32 / 35
32
しおりを挟む
「お兄様、聞いてください。お母様が使用人を百人つけるとおっしゃるのです」
王宮から戻ってきた兄を見つけたアマーリエは、兄をサロンに連れて行って早速愚痴りだした。
身振り手振りをつけて母親との会話を再現する妹はとても可愛い。
「ははは、母上らしいな」
「お兄様はどうされていたのですか?」
母のお忍びでの二人旅というのは埒外としても、兄の短期留学はどうだったのだろう。
「俺は男だし、お忍びだったから一人で済んだ」
「ずるいです」
妹にぽかぽかと殴られて兄は至福の表情を浮かべる。
王子の婚約者時代はアマーリエも気を張っていたのでなかなかこんなやりとりは出来なかった。
「なんとかなりませんか?」
アマーリエが眉を顰めて懇願してくる。よほど使用人百人は嫌らしい。
だが、一緒に住むか、隠れて住むかの差にしかならないだろうが。
なんだかんだ言って、アマーリエは大切に守られてきた姫だ。
公爵家一門はこの留学に際して、わずかの危険も許さないだろう。
その気持ちは分かるが、アマーリエの話を聞くと、お忍びで一学生として留学したい、という希望があると分かった。
妹のお願いはなんとしても聞いてあげたい。騎士団の面々には別の理由を用意して、陰からアマーリエを守ってもらおう。
「そうだな。なら俺の助手ということにしたらどうだろう」
いま思いついたように、イリーマスは提案してみた。最初から腹案の一つとして持っていたが、父や母の意向もある。
案の定、母は学院近くの屋敷を買い上げ、公爵邸と同じような生活をアマーリエにおくらせるつもりのようだった。
または叔父を頼り、あの防犯魔法でがちがちに固められた屋敷での生活か。
イリーマスが提案するのは第三の選択だ。
「お兄様の『助手』ですか?」
助手といってもなにをやるのだろう。
アマーリエには思いつかない。
兄の『助手』になったからといって、住むところが変わるとも思えなかった。
「ああ。俺は今度、魔導士になる」
「はい」
「偽名でな」
「?」
「そこがポイントだ。無名の魔導士の家に使用人が百人もいると思うか?」
イリーマスはニヤリと笑った。
「思いません!」
アマーリエは声高らかに主張した。
「さすがですわ、お兄様!!」
アマーリエに抱き着かれて、イリーマスはにこにこしていた。
結局、アマーリエはイリーマルと同じ、連れ合いを亡くした老婦人がやっている下宿にお世話になることになった。
元々はイリーマスの兄弟子がお世話になっていたところで、偽名を使って登録をするイリーマスの二重生活が少しでも楽になるようにと気を使ってもらった結果だ。
仲間たちは、偏屈ではないが人と関わることが少なかったイリーマスが、助手を二人連れてくるというので、どんな人が来るのか楽しみにしていた。
王宮から戻ってきた兄を見つけたアマーリエは、兄をサロンに連れて行って早速愚痴りだした。
身振り手振りをつけて母親との会話を再現する妹はとても可愛い。
「ははは、母上らしいな」
「お兄様はどうされていたのですか?」
母のお忍びでの二人旅というのは埒外としても、兄の短期留学はどうだったのだろう。
「俺は男だし、お忍びだったから一人で済んだ」
「ずるいです」
妹にぽかぽかと殴られて兄は至福の表情を浮かべる。
王子の婚約者時代はアマーリエも気を張っていたのでなかなかこんなやりとりは出来なかった。
「なんとかなりませんか?」
アマーリエが眉を顰めて懇願してくる。よほど使用人百人は嫌らしい。
だが、一緒に住むか、隠れて住むかの差にしかならないだろうが。
なんだかんだ言って、アマーリエは大切に守られてきた姫だ。
公爵家一門はこの留学に際して、わずかの危険も許さないだろう。
その気持ちは分かるが、アマーリエの話を聞くと、お忍びで一学生として留学したい、という希望があると分かった。
妹のお願いはなんとしても聞いてあげたい。騎士団の面々には別の理由を用意して、陰からアマーリエを守ってもらおう。
「そうだな。なら俺の助手ということにしたらどうだろう」
いま思いついたように、イリーマスは提案してみた。最初から腹案の一つとして持っていたが、父や母の意向もある。
案の定、母は学院近くの屋敷を買い上げ、公爵邸と同じような生活をアマーリエにおくらせるつもりのようだった。
または叔父を頼り、あの防犯魔法でがちがちに固められた屋敷での生活か。
イリーマスが提案するのは第三の選択だ。
「お兄様の『助手』ですか?」
助手といってもなにをやるのだろう。
アマーリエには思いつかない。
兄の『助手』になったからといって、住むところが変わるとも思えなかった。
「ああ。俺は今度、魔導士になる」
「はい」
「偽名でな」
「?」
「そこがポイントだ。無名の魔導士の家に使用人が百人もいると思うか?」
イリーマスはニヤリと笑った。
「思いません!」
アマーリエは声高らかに主張した。
「さすがですわ、お兄様!!」
アマーリエに抱き着かれて、イリーマスはにこにこしていた。
結局、アマーリエはイリーマルと同じ、連れ合いを亡くした老婦人がやっている下宿にお世話になることになった。
元々はイリーマスの兄弟子がお世話になっていたところで、偽名を使って登録をするイリーマスの二重生活が少しでも楽になるようにと気を使ってもらった結果だ。
仲間たちは、偏屈ではないが人と関わることが少なかったイリーマスが、助手を二人連れてくるというので、どんな人が来るのか楽しみにしていた。
1,275
あなたにおすすめの小説
〖完結〗醜いと虐げられて来た令嬢~本当は美しかった~
藍川みいな
恋愛
「お前は醜い。」ずっとそう言われてきたメリッサは、ずっと部屋に閉じこもっていた。
幼い頃から母や妹に、醜いと言われ続け、父テイラー侯爵はメリッサを見ようともしなかった。
心の支えは毎日食事を運んでくれるティナだけだったが、サマーの命令で優しいふりをしていただけだった。
何もかも信じられなくなったメリッサは邸を出る。邸を出たメリッサを助けてくれたのは…
設定はゆるゆるです。
本編8話+番外編2話で完結です。
【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。
やまぐちこはる
恋愛
領地が災害に見舞われたことで貧乏どん底の伯爵令嬢サラは子爵令息の婚約者がいたが、裕福な子爵令嬢に乗り換えられてしまう。婚約解消の慰謝料として受け取った金で、それまで我慢していたスイーツを食べに行ったところ運命の出会いを果たし、店主に断られながらも通い詰めてなんとかスイーツショップの店員になった。
貴族の令嬢には無理と店主に厳しくあしらわれながらも、めげずに下積みの修業を経てパティシエールになるサラ。
そしてサラを見守り続ける青年貴族との恋が始まる。
全44話、7/24より毎日8時に更新します。
よろしくお願いいたします。
婚約破棄は嘘だった、ですか…?
基本二度寝
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」
婚約者ははっきり宣言しました。
「…かしこまりました」
爵位の高い相手から望まれた婚約で、此方には拒否することはできませんでした。
そして、婚約の破棄も拒否はできませんでした。
※エイプリルフール過ぎてあげるヤツ
※少しだけ続けました
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。
アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。
この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。
生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。
そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが…
両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。
そして時が過ぎて…
私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが…
レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。
これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。
私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。
私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが…
そんな物は存在しないと言われました。
そうですか…それが答えなんですね?
なら、後悔なさって下さいね。
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる