゃないわ! ええ、誰が好き好んでいくもんですか!!」
物凄い剣幕に祥子は面を食らう。そして、しまったというような顔をした。ハーベルトは複雑な過去を背負っているようだ。
◇ ◇ ◇ ◇
寂寥の漠野。陽の光が届かぬ深海のような世界に幾何学的な奇岩が聳えている。到着した途端に車両と駅舎が砂のように崩れおちた。乗客の所持品も同様の結果をたどった。つまり、一行は裸も同然だ。これでは文明を咲かせることは不可能だ。問題は食料の確保だ。石をひっくり返しても虫一匹這い出るどころか、苔も見当たらない。
「ど~すんのよ~~」
途方に暮れる高美の頭上をTWX666Ωが駆け抜けていく。そして、岩の陰から屈強な男どもがあらわれた。彼らは頭に角を生やし、棘だらけの金属棒を構えている。阿鼻叫喚と鮮血が岩場に広がった。
■
戦略攻撃用潜水艦グレイバックとグロウラーは空母ライトの前哨として警戒任務に就いていたが、パッシブソナーに未知の音紋をキャッチした。最初は大型水棲哺乳類の咆哮かと思われたが、それはすぐに明らかなモールス符号であることが判明し、通信士を困惑させた。
「ドイッチェラントの音響工学世界一ぃぃぃ」
ハーベルトが電鍵をノリノリで連打する。その内容は高美の陰謀を網羅しており捨て駒を激怒させるに十二分なものだった。
現代の潜水艦戦において秘匿性は最優先課題であり、敵に塩を送るようなハーベルトの愚行は死亡フラグに直結する。即座に魚雷が贈答された。帝国海軍の伊四百は魔改造されており、船体表面に特殊な電磁コーティングが施されている。進行方向に向かって細かい溝が幾つも刻まれている。ここに帯電した粘液を流すことにより、フレミングの法則を応用した水中機動が可能となる。
急ターンで魚雷をかわし、反撃に出る。
「対潜哨戒機を使われる前に殺るわ。五百蔵艦長。浮上を」
「メーンタンク・ブロー!!」
潜水空母から祥子とハーベルトを載せた超音速垂直離着陸戦闘機「臥龍」が一機ずつ出撃した。
さっそくノーザンプトンのVLSが吼えた。艦隊空ミサイル・スタンダードがモノパルス・シーカーに複数の電波源を捉える。
「ハーベルト、ど~すんだよ。これ」
祥子の機体が反転急降下、チャフを撒き、海面を背にしてレーダー探照をやり過ごす。
「まともにやりあったら勝ち目はないわ」
ハーベルトは武器セレクターを対艦攻撃モードにセット。翼下に抱いた大型誘導爆弾を分離した。巨大な円筒が缶コーヒーを手から離すようにふわりと横倒しになった。
数秒足らずでロケットモーターに点火。水平線めがけて勢いよく蹴りだされる。
「祥子、任務終了。急いで離脱するわよ」
ハーベルト機はアフターバーナーに点火。機首を垂直にして音速に達する・
「えっ、たった二発で? ちょっとまってよー」
「今回はガチ勝負が目的ではないわ。壊してしまうにはもったいない代物よ」
なにやらハーベルトの雲行きがおかしい。その言い回しには男性的なフェティシズムの響きがあった。浪漫の申し子ハーベルトはまたしてもいけないことを考えているのか。
「壊してしまうにはもったいないって? あーっ!! ハーベルト。また、キミは『やらかす』つもりか」
彼女の胸中を祥子が暴き立てると、居直った。
「そうよ。こんな上玉。あいつらにはもったいないわ。ああ、げに恐ろしや、メカフェティズム~。デパ~ミング~」
デパーミングとは地磁気の影響で磁気を帯びた水上鋼鉄艦艇を消磁するする作業である。大型コイルに船をくぐらせ、少しずつ磁場を変化させていく。ハーベルトの放った大型爆弾は迎撃される段階から威力を発揮した。暴風雨のように降り注ぐレーダー波を攪乱し、誘導兵器自体を無用の長物にした。さらにコイル状の磁場がノーザンプトンとライトを取り巻いた。
