正義を捕まえた正義

朝香 龍太郎

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ストーカーの追憶

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男は,過去に4度,自殺直前の人に出会い,そのうち3人を自殺から救ったのだった。

その3人は、みんな首を吊ろうとしていた。
自殺なんてものは,並々ならぬ覚悟が必要なのだろう。そしてその覚悟を済ませているのだろう。
しかし彼らは皆,何かに怯えていた。
涙を流していた。

男は彼らに話しかけた。
「何をしているんだ?」
びっくりしたような顔でこちらを向く。そして全員こう言った。
「今から死にます。邪魔しないでください。」
男は負けじとこう言い返した。
「一度僕に,何故自殺するのかを話してくれませんか?これは単純に僕の興味ですよ。」 
そう言うと,彼らは縄から手を離し,男に話した。
彼らの自殺する原因はさまざまだった。

1人はいじめだと言った。
クラスの全員から冷たい目で見られ,先生も助けてくれないそうだ。
「辛いなら,逃げてもいいんだよ。転校なんかも悪いことじゃない。でも,彼らに一矢報いたいなら,証拠を集めて,裁判をしてみてはどうですか?あなたの状況なら,絶対に勝てますよ。」

「人間のクズみたいなのに負けて悔しくないか?アイツらを地獄に落としてから逃げても遅くないんだよ。」
そう言うと,自殺を諦めた。

2人目は失恋だった。
5年間交際した恋人を,親友にとられたそうだった。そのショックで今に至ったようだ。
「あなたを愛してくれる人なら,また現れますよ。もちろん恋人をとられ,失った悲しみなら,僕もわかります。でも,生きてさえいれば,またいい人に巡り会えるかもしれない。もしかしたら,その恋人が帰ってくるかもしれない。」

「生きてさえすれば,愛してくれる人は必ず現れますよ。あなたは十分やさしいですから。」
そう言うと,自殺を諦めた。

3人目は喪失だった。
その人は,持っていた地位も,家も,金も全て奪われた。両親からは,クズだの要らないだの散々罵倒されたそうだ。
「生きてさえいれば,何回でもやり直せますよ。あなたは今死ぬべきじゃない。仕事を見つけて,金を稼いで,もう一度,地位を気づけばいいよ。
私の友達が会社を経営しています。よかったら,紹介しますよ?」

「死ななければ,いつでも再出発できるんですよ。行きましょうよ。」
そう言うと,自殺をやめた。

こうして男は,3人の自殺志願者を救った。

そして今から一年前,彼女に出会った。
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