ある平凡な姉の日常

本谷紺

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春、二の月

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 前回精霊落としが発生した現場は、村外れの森だった。
 失踪したのは村に住む薬師の青年。いつものように薬草を採りに森へ入ったけれど、その後いつまで経っても帰らず。村人たちの捜索と、国から派遣された調査員の見解から、精霊落としと判断された。

 道のない森の中へは馬車は入れない。分担して荷物を背負い、木に目印を付けながら進むこと少し。先頭を歩いていたティニリッジ先生が足を止め、私たちを振り返った。
「よし、この辺りから始めようか」
 精霊落としの調査という名目ではあるけれど、消えた青年の足取りを追う試みはとっくに他の人たちが済ませている。
 私たちがまず行うのは、遺跡の有無を調べることだ。
 精霊落としの起きる場所はその昔、力ある精霊が棲んでいた場所だと言われている。明確な根拠がある説ではないけれど、少なくとも古代遺跡の近くで発生する傾向があるのは統計上確かだ。
 もしもこの近辺で遺跡が見つかったなら、仮設を裏付ける根拠のひとつになり得る。大切な調査だ。
 ティニリッジ研究室の五人に潜針が配られる。大きな釘のような、もしくは小さな杭のようなそれは、地中の様子を探る魔道具だ。用途が限定的なので、実物を見るのは私もこれが初めてになる。
 潜針を握って先端を地面に刺し、それを介して地中へ魔力を流し込む。地中に空洞などがあれば、反響のように跳ね返ってきた感触でそれを感じ取ることができる、という代物である。
 大切な調査を半人前の学生魔導士が手伝う理由は、この潜針というものの性質にある。
 潜針は扱いが容易で、魔力を持ち最低限の注意力のある人間であれば、誰にでも地中の調査が可能になる。反面、一刺しで調査できる面積はごく狭いため、何度も何度も場所を変えて細かな調査が必要になる。調査員の質よりも根気と人数が必要な作業なのだ。学生が挑む初めての現地調査には最適とも言える。
 ――しかし、これでさえ、扱えるわけではない。
 男子たちの輪の外に立つ私に、ティニリッジ先生はにこりと笑った。
「バーウィッチ、君は確か、魔法薬学の成績も優秀だったね」
「恐れ入ります」
「コルマコン草やザンソを見分けることは?」
「出来ますわ」
「よろしい。
 知っての通り、それらの植物は魔力の流れのある土地によく生えると言われている。君には植生の位置を見て地図に記入していってもらいたい」
「かしこまりました」
 動植物の分布を見るのは、土地の調査ではよくある手法だ。魔力のない私には潜針が使えないけれど、この役割なら問題なく担うことができる。ついて来ただけのお荷物にならずに済んで、私は内心安堵した。
「不慣れな森で単独行動は危険だから、二人一組で行動するように。バーウィッチは――」
「私と組めば良いだろう」
 間髪入れずにオズ先生が言った。ティニリッジ先生と一緒にその顔を見てしまう。
「……まあ、そうですね。君もそれでいいかな?」
「え、ええ、もちろん」
「では、我々は西の方角から調査を開始する」
 展開の速さに咀嚼が間に合わない私をよそに、オズ先生は淡々と言い放つと草を踏み分け進み始めるものだから、慌ててその後を追う他なかった。あまり遠くまで行かないでくださいよ、とティニリッジ先生の声を背に受けながら。
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