「ハーベルト、これって?!」
大型の艦船が祥子の目の前で見る見るうちに半透明化していく。
「そうよ。禁忌科学。フィラデルフィア・エクスペリメントという奴よ。ノーザンプトンもライトも、わたしに嫁ぎなさい!」
ハーベルトはついに本懐を遂げた。あろうことか、彼女は敵艦隊を丸ごと鹵獲に成功したのだ。
あっという間に鋼鉄の塊は異世界へ旅立った。
「♪♪~どいちぇらんとの~かがくは~せかいいちー♪」
無邪気で能天気な鼻歌が南氷洋にいつまでも響いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「無茶をしますね」
超大型半潜水型ドッグ船にノーザンプトンとライトを積み終えた後、斎藤興産の海運部長があきれ返った。
「あんな難物はこの方々にお持ち帰りしていただいた方が世のためよ」
斎藤夏希は今度こそ本当の別離だと、と余韻を懐かしんでいる。
「キューブラロスの最終段階は死の受容なのだけど、夏希なら然るべき祈りを捧げられるわよね?」
ハーベルトは世界再生を担う若き経営者に事後を託した。
「ええ。教わった立体映像技術で世界の空を薔薇色で彩って見せます」
祥子が名残惜しそうに夏希の瞳を見つめている。
「そうだよね。きっとできるはず。君にはそれを支えてくれる頼もしいビリーバーが大勢ついているもの」
「ありがとう。わたしは祥子さんのビリーバーでいるわ」
織りなすネオンはその下で暮らす人間の悲喜こもごもを赤青紫の原色で艶やかに染めている。転がり落ちていく一方だったダウ平均は斎藤興商が画期的な”技術”を発表したあと、急反発した。大口投資家が関連銘柄を買い支えたことで個人消費の低迷に明るい兆しが見え始め、バブル最高値を更新した。
そんな折、合衆国首脳部はロス海北端のバレニー諸島に到達した。そこは南極探検史上、初めて人類が上陸した記念すべき場所でもある。
ネズミは沈みかけた船から逃げるというが、頭の黒い彼らが極寒の地を選択するなど自殺行為の他ならない。いったい何を考えているのか。
潜水空母伊四百八が指揮艦と米海軍潜水艦艦隊との交信を傍受した。通常の電波は海水で遮断されるため、超長波という特殊な波長を使用する。空母ライトからTACAMO機(空中通信中継機)が飛び立った。それは空中から全長八キロにも及ぶケーブルアンテナを垂らして行う。機体はアンテナを水平に維持するために大きなループを描いた。一方、受信するほうは魚雷発射管から曳航ケーブル付のソナーブイを海面に射出した。五百蔵艦長は半歩進んだ枢軸のやり方で傍受を命じた。
「誘導電磁氷塊、撃ち~かた、始め!」
専用の発射筒からドイッチェラント製の機器が発射される。
「大統領はロジウム動力潜水艦に何て言っているの? 福音書の引用? 玉音放送? それとも、徹底抗戦?」
ハーベルトがスピーカーに耳を澄ますと、担当技師がすべて否定した。
「いいえ。例の『集団』に霊的救済を求めています。川端エリスが今わの際に申請したように。大統領府が発したのは短い命令文です。ただ『ロザリオの祈りを捧げよ』と。それだけです。そもそも長波は複雑な内容の電文を送れませんし、潜水艦に送信する機能はありません」
その言葉を聞いてハーベルトの胸中は決まった。「宇宙人」とやらに霊魂を搾取させてはならない。いや、「宇宙人」など居やしない、と彼らに自覚させる時が来た。それは今を置いてほかにない。彼女はためらいながらも死に体の世界に引導を渡した。
「ジョンストン環礁の遺産に点火しなさい!」
異世界の西暦1952年8月。ジョンストン環礁において高高度核爆発実験が行われた。それは通常の核攻撃ではなく、非殺傷性兵器――すなわち、人間でなく敵戦力そのものを破壊する兵器である。遮る物のない宇宙空間では核爆発の熱エネルギーがすべて強力な電磁パルスに変換される。それは凶悪なキラーパルスとなって地上のありとあらゆる電子機器を滅多打ちにする。接続コードや回路そのものが自明のアンテナとなって電磁波を招き寄せる。そして、焼き切れてしまう。ハーベルトたちの枢軸軍はジョンストン環礁からHANE実験の予備弾頭を発掘して使用可能状態に整備したのだ。キラーパルスの効果は半径千キロにも及び、指揮艦隊の通信機能を完膚なきまでに破壊した。
もちろん、枢軸軍に影響はない。旅人の外套効果が保護してくれる。伊四百六が潜望鏡深度まで浮上して通信傍受ドローンを放出した。
「艦隊に若干の混乱は見られますが、応急処置は準備しているらしく、最低限必要な通信波が飛び交っています。ただ、作戦行動は当分の間は不可能なようです。おそらく、対電磁被覆した通信機を積んでいるのでしょう」
情報将校が分析して見せた。
「危ないところだったわ。シックスナイン装置を稼働させられたら取り返しのつかないことになる」
胸をなでおろしているハーベルトに五百蔵が訪ねた。「シックスナイン装置とは?」
「済んだことだし機密解除するわね。六十九装置というのは人類の死亡確率が99.9999%、すなわち、9が六個も並ぶ状態に陥った時に発動する最終兵器。別名、人類安楽死機構ともいうわ」
「――ッ?!」
艦橋に詰めていた全員が言葉を失った。ハーベルトを除いては。
■
「「「助けて~~ハーベると~ぉ~~」」」
銃を突きつけられて泣き叫ぶ少年の映像は高美が買収したケーブルテレビ局を通して全欧米に配信された。高美は大総統全権大使を交渉の席に引きずり出す腹積もりだ。枢軸特急に子飼いの技術者を詰め込んで、どこか未開の異世界へドンヅラするのだ。ベンチャースターの富裕層からは前金を搾り取って鶏ガラのように捨てる計画だ。中世ヨーロッパ程度に進んだ文明世界に降臨し、豊穣の科学力で進化を加速する。高美は異世界の女王に収まる未来図を思い描いていた。
「そう来ると思ったわ」
ハーベルトは同僚のピンチを決して座視しているわけではない。例の「鈴」を通して祥子を四六時中監視している。艦橋のモニタースクリーンに少女の慟哭が放映されている。一刻を争う事態だ。
「こちらから出向きます。艦長。スタージ島へ進路を取って」
ハーベルトはハンティートーキーで最寄りの機関区へ臨時列車の到着を要請しはじめた。
「ハーベルトより東南極オーツランド運転区運転総合指令所へ。トワイライトエクリプスTWX666Ω号の配車をお願いします。……ええ。バレニー諸島引込線。スタージ島のブラウン・ピーク山頂駅まで。可及的速やかに」
「オーストラリアまでお一人で?」
不安になった五百蔵が護衛を申し出たが、ハーベルトは低調に辞退した。
「相手の出鼻はさっきのキラーパルス攻撃で挫いたわ。事は優位に進むはず」
「しかし……」
「高美は豊穣人類の『祈り』を集約してワールドクラスを揺さぶろうとしているのよ」
