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9 徴税官がやってきた
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「確かに。確認いたしました」
村ができて一月。領都から徴税官がやってきた。
元々、加増された辺境で増税された分を賄うための辺境開拓。村が出来る前から備蓄が出来ていたので問題ないけど、世知辛いなあ。
「侯爵閣下はよいご子息をお持ちですな」
「いえいえ。侯爵家のお力あっての事です」
俺は侯爵の息子だが、愛人が産んだ七男。侯爵子息だぞ、と主張するとあちこちから叩かれる。あくまで侯爵家に仕えてますよ、という態度は、領官時代から変わらない。
家族の前では畏まらないけど、親類縁者やそれに集まる人たちは、貴族や名家出身ばかりなのでうるさいんだ。
辺境開拓が、普通の開拓村レベルだったらよかったんだけれど、一月で村人一万人。村の規模は開拓地全部。
辺境地は山まで合わせると侯爵領より広く、開拓し放題なので、後ろ盾のない七男が権力を持ち始めていると、目をつけられているようだ。
ある程度開拓が終わったら、親父が代官をよこすので、実際は権力なんかないんだけどね。
徴税官もお供の人達も、俺に対する視線がきついきつい。
次男がいてくれれば、違ったんだろうけど、長男次男はここにいることを知られたくないみたいで、雲隠れしている。
集められた村人は、侯爵家令息達の顔は知らないし、長男の配下は箝口令が敷かれている。
親父も、気を利かせて顔見知りをよこしてくれればよかったのに、きたのは普通のお役人なんだよね。
「しかし農地を拝見させていただきましたが、わずな期間でよくここまで開拓出来ましたね」
「侯爵家のお力があればこそです」
お茶を飲みながらニコニコと小物っぽく笑う。
俺が侯爵の息子なのも、元領都の文官だったのも知られている。
そのご縁で侯爵家のお力をお借りしたんですよ、と遠回しに伝えた。
一万人の衣食住を支える規模の土地を、一人で開拓したと知られると、まずい事になるからね。
「聞くところによりますと、リュート様はお母様に似て魔法への造詣が深いとか」
なんだこの人、ぐいぐいくるな。
母は確かに魔法が得意で兄弟達にも教えていた。
噂で魔法王国出身とか言われてたから、俺が魔法を使えてもおかしくはないんだけど、この規模はダメだろ。
「なにか、秘訣があるのでしょうか」
スキルだよ、スキル。
賢者のスキルで魔法無双したの。
とは言えないもんな。
スキル至上主義の隣国程ではないけど、この国も有用なスキルが使えれば王宮勤めをして下っ端貴族ぐらいにはなれる。
それなのに、一応貴族令息がスキルを隠して木端役人になってたと分かったら、痛くもない腹を探られるもんなあ。
「侯爵家のご威光があればこそです」
困った時の侯爵家。
これ以上、なんも出てこないぞ。
「さようでございますな。侯爵家のご子息方は皆様素晴らしいスキルをお持ちだとお聞きします。リュート様も、開拓に適したスキルをお持ちの上での抜擢でしょうか」
うわあ、どうしよう。
目の前の役人は相変わらずにこにこ笑ってる。
何が知りたいんだ?
俺のスキルか?
親父のの方針か?
親父がなんで俺を使ったかなんて、スキルしかねぇよな。
まずい、侯爵家のお力で答えてらんねえ!
