雨飾の森の魔女

本谷紺

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魔女と少女

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「慣れてるね」

 身長、腕の長さ、腰回り。私の体のありとあらゆる箇所の長さを測りながら、サティさんがぽつりと言った。

「採寸ですか?」
「うん」
「はい、まあ……」

 確かに、採寸されることには慣れている。

「どうしてですか」
「うーん……」

 測った数値を紙に書きつけて。

「他人に採寸されるってあんまり一般的じゃないからね」
「えっ」
「そうなのか?」

 採寸の間離れていたブレンダもこちらへ飛んでくる。

「服を作るとしたら家族のものぐらいでしょ、大抵は。店で買うなら出来合いの方が安いし、わざわざ自分の体形に合わせたものを仕立てるのはわりと贅沢なことだよ」

 言われてみれば、そうかもしれない。

 屋敷で暮らしていた頃、衣服は全て私のためにしつらえられたものだった。
 特に成長が止まるまでの間は、しばしば仕立て屋の人が部屋までやって来て採寸していったのを覚えている。
 さすがに、自分が当たり前のように身に纏っていたものが、世間の女性たちと比べてとても上質なドレスだということにはやがて気付いたけれど。

 そうか、生地がどうとか飾りがどうとか以前の話だったんだ……。

 サティさんは、それ以上掘り下げようとはしなかった。
 採寸に集中しているように見えるけれど、私の生い立ちを想像しているかもしれない。いや、既にある程度は確信めいたものがあるんじゃないだろうか。
 その上で踏み込まない。きっとそういうひとなのだろう。

 採寸はつつがなく終わり、荷物をまとめた彼は「さて、」と奥の部屋に向けて声を飛ばす。

「雨飾の魔女、僕は行くから」

 ほどなく魔女様が部屋に戻って来た。

「ああ、終わったのか。よろしく頼む」
「はいはい」
「今から発たれるのですか?」

 思わず口を挟んでしまった。
 まだ日は落ちていないけれど、じきに夕方へと向かっていく頃合いだ。森の広さを考えると、出発には遅いように思える。
 そんな私の心配を、サティさんは軽い調子で否定した。

「ああ、大丈夫。僕の足なら日暮までには街に出られるから」
「そうなんですか?」
「エルフにとっての森は、魚にとっての水のようなものだからね。
 三、四日で戻って来られると思う。支払いはその時にまとめてで」
「分かった」
「またな~」

 ブレンダに手を振り返し、サティさんは大きなリュックを背負ってドアを出て行った。魔女様から注文のあった商品をテーブルに残していったはずだけれど、それでもまだ大荷物だ。しかも、帰りには荷物が増える予定だというのに。

「あんなに大きな荷物を背負って旅をするのは大変ではないでしょうか?」
「あれはああ見えて丈夫にできてる、気にすることはない。それに、ただの荷物でもないからな」
「というと?」

 魔女様はサティさんから受け取った「商品」を見分しながら私の疑問に答える。

「俺の遣いだけに何日も費やすほど欲のない商人じゃないってことだ。街に出るなら相応に商売相手もいるだろう」
「なるほど……」

 ひとつの仕事を引き受けながら、同時に別の仕事も探す。
 商売をする人にとっては当然のことなのかもしれない。

「……そういったこと、思いつきもしませんでした」

 自分の世間知らずを噛み締めていると、魔女様が「おや」と意外そうに言った。

「商売人を目指すのか?」
「いえ、そういったわけではないのですけど」
「いやー、マーシャには無理だろ」

 間髪入れず無慈悲な茶々を入れたブレンダの頬を指先でつつく。

「無理だとは言わんが、向いてはいないだろうな」

 ま、魔女様まで……。
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