シックスナイン装置の恐るべき実態をハーベルトが淡々と暴露していく。人類安楽死機構とは文字通り、滅亡から生き残った人々に安らかな死を与える仕組みだ。人類の存続が不可能なほど汚染された環境で苦しみながら無意味な余生を過ごすよりは、一瞬で集団自殺しようという計画だ。高高度核爆発で生じる中性子線を浴びた人間は数秒足らずで大脳が沸騰する。弾道弾迎撃ミサイル用核弾頭W66は効率よく中性子を発生させることができる。米国は全人類が集団自決できるだけの量を極秘裏に配備していた。ノーザンプトンが潜水艦隊に送った指示はシックスナインの発動に先駆けて最期の祈りを捧げよという内容だった。
「猿ヶ森のダイポールアンテナも当初の計画ではそれ用に使う予定だった。宇宙人から叡智を授かる、なんて真っ赤な鵜。大衆の断末魔を宇宙に放射する道具なの。換言すれば慟哭レーザー砲とでも呼ぶべきかしら。精神波を束ねて宇宙の一点を狙うつもり」
ハーベルトの説明に五百蔵は合点がいったらしく、大きく頷いた。
「なるほど。ノーザンプトン艦隊の任務も作戦の一環だったと?」
「未遂に終わったわね。スペースX社が七つの海に隠した『送信機』は沈黙させたわ。あとは楽勝よ」
潜水空母が浮上すると、ハーベルトの垂直離着陸機がブラウン・ピーク山へ飛び立った。
■ ギャラクシーベイ・オブ・オセアニア
セーフティーロックが外れる音をヒステリックな汽笛がかき消した。夏希が思わず耳を塞ぐと今度は猛煙が目や鼻に染みた。コンテナヤードの荷下ろし場に普段は貨物列車が待機しているが、そこへ勢いづいた枢軸特急が無理やり入線してくる。貨物列車は慌てて側線へ移動した。
勿怪の幸いとばかり、祥子は翼を全開した。セーラー服が背中から破れ落ちて、ビキニブラやブルマが兵士達の顔面に被さる。すぐさま機銃が唸るが、吹き抜けの作業場を右へ左へ射線をいなす。祥子は懸命に羽ばたくが、じょじょに翼から力が抜けていく。その間にもTWX666Ωからハーベルトが降り立つ。片手にはM65無反動核ライフル。小さいとはいえ出力は0.1キロトン。広島型原爆の百六十分の一の核弾頭を銃口に装備して三マイルの射程を持っている。
こんなものを至近距離で撃たれたらひとたまりもない。高美のボディガードは銃を下ろした。
「あらまあ。わざわざありがとうございます。お電話いただければ、こちらから出向きましたのに」
臆面もなく高美はビジネススマイルで出迎えた。ハーベルトも引きつった表情で社交辞令を述べる。殺意をくすぶらせながらも、二人はにこやかに人質解放交渉を進める。まずは、先制パンチ。ハーベルトが安楽死機構を封じた旨を伝えると、高美はほんの少しだけ狼狽した。それでも何事もなかったかのように枢軸特急の切符と祥子の交換を求めた。
「ええ。お安い御用ですわ。高美さん」
ハーベルトのエルフ耳が激しく痙攣している。
「乗せちゃ駄目だ。は~……ギャガグぅ!」
銃把が祥子の顔面に命中する。
「ありがとうございます」
ドイッチェラント大使館発行の入国ビザと乗車券が高美と関係者に手渡された。祥子は拘束を解かれ、列車が動き始めた。客車は異様な雰囲気に包まれている。エコノミークラスは完全装備した兵士が男臭さをプンプンさせ、ファーストクラスではセレブで賑わっている。列車が異世界間回廊に入ると高美は会議開催を理由に車両の扉を固く閉じた。防犯カメラやセンサーも遮断され、中の様子はうかがい知れない。
「このまま、奴らを亡命させていいんですか」
ブレーズは憤懣やるかたない思いだ。機関車は国境を越え、枢軸基幹同盟の圏内に入った。開かずの間の要求に応じて亡命希望者五千名分のビザがオンライン認証される。
「ハーベルト。ごめんよ。ボクの身勝手で……」
単独行動を恥じ入る祥子にハーベルトは優しい声をかけた。