「い、いやあ、わたしなどに大層なスキルはありません。全て侯爵家のお力によるものです。はは、は、は」
しばらく俺をじっくりと見ていた役人は、にんまりと笑った。
「ダウトー。あからさまにあやしんでくれと言わんばかりの回答だね」
「その声、アーサーか?!」
「あったり~」
役人が右手を上げ、耳元でパチンと指で音を鳴らすと、中年の小役人の姿が消えて、一つ年上の兄の姿が現れた。
六男アーサー。
兄弟の中で、総領姫に次いで家格の高い母方の実家を持つ公爵家の孫。
母方の実家のあまりある権力と金で定職につかずふらふらしてる遊び人。
「久しぶりだね。リュート。君がいなくなって、寂しかったよ」
アーサーはテーブルの向こうから、ぴょんと飛び跳ねて、俺に飛びついた。
「わ、わかったから離れてくれ」
いくら小柄で女顔でも、男に抱きつかれたくない。
いや、うちの兄弟、スキンシップ好きだけど。
「ダメ。お仕置きだよ。いまみたいな対応じゃ、すぐになにかあるってバレちゃうだろ。君のスキルは簡単に玉座が狙えるくらい強力なんだから。ちゃんと隠さないとダメだろ」
満面の笑顔で、頬をすりすりするのやめてくれ。
「そんな技量、俺にあるわけないだろ?!」
「そこで提案です。この、金も権力も美貌も有り余っているアーサー様を渉外担当にやとわないか」
いろいろ間違ってるから。
だいたいお前、次期公爵だろ?
親世代が女ばっかで男尊女卑の公爵家唯一の男孫だろ!
「公爵家の修行があるだろ!」
「ないよ。なくなったの」
「へ?」
「嫡孫に続いて男孫が三人産まれた上、母上にも歳の離れた弟が産まれたの。爺さんもしばらく現役だし、出る幕ないよ」
なんてこった。
侯爵家の跡目争いはでも安牌が加わるのか。
「なんか誤解してるだろ。言っとくけど、侯爵家の跡目に興味はないからね。辺境でのんびりまったりスローライフ送りたいんだよ」
いいだろ? 帰ると叔父叔母に殺されるから。と、言われれば嫌とは言いにくい。
俺自身、侯爵家の跡目争いを避けて逃げてたし、アーサーも子どもの頃は公爵家唯一の男孫になるなんて思わなかったから、歳の離れた弟として一緒に可愛がられてたし。
「わかったよ」
「リュートならそういうと思ってたよ」
ありがとう、と言ってまたすりすりするアーサーを、何故かアーサーのお付きの人たちは、ハンカチ片手に涙目になって眺めていた。
村ができて一月。領都から徴税官がやってきた。
元々、加増された辺境で増税された分を賄うための辺境開拓。村が出来る前から備蓄が出来ていたので問題ないけど、世知辛いなあ。
「侯爵閣下はよいご子息をお持ちですな」
「いえいえ。侯爵家のお力あっての事です」
俺は侯爵の息子だが、愛人が産んだ七男。侯爵子息だぞ、と主張するとあちこちから叩かれる。あくまで侯爵家に仕えてますよ、という態度は、領官時代から変わらない。
家族の前では畏まらないけど、親類縁者やそれに集まる人たちは、貴族や名家出身ばかりなのでうるさいんだ。
辺境開拓が、普通の開拓村レベルだったらよかったんだけれど、一月で村人一万人。村の規模は開拓地全部。
辺境地は山まで合わせると侯爵領より広く、開拓し放題なので、後ろ盾のない七男が権力を持ち始めていると、目をつけられているようだ。
ある程度開拓が終わったら、親父が代官をよこすので、実際は権力なんかないんだけどね。
徴税官もお供の人達も、俺に対する視線がきついきつい。
次男がいてくれれば、違ったんだろうけど、長男次男はここにいることを知られたくないみたいで、雲隠れしている。
集められた村人は、侯爵家令息達の顔は知らないし、長男の配下は箝口令が敷かれている。
親父も、気を利かせて顔見知りをよこしてくれればよかったのに、きたのは普通のお役人なんだよね。
「しかし農地を拝見させていただきましたが、わずな期間でよくここまで開拓出来ましたね」
「侯爵家のお力があればこそです」
お茶を飲みながらニコニコと小物っぽく笑う。
俺が侯爵の息子なのも、元領都の文官だったのも知られている。
そのご縁で侯爵家のお力をお借りしたんですよ、と遠回しに伝えた。
一万人の衣食住を支える規模の土地を、一人で開拓したと知られると、まずい事になるからね。
「聞くところによりますと、リュート様はお母様に似て魔法への造詣が深いとか」
なんだこの人、ぐいぐいくるな。
母は確かに魔法が得意で兄弟達にも教えていた。
噂で魔法王国出身とか言われてたから、俺が魔法を使えてもおかしくはないんだけど、この規模はダメだろ。
「なにか、秘訣があるのでしょうか」
スキルだよ、スキル。
賢者のスキルで魔法無双したの。
とは言えないもんな。
スキル至上主義の隣国程ではないけど、この国も有用なスキルが使えれば王宮勤めをして下っ端貴族ぐらいにはなれる。
それなのに、一応貴族令息がスキルを隠して木端役人になってたと分かったら、痛くもない腹を探られるもんなあ。
「侯爵家のご威光があればこそです」
困った時の侯爵家。
これ以上、なんも出てこないぞ。
「さようでございますな。侯爵家のご子息方は皆様素晴らしいスキルをお持ちだとお聞きします。リュート様も、開拓に適したスキルをお持ちの上での抜擢でしょうか」
うわあ、どうしよう。
目の前の役人は相変わらずにこにこ笑ってる。
何が知りたいんだ?
