星影ちゃんはまだ子供

まこる

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ライバル登場

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「ナツヒコ......にいちゃ」

目を合わせたまま、遥は涙を流し始めた。そして、運転席の椅子ごと、夏彦を後ろから抱き締めた。といっても、後ろから抱き締めやすい顔を、なのだが。

「うわぁあああんにいちゃああん!! 」

「うわっぷ......ちょちょ、喜びすぎだ」

遥の嗚咽が聞こえてくる。あの頃よりは大人びた嗚咽だ。しかし、顔についた手はまだまだ子供のようだった。

「もう会えないかと思っだ......帰ってきだぁ! 」

「ハハ......相変わらずちっせぇな」

「もう! ばかぁ! 」

泣きながらも、抱きついていた遥の顔は、笑っていた。

-星影邸-

あのマンションに2人で帰ってきてからというもの、美月は2人のことを暑苦しそうにずっと見ていた。それもそのはず。

「あんたらねぇ。いい加減くっつくのやめたら? 」

美月の目線の先にいたのは、苦笑を浮かべる夏彦に無理やり抱き付き、幸せそうな顔をしている遥だった。

「ムフフーン。だってナツヒコにいちゃんがここにいるんだもーん」

「ハルカ......そろそろ離れないか? ほら、動くのに不便だろ? 」

「不便でもいいのー。うちは今、幸福だからぁー! 」

夏彦に寄りかかりながら、片手を握り天井へ突き上げた。そうでもしないと表現できない喜びがあるのだ。

「まったく、イチャイチャするんなら外で遊んでおいで」

そういうと美月は、近くにあった自身のバッグから財布をおもむろに取り出し、2人に2000円ずつ配った。

「そんだけあれば十分遊べるでしょ」

「やったー! ママありがと! 」

夫婦円満ならぬ親子円満。その仲睦まじいこと。遥に反抗期はきていないようだ。もしかしたら一生来ないのかも知れない。そんなことを思いながら、夏彦は遥を車の助手席に乗せて、ドライブに出掛けた。

-ショッピングセンター-

ドライブの過程で寄ったのが、地域のライフラインとなっているショッピングセンターだった。ここならば、買い物もできればゲームセンターもある。遊ぶにはもってこいの場所である。

店内へ入り歩いていると、すれ違う多くの人々の目線を感じた。遥という絶世の美少女がいるという事実に加え、その美少女が男の腕にぶら下がるようにしてくっついて歩いていたのが衝撃だったのだ。

男性たちは羨ましそうに、女性たちは妬ましそうに2人を見ていた。

「なあハルカ。目立つからくっつくのは」

「いいじゃん久々なんだからー」

夏彦は既に現在の遥の性格を理解しつつあった。こういうときに反論をしても無駄なのだ。ギャルになってから少し自分の意見を主張するようになったか。

「あれ? ハルカぢゃない? 」

そう声をかけたのは、遥と同じ制服を来たギャル集団の1人であった。そのリーダー格とでも言おうか、一番美人なギャルは遥と話した。

「ハルカ、その男だれ? もしかして彼ピ? 」

「や、ちょっと違う! そんなわけないじゃんサキ! マジハズいんだけどぉ」

口ではそう言っているが、表情から察するに満更でもなさそうだ。遥に咲と呼ばれたギャルは夏彦に近付き、じっくりと、舐めとるように顔を見た。

「へぇ、けっこーイケメンな感じぢゃん? ハルカの彼ピじゃないんなら、ウチのにしちゃおっかなぁ」

その言葉に敏感に反応する遥。先ほどまでの満更でもなさそうなにやけ顔は消え去り、一気に対抗心を燃やす目となった。遥は、掴んでいた夏彦の腕を引っ張り、より自分に近付けた。

「ナツヒコにいちゃんはウチんだから」

「ふっふーん。当のナツっぴはどっちが好みぃ? ちっちゃいのか、フワフワなのか♡」

今まで見まいとしてきたその豊かさの象徴を、夏彦は見てしまった。1度見てしまえば虜になるほどに育っている2つの果実。実に悩ましい形をしていた。

その後、遥の方も見た。

断崖絶壁。こんな山があったらそれは山とは呼べない。壁だ。

「なぁーつぅーひぃーこぉー?? 」

「な、なんだよ......」

「あーコワイコワイ。そんなお子ちゃまぢゃなくてウチみたいな大人な女、懐に入れといたら? 」

巻き起こる波乱の恋の予感。その輪は着実に、夏彦を中心として暴れまわるのである。
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