白紙にする約束だった婚約を破棄されました

あお

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「お兄様、聞いてください。お母様が使用人を百人つけるとおっしゃるのです」

 王宮から戻ってきた兄を見つけたアマーリエは、兄をサロンに連れて行って早速愚痴りだした。

 身振り手振りをつけて母親との会話を再現する妹はとても可愛い。

「ははは、母上らしいな」

「お兄様はどうされていたのですか?」

 母のお忍びでの二人旅というのは埒外としても、兄の短期留学はどうだったのだろう。

「俺は男だし、お忍びだったから一人で済んだ」

「ずるいです」

 妹にぽかぽかと殴られて兄は至福の表情を浮かべる。

 王子の婚約者時代はアマーリエも気を張っていたのでなかなかこんなやりとりは出来なかった。

「なんとかなりませんか?」

 アマーリエが眉を顰めて懇願してくる。よほど使用人百人は嫌らしい。

 だが、一緒に住むか、隠れて住むかの差にしかならないだろうが。

 なんだかんだ言って、アマーリエは大切に守られてきた姫だ。

 公爵家一門はこの留学に際して、わずかの危険も許さないだろう。

 その気持ちは分かるが、アマーリエの話を聞くと、お忍びで一学生として留学したい、という希望があると分かった。

 妹のお願いはなんとしても聞いてあげたい。騎士団の面々には別の理由を用意して、陰からアマーリエを守ってもらおう。

「そうだな。なら俺の助手ということにしたらどうだろう」

 いま思いついたように、イリーマスは提案してみた。最初から腹案の一つとして持っていたが、父や母の意向もある。

 案の定、母は学院近くの屋敷を買い上げ、公爵邸と同じような生活をアマーリエにおくらせるつもりのようだった。

 または叔父を頼り、あの防犯魔法でがちがちに固められた屋敷での生活か。

 イリーマスが提案するのは第三の選択だ。

「お兄様の『助手』ですか?」

 助手といってもなにをやるのだろう。
 アマーリエには思いつかない。

 兄の『助手』になったからといって、住むところが変わるとも思えなかった。

「ああ。俺は今度、魔導士になる」

「はい」

「偽名でな」

「?」

「そこがポイントだ。無名の魔導士の家に使用人が百人もいると思うか?」

 イリーマスはニヤリと笑った。

「思いません!」

 アマーリエは声高らかに主張した。

「さすがですわ、お兄様!!」

 アマーリエに抱き着かれて、イリーマスはにこにこしていた。

 結局、アマーリエはイリーマルと同じ、連れ合いを亡くした老婦人がやっている下宿にお世話になることになった。

 元々はイリーマスの兄弟子がお世話になっていたところで、偽名を使って登録をするイリーマスの二重生活が少しでも楽になるようにと気を使ってもらった結果だ。

 仲間たちは、偏屈ではないが人と関わることが少なかったイリーマスが、助手を二人連れてくるというので、どんな人が来るのか楽しみにしていた。





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