俺のスキルか?
親父のの方針か?
親父がなんで俺を使ったかなんて、スキルしかねぇよな。
まずい、侯爵家のお力で答えてらんねえ!
「い、いやあ、わたしなどに大層なスキルはありません。全て侯爵家のお力によるものです。はは、は、は」
しばらく俺をじっくりと見ていた役人は、にんまりと笑った。
「ダウトー。あからさまにあやしんでくれと言わんばかりの回答だね」
「その声、アーサーか?!」
「あったり~」
役人が右手を上げ、耳元でパチンと指で音を鳴らすと、中年の小役人の姿が消えて、一つ年上の兄の姿が現れた。
六男アーサー。
兄弟の中で、総領姫に次いで家格の高い母方の実家を持つ公爵家の孫。
母方の実家のあまりある権力と金で定職につかずふらふらしてる遊び人。
「久しぶりだね。リュート。君がいなくなって、寂しかったよ」
アーサーはテーブルの向こうから、ぴょんと飛び跳ねて、俺に飛びついた。
「わ、わかったから離れてくれ」
いくら小柄で女顔でも、男に抱きつかれたくない。
いや、うちの兄弟、スキンシップ好きだけど。
「ダメ。お仕置きだよ。いまみたいな対応じゃ、すぐになにかあるってバレちゃうだろ。君のスキルは簡単に玉座が狙えるくらい強力なんだから。ちゃんと隠さないとダメだろ」
満面の笑顔で、頬をすりすりするのやめてくれ。
「そんな技量、俺にあるわけないだろ?!」
「そこで提案です。この、金も権力も美貌も有り余っているアーサー様を渉外担当にやとわないか」
いろいろ間違ってるから。
だいたいお前、次期公爵だろ?
親世代が女ばっかで男尊女卑の公爵家唯一の男孫だろ!
「公爵家の修行があるだろ!」
「ないよ。なくなったの」
「へ?」
「嫡孫に続いて男孫が三人産まれた上、母上にも歳の離れた弟が産まれたの。爺さんもしばらく現役だし、出る幕ないよ」
なんてこった。
侯爵家の跡目争いはでも安牌が加わるのか。
「なんか誤解してるだろ。言っとくけど、侯爵家の跡目に興味はないからね。辺境でのんびりまったりスローライフ送りたいんだよ」
いいだろ? 帰ると叔父叔母に殺されるから。と、言われれば嫌とは言いにくい。
俺自身、侯爵家の跡目争いを避けて逃げてたし、アーサーも子どもの頃は公爵家唯一の男孫になるなんて思わなかったから、歳の離れた弟として一緒に可愛がられてたし。
「わかったよ」
「リュートならそういうと思ってたよ」
ありがとう、と言ってまたすりすりするアーサーを、何故かアーサーのお付きの人たちは、ハンカチ片手に涙目になって眺めていた。
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