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雨飾の森
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空気が冷たい。
足元の土は湿っていて、一歩進むごとにわずかに沈むような、滑るような感触を伝えて来る。
歩き始めてどれくらい経っただろう? 顔にかかる枝葉を払う手も、すっかり冷えてしまった。
雨が降っていないことだけが幸い。――ううん、「だけ」なんて言っちゃいけない。
「マーシャ、そこの右、崖になってるから気を付けろ」
「うん、ありがとうブレンダ」
前に進むだけで手いっぱいの私に、行く道を教えてくれる親友がいる。
彼がいるから、どんな時でもそばにいてくれるから、足を止めないでいられる。凍えて震えながらでも、生きるために足掻くことができる。
歩き始めてからどれくらいの時が経ったのだろう。森に入ったのは朝だったけれど、ずっと空が曇っていて時の流れが分からない。
もう夕方かもしれない。
ただでさえ薄暗いのに、このまま夜になれば、いよいよ何も見えなくなってしまう。火を起こすための道具は持っていない。
どうにか前へ。うっすらと白くけぶる息に飛び込むように進む。
『あっ』
声を上げたのは、私とブレンダで同時だった。
永遠に続くかのような木々の連なりが唐突に途切れ、開けた場所に出た。人の手で整えられたのだろう、背の低い草花の生える土地の中に、一軒の小ぶりな家が建っていた。
やっと着いた、という泣き出したくなるほどの安堵と、本当に着いた、という驚愕。
幼い頃から数えられないほど耳にしてきた伝説。
本当に、本当だったんだ。
雨飾の森には魔女が棲んでいる。
足元の土は湿っていて、一歩進むごとにわずかに沈むような、滑るような感触を伝えて来る。
歩き始めてどれくらい経っただろう? 顔にかかる枝葉を払う手も、すっかり冷えてしまった。
雨が降っていないことだけが幸い。――ううん、「だけ」なんて言っちゃいけない。
「マーシャ、そこの右、崖になってるから気を付けろ」
「うん、ありがとうブレンダ」
前に進むだけで手いっぱいの私に、行く道を教えてくれる親友がいる。
彼がいるから、どんな時でもそばにいてくれるから、足を止めないでいられる。凍えて震えながらでも、生きるために足掻くことができる。
歩き始めてからどれくらいの時が経ったのだろう。森に入ったのは朝だったけれど、ずっと空が曇っていて時の流れが分からない。
もう夕方かもしれない。
ただでさえ薄暗いのに、このまま夜になれば、いよいよ何も見えなくなってしまう。火を起こすための道具は持っていない。
どうにか前へ。うっすらと白くけぶる息に飛び込むように進む。
『あっ』
声を上げたのは、私とブレンダで同時だった。
永遠に続くかのような木々の連なりが唐突に途切れ、開けた場所に出た。人の手で整えられたのだろう、背の低い草花の生える土地の中に、一軒の小ぶりな家が建っていた。
やっと着いた、という泣き出したくなるほどの安堵と、本当に着いた、という驚愕。
幼い頃から数えられないほど耳にしてきた伝説。
本当に、本当だったんだ。
雨飾の森には魔女が棲んでいる。
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