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第28話 最後の試練、東條サチとの戦い

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『マスターっ!大丈夫ですか!?』

「ああ、運良くも背中を強くぶつけた程度だ」

「立ちなさい、勇者日向」

「言われなくても…………」

 僕は立ち上がり、黒剣を構えながら様子を見る。

 こいつ、一体何者なんだ。

 東條サチって名のってたよな。つまり、人間ってことか。でも、この背筋から凍るような感覚、これは始めて魔物相対したときに似ている。

 狩われる側の気分って言ったほうがわかりやすいかもしれない。

 とにかく、こいつはやばい。今まで戦ってきた相手とは比較にならない。

「…………では」

「んっ!?」

 また同じ動き。でもさっきの攻撃より遅いっ!!

 僕は東條サチの一太刀を黒剣で難なくと防ぐ。

「ふん…………この程度ですか?」

 防いだと思った一太刀。だが、東條サチは僕と距離をとるどころか、両者の剣が交わったこの状況を利用し押し始めた。

「うぅ…………」

 なんて、力だ。押し切られる。

 想像以上の力に僕は徐々に押されていき、足がすくんでいく。

「負けるかぁ!!」

 東條サチの刀を地面に落とすように受け流しながら、後ろへと引き下がった。

 直接、剣で交えるのは危険だ。

 力からスピードまですべて上回っている。一体、どんなステータス数値になれば、ここまでの差ができるんだよ。

 日向は苦渋くじゅうな表情を浮かべた。

「アルス、こいつの鑑定を頼む」

『わかってるんだけど…………』

「どうした?」

 アルスが少し困っている様子を見せた。

 すると、東條サチが口を開いた。

「すいません。鑑定妨害のスキルが発動していましたね。どうぞ、お好きにご覧になってください」

「おいおい、すごく余裕そうだな」

 鑑定妨害だって!?だから、アルスが困ってたのか…………でも。

 アルスの鑑定スキルは基本どんなものでも鑑定できるはずだ。それすら妨害する鑑定妨害スキルなんて、存在しないはずだ。

「アルス、あいつのステータスを見てしてくれっ!」

『…………』

「アルスっ!」

『あ、うん…………』

 こうして、映し出されるステータスを見て、僕は絶句した。

ーーーーーーーーーーーーーーー

名前:東條とうじょうサチ
レベル:測定不能 年齢:不明 天命:勇気のダンジョン管理者

力:測定不能
魔力:測定不能
耐性:測定不能
素早さ:測定不能
器用さ:測定不能

スキル一覧:剣神10 千里眼(鑑定)10 管理者権限10 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 ステータス数値の全てが測定不能、レベルすらも測定不能と表記された。

 それにスキル一覧に剣神というスキルがあった。

 たしか、スキル剣神は初代勇者の一人が所持していたスキルのはずだ。

「勝てない」

 思わず、本音が漏れた。

 レベルが測定不能と表記されているということは、少なくとも東條サチという女の人の身体能力が限界値を超えているということだ。

 さらにスキル剣神を持っている以上、剣術では太刀打ちできない。

 そんな相手に僕が勝てるのか?いや勝てない、断言できる。

 たとえ、スキル傲慢を使ったとしても、圧倒的な力でねじ伏せられるだけだ。

 自然と膝を地面につき、ただ強大な敵を眺めた。

『マスターっ!しっかりしてっ!マスターっ!!』

 アルスの必死の呼びかけは日向には届かなかった。

 頭に駆け巡るのは、勝てないという現実と絶望だけ。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

 呼吸が荒れる、息が詰まる、こぶしが上がらない。

『マスター…………マスター…………マスター……………………日向っ!!』

「んっ!?」

『日向、まだあきらめるのは早いよ』

「あ、アルス…………」

 聞こえていなかった声が届いた。

 そうだ、まだ早い。だってまだ歩けるじゃないか、剣を握れるじゃないか。

 僕は一度地に着いた膝を持ち上げながら、黒剣を構えた。

 なんでだろう、アルスに言われるとやれる気がする。

 アルスの一言が僕に勇気をくれる。

「誰しも最初は弱きものです。それは勇者も同じ…………勇気を示しなさい、勇者日向。ここまでの道、私は見ていました。あらゆる困難を支えあう仲間と新たな力で切り開きここまできたことを。故にすべてをささげてかかってきなさい」

 その言葉にはなぜか優しさを感じた。

 敵のはずなのに、励ましの言葉を投げかけてくるなんて、お人よしもいいところだ。

「うるせぇ、え~と東條サチさん?俺は、おまえを倒して、外に出るっ!!」

「よい心がけです、勇者日向。ではここから少し本気でいきましょう」

 東條サチは口角を上げながら刀を構えた。

「少し本気って、勘弁してほしいねぇ…………」

 自然と俺の口角が吊り上がり、無意識のうちにスキル傲慢が発動していることにも気づかず、俺は前進した。

 こいつの今までの攻撃パターンから、一気に距離を詰めての一撃だ。つまり、こいつの刀は確実に一太刀で倒すことに特化した剣術だ。

 なら、相手の攻撃パターンにはめられる前に、こっちから近づいて攻撃すれば俺がやられることはない。

 溢れ出る黒雷を纏い、東條サチとの距離を一瞬で縮た。

 そして、相手に防ぐ間を与えないように全力の一撃を振り下ろした。

「ちっ、これにも反応するのかよ」

 俺の一撃は刀で簡単にはじかれた。

 確かに防がれたが、これで立場は逆転した。

 今、完全に攻撃の流れは俺にある。

 このままさらに攻撃を仕掛けて、相手に攻撃する隙を与えない。

 そう、圧倒的な力の差があるのなら、相手に攻撃させなければいい。

 そして、防御に集中し始めると必ず、隙が生まれる。その隙こそが、俺の勝機だ。

 ただひたすらの猛攻。

 休む暇もなく俺は攻撃をし続け、ついに東條サチが一瞬、ひるんだ。

 その瞬間は、ほんの一瞬、集中してみていなければ気づけないほど一瞬だった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 黒剣に魔力を込めるのに、1秒もかからない。

 ありったけの魔力を注ぎ、一気に東條サチとの距離を縮めた。

 いけるっ!

 こいつが振り向く前にこっちの攻撃が先に届く。そう確信した。

 そして、その一撃は予想を裏切ることなく直撃した。

「…………素晴らしい一撃でした。でも、足りない。この程度じゃ、私を傷つけることさえできない」

「なぁっ!?」

 俺の全身全霊の一撃を刀ではじいたわけでもなく、防御したわけでもなく、ただ微動だにもせず、平然とした顔つきで立っていた。

「力を示しなさい、覚悟を示しなさい…………勇気を示しなさい。勇者日向、あなたはまだ足りない」

 ゆっくりと刀を振り上げる東條サチを僕はただ眺めていた。

 それは、絶望がからきているのか、はたまたただ美しい姿に見惚れているだけなのか、俺自身わからない。

「汝、勇者ならば、示しなさい。汝が勇者であることを」

 刀を振り下ろした。

 俺はただそれを眺めた。よけることもせず、防御しようともせず、そして俺は心の底から思ってしまった。

 …………勝てない。

『マスターっ!!』

 アルスの叫び声とともに黒剣が眩い光を放った。
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