「エルフリーデ大総統は慈悲深いお方。わかったでしょ。一人の異世界逗留者のためにここまで目をかけてくれるのよ。それにゲルマニアは豊穣文化の免疫を獲得したの。ワールドクラスの差異は優秀な科学者たちが克服してくれたわ」
「ごめんッ!」
祥子は両掌を頭上で打ち鳴らし、深くこうべを垂れる。
「気にしないで」
ここまではハーベルトの思惑通りだ。自尊心の権化である高美が大総統の支配下に入りたがるはずがない。
案の定、客車で異変が起きた。警報が鳴り響く。
「4号車以降でシステムトラブル発生。ATSが誤作動しています!」
留萌が大慌てで急制動をかける。だが列車自動制御装置はうんともすんともいわない。それどころか、信号が勝手に切り替わり、普段は使われていない路線に入った。ハーベルトが小銃を構えてデッキに向かう。
「こうなると思ったわ。祥子、行くわよ」
「ハーベルト、待ってよ」
3、4号車接続部分。バリバリと銃撃が聞こえる。狙撃対象は連結器だ。それは列車強盗やテロに備えて特別頑丈な造りになっている。業を煮やしたハーベルトが徹甲弾を取り出す。連結器が爆散し、車両の間に距離が空き始めた。分離工作に対する妨害がない事に祥子が気づいた。
「ハーベルト、これってひょっとして?」
「そうよ。高美はこれを狙ってたのよ」
「列車なんか奪ってどうするんだろうね?」
「そこじゃないわ。彼らは自由が欲しかったのよ」
ハーベルトは遠ざかっていく車両を悲しげに見送った。その前途は明るくない。一転にわかに掻き曇り、赤紫色の毒々しい雲が青白い雷を伴っている。
「あんまり穏やかじゃなさそうだね。ハーベルト。この先はどこに続いているの?」
「永劫回帰惑星。プリリム・モビーレの地獄大陸。『寂寥の漠野』駅。薄暗くてジメジメして肌寒い場所よ。彼らは未来永劫、彷徨うでしょうね。あ~ヤダヤダ。わたしはまっぴらごめんだわ」
したり顔で答えるハーベルトに祥子は当然の質問を投げた。
「キミは旅行したことがあるの?」
「りょ、旅行ってもんじゃないわ! ええ、誰が好き好んでいくもんですか!!」
物凄い剣幕に祥子は面を食らう。そして、しまったというような顔をした。ハーベルトは複雑な過去を背負っているようだ。
◇ ◇ ◇ ◇
寂寥の漠野。陽の光が届かぬ深海のような世界に幾何学的な奇岩が聳えている。到着した途端に車両と駅舎が砂のように崩れおちた。乗客の所持品も同様の結果をたどった。つまり、一行は裸も同然だ。これでは文明を咲かせることは不可能だ。問題は食料の確保だ。石をひっくり返しても虫一匹這い出るどころか、苔も見当たらない。
「ど~すんのよ~~」
途方に暮れる高美の頭上をTWX666Ωが駆け抜けていく。そして、岩の陰から屈強な男どもがあらわれた。彼らは頭に角を生やし、棘だらけの金属棒を構えている。阿鼻叫喚と鮮血が岩場に広がった。
■
戦略攻撃用潜水艦グレイバックとグロウラーは空母ライトの前哨として警戒任務に就いていたが、パッシブソナーに未知の音紋をキャッチした。最初は大型水棲哺乳類の咆哮かと思われたが、それはすぐに明らかなモールス符号であることが判明し、通信士を困惑させた。
「ドイッチェラントの音響工学世界一ぃぃぃ」
ハーベルトが電鍵をノリノリで連打する。その内容は高美の陰謀を網羅しており捨て駒を激怒させるに十二分なものだった。
現代の潜水艦戦において秘匿性は最優先課題であり、敵に塩を送るようなハーベルトの愚行は死亡フラグに直結する。即座に魚雷が贈答された。帝国海軍の伊四百は魔改造されており、船体表面に特殊な電磁コーティングが施されている。進行方向に向かって細かい溝が幾つも刻まれている。ここに帯電した粘液を流すことにより、フレミングの法則を応用した水中機動が可能となる。
