狼の仮面

YHQ337IC

文字の大きさ
2 / 9

ルミエール・シド

しおりを挟む
(まずい、こいつはかなり危険だ)
このままでは取り返しのつかない事態になるかもしれない。
何よりもまずいのは自分までもが「狼」と認識しられてしまうことだ。
それだけはなんとしても阻止しなければ!……その一心が、彼の脳裏に天啓をもたらすことになる。

狼とは本来夜行性であり、夜に行動する動物である。
では昼間、人目のある日中ならどうか。
答えは明白。
「おまえは昼に活動できるほど狼ではない!」……狼の誇りを傷つけられる発言が狼男の逆鱗に触れたらしい。
怒りに顔を紅潮させながら飛び掛かってきた狼男。
その動きを見切った御堂が繰り出された拳をかわしながらすれ違いざま、素早く懐に飛び込み腹パンを決めると、狼男は悶絶しながら床に倒れ込む。

その隙を逃すまいと追撃の蹴りを放った御堂だったが、相手が予想以上の反応速度で反撃してきたので思わず後ろへ跳んで回避した。

するとその拍子に、足元にあった雑誌を踏みつけてしまう。
あっ、と声を上げた時には遅かった。
表紙が開くとそこには、全裸の女性のセクシーショットが満載されていたのだ。
もちろんすべて修正なしのフルカラー。
しかも、狼男が苦手とするタイプ。

――しまった、これはヤバすぎる!

御堂は戦慄する。
狼男がこちらを指差し叫んだ。
さすがにこの手の攻撃手段は予想していなかったので対処が遅れたものの、何とか間に合った。
だが狼男は攻撃態勢に入ろうとしていたため、そのタイミングで発動させても意味がない。
そこで彼は別の方法を取ることにする。
狼男の動きがピタリと止まった。
……催眠状態に陥ったのだ。
これでも駄目だった場合は最後の手段として奥の手を使うつもりでいたが、幸いにしてそれは不要だったようである。
狼男の瞳から焦点が失われていき、そして意識が消失。
それと同時に、狼の毛皮が弾けるように霧散し元の男性の姿に戻っていった。
ふうっ、危機一髪だったな。
安堵のため息を吐いた後でふと周囲を見回すと……。
そこはまるで台風が通過した後のような惨状になっていた。
部屋の壁は粉々に破壊され瓦礫の山となっており天井や壁の一部まで完全に崩落して吹き抜けの状態になっているうえ床には大量の本が散乱している状態だ。
しかもあちこちが水浸しになっていてひどい有様である。
おまけに部屋の真ん中では巨大な狼が寝そべっているのだから、もうどう言い訳しても誤魔化し切れないレベルだ。
――なんてことだ。
御堂は頭を抱えそうになる。
自分はただ狼男を懲らしめようとして戦いを挑み、その結果こんな惨事を引き起こしただけだ。
狼男自身は狼になった記憶すら残っていまい。
狼化した瞬間のことを何も覚えていないはずだ。
なのになぜ自分が狼を倒したなどという誤解が生まれるのか理解できなかったが。
しかし御堂にとっては好都合な展開でもあった。
この現場を目撃したのは狼本人ではなく人間である。
目撃者がいる以上狼は退治され、世界に平和が訪れた。
それで済むのだから。
……こうして、草薙御堂が倒したはずの狼は再び復活を遂げるのだった。
――狼男との戦いから二日が過ぎた夜のことだった。
御堂の部屋のインターホンが鳴った。
訪問者だと思って玄関に向かう。
扉を開けるとそこに立っていたのは。
……狼だった。
比喩ではない、本物の狼がそこに立ってたのだ。
体長二メートル近くはあるだろうか。
全身真っ黒な体毛で覆われた体躯。
その頭部から突き出す三角形の大きな耳と、口から除く鋭く長い牙はまさしく狼のものだ。
その双眼からは狂気の光が灯り、明らかに正気とは思えない。
間違いない、この狼こそが今回の事件の犯人だ。
そして今度こそ本当に復活したらしい。
御堂は覚悟を決めて、戦闘に備えた。
……だがその時、狼の表情が悲しげなものに変わった。
次の瞬間、牙が引っ込み両目が通常のものに戻り狼は御堂に向かって話しかけてきた。
その顔に見覚えがあった。
この狼はあの時の!?まさかあれから数日しか経っていないというのにまた狼化してしまったのか? 御堂が狼と出会って狼化した時とは状況が違うようだが。
しかし今は狼が元に戻らない理由を追求している暇はない。
狼は敵意が感じられないし会話が成立しそうだからだ。
今のうちに話を聞こうと御堂は質問することにした。
狼男に変身した直後は理性を失うというが、それは本当なのか?どうして狼化したのか自分で自覚していないのか、と。
狼の答えは以下の通りだった。
……俺は確かに狼男に変身したが、すぐに狼としての理性を取り戻し人間に戻ることができた。
なぜ狼化する現象が起きたのか理由は分からない。
しかし今回は違う。
狼としての自我ははっきりと残っているのに狼の本能に支配されてしまった。
人間に戻ろうとしても体が言うことをきかない。
……狼男の状態での理性が残っているのならば、なんとかなるのではないか? それはやってみないと分からなかった。
とにかくもう一度だけ戦おう、話はそれからだと御堂が提案しようとしたとき、背後から何者かが現れた。
その人物は狼の首を掴むと、御堂が瞬きした直後に狼の姿をした者を一瞬で気絶させてしまったのである。
そして、その人物は御堂の方を向き、自己紹介をした。
――私の名前はルミエール・シド。
この家の主であり医者でもある。
実はこの娘が、この家の前で狼に襲われるところを見たんだ。
私は狼が恐ろしかったので逃げ出してしまい助けることができなかったのだが。
だが君のおかげで娘が無事だと分かり、心の底から感謝している。
そして狼に襲われた恐怖がまだ抜けきれないのか、この通り怯えていて話すこともできない状態だったんだ。
……この娘の話によると狼に襲われてから丸一日が経過するが未だに目を覚まさないらしいのだよ。
おそらく極度の精神的ショックを受けて昏睡状態のようだね。
とりあえず私がこの狼を調べておくよ。
安心してくれ、悪いようにするつもりはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

怪異の忘れ物

木全伸治
ホラー
千近くあったショートショートを下記の理由により、ツギクル、ノベルアップ+、カクヨムなどに分散させました。 さて、Webコンテンツより出版申請いただいた 「怪異の忘れ物」につきまして、 審議にお時間をいただいてしまい、申し訳ありませんでした。 ご返信が遅くなりましたことをお詫びいたします。 さて、御著につきまして編集部にて出版化を検討してまいりましたが、 出版化は難しいという結論に至りました。 私どもはこのような結論となりましたが、 当然、出版社により見解は異なります。 是非、他の出版社などに挑戦され、 「怪異の忘れ物」の出版化を 実現されることをお祈りしております。 以上ご連絡申し上げます。 アルファポリス編集部 というお返事をいただいたので、本作品は、一気に全削除はしませんが、ある程度別の投稿サイトに移行しました。 www.youtube.com/@sinzikimata 私、俺、どこかの誰かが体験する怪奇なお話。バットエンド多め。少し不思議な物語もあり。ショートショート集。 いつか、茶風林さんが、主催されていた「大人が楽しむ朗読会」の怪し会みたいに、自分の作品を声優さんに朗読してもらうのが夢。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...