急ターンで魚雷をかわし、反撃に出る。
「対潜哨戒機を使われる前に殺るわ。五百蔵艦長。浮上を」
「メーンタンク・ブロー!!」
潜水空母から祥子とハーベルトを載せた超音速垂直離着陸戦闘機「臥龍」が一機ずつ出撃した。
さっそくノーザンプトンのVLSが吼えた。艦隊空ミサイル・スタンダードがモノパルス・シーカーに複数の電波源を捉える。
「ハーベルト、ど~すんだよ。これ」
祥子の機体が反転急降下、チャフを撒き、海面を背にしてレーダー探照をやり過ごす。
「まともにやりあったら勝ち目はないわ」
ハーベルトは武器セレクターを対艦攻撃モードにセット。翼下に抱いた大型誘導爆弾を分離した。巨大な円筒が缶コーヒーを手から離すようにふわりと横倒しになった。
数秒足らずでロケットモーターに点火。水平線めがけて勢いよく蹴りだされる。
「祥子、任務終了。急いで離脱するわよ」
ハーベルト機はアフターバーナーに点火。機首を垂直にして音速に達する・
「えっ、たった二発で? ちょっとまってよー」
「今回はガチ勝負が目的ではないわ。壊してしまうにはもったいない代物よ」
なにやらハーベルトの雲行きがおかしい。その言い回しには男性的なフェティシズムの響きがあった。浪漫の申し子ハーベルトはまたしてもいけないことを考えているのか。
「壊してしまうにはもったいないって? あーっ!! ハーベルト。また、キミは『やらかす』つもりか」
彼女の胸中を祥子が暴き立てると、居直った。
「そうよ。こんな上玉。あいつらにはもったいないわ。ああ、げに恐ろしや、メカフェティズム~。デパ~ミング~」
デパーミングとは地磁気の影響で磁気を帯びた水上鋼鉄艦艇を消磁するする作業である。大型コイルに船をくぐらせ、少しずつ磁場を変化させていく。ハーベルトの放った大型爆弾は迎撃される段階から威力を発揮した。暴風雨のように降り注ぐレーダー波を攪乱し、誘導兵器自体を無用の長物にした。さらにコイル状の磁場がノーザンプトンとライトを取り巻いた。
「ハーベルト、これって?!」
大型の艦船が祥子の目の前で見る見るうちに半透明化していく。
「そうよ。禁忌科学。フィラデルフィア・エクスペリメントという奴よ。ノーザンプトンもライトも、わたしに嫁ぎなさい!」
ハーベルトはついに本懐を遂げた。あろうことか、彼女は敵艦隊を丸ごと鹵獲に成功したのだ。
あっという間に鋼鉄の塊は異世界へ旅立った。
「♪♪~どいちぇらんとの~かがくは~せかいいちー♪」
無邪気で能天気な鼻歌が南氷洋にいつまでも響いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「無茶をしますね」
超大型半潜水型ドッグ船にノーザンプトンとライトを積み終えた後、斎藤興産の海運部長があきれ返った。
「あんな難物はこの方々にお持ち帰りしていただいた方が世のためよ」
斎藤夏希は今度こそ本当の別離だと、と余韻を懐かしんでいる。
「キューブラロスの最終段階は死の受容なのだけど、夏希なら然るべき祈りを捧げられるわよね?」
ハーベルトは世界再生を担う若き経営者に事後を託した。
「ええ。教わった立体映像技術で世界の空を薔薇色で彩って見せます」
祥子が名残惜しそうに夏希の瞳を見つめている。
「そうだよね。きっとできるはず。君にはそれを支えてくれる頼もしいビリーバーが大勢ついているもの」
「ありがとう。わたしは祥子さんのビリーバーでいるわ」
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