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春、二の月
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どだだだだっ
バンッ!!
「お姉様っ!!!」
激しい音と大声とが立て続けに押し寄せて、私は一瞬にして眠りから引き戻された。
何だかんだとしっかり眠っていたらしく、室内はすっかり暗くなっていた。そして部屋の出入り口には人影。誰かなんて推測するまでもない。
ベッドサイドのランプを灯す。
光の輪の中に飛び込んできたのはエリィだ。
「エリ」
「お姉様! ああっ、なんてお労しい!」
「だい」
「私がお傍にいられなかったばっかりに! やはり授業よりもこちらを取るべきでしたわ! お姉様をおひとりで辛い目に遭わせるくらいなら、補修や課題などいくらでも負いましたのにっ!」
「そん」
「けれどもうご安心くださいまし! 精霊だろうと何だろうと、お姉様を苦しめるものはこのエリアデルが許しませんわ!」
「エリィ、ちょっと、ちょっと落ち着いて」
嘆き、怒り、昂る感情のままに言葉を連ねるエリィをどうにか宥めようとしていると。こんこんとドアの方でノックの音が鳴った。
見れば、開け放たれたままのドアの傍らに佇むラスティが。
「入っていいわよ」
許可すると彼も室内へ入って来る。ちゃんと後ろ手にドアも閉めて。
「今着いたの?」
「ええ、今さっき。オズ先生からあらかた聞きました」
「でしょうね」
エリィの興奮ぶりを見れば明らかだ。正直に言えば、私の口から説明せずに済んだことに安堵した。先生には申し訳ない。
「二人とも。今回のことは私にも予想できなかった事故のようなものだから、誰にも責任はないの。先生方を悪く思わないでちょうだいね」
エリィは明らかに不満そうな顔をした。けれど、不満そうな顔のまま「分かったおりますわ」と応える。
「仔細伺いましたもの。他ならぬお姉様が決めて参加された調査なのですから、責を押し付けるのはお姉様に対しても失礼になりますわ。
それはそれとしてお姉様を害した何者かに対しては怒り心頭ですけれど」
「同じく」
思っていたよりも理性的でいてくれてひとまず安心した。最悪、事態を知るなり暴れ始める可能性も危惧していた。少しエリィを侮りすぎていたようだ。
「じゃあ、明日のことも」
「もちろん引き受けましたわ」
「同じく」
迷いのない返答。やはりだ。分かっていたことだけれど、また胸に不安が湧いてくる。
「気を付けてちょうだいね。少しでも危険を感じたらすぐに逃げるのよ?」
「分かってますよ。ちゃんとオレがお守りします」
「ラスティも。自分の身を大切にして」
釘を刺せば、はーいと気のない返事を寄越す。いつもエリィよりは冷静だけれど、自分を顧みないところは大差ない。
ラスティを手招きする。呼ばれるがままに顔を近付けた彼の頭に触れる。向かって右側の額、髪の生え際。うっすらと今も傷跡が残っている。
「何です?」
「何でもないわ」
二人が私を過剰なまでに慕ってくれるようになったのは精霊落としの後からだ。自分の魔力と引き換えに全員を救った私を英雄か何かのように思っているらしい。
そんな風に特別視されるようなことではないと思うのだけれど。
「私はお姉様と一緒のお部屋で良いのでしょう? 一緒に眠るのは久しぶりですわね!」
「エリィ様、まずは夕飯にしましょう。腹が減って死にそうですよオレは」
過保護がすぎると思っていたけれど、こうして二人が傍にいると心が安らぐ自分がいる。兄弟離れできていないのはお互い様だ。
バンッ!!
「お姉様っ!!!」
激しい音と大声とが立て続けに押し寄せて、私は一瞬にして眠りから引き戻された。
何だかんだとしっかり眠っていたらしく、室内はすっかり暗くなっていた。そして部屋の出入り口には人影。誰かなんて推測するまでもない。
ベッドサイドのランプを灯す。
光の輪の中に飛び込んできたのはエリィだ。
「エリ」
「お姉様! ああっ、なんてお労しい!」
「だい」
「私がお傍にいられなかったばっかりに! やはり授業よりもこちらを取るべきでしたわ! お姉様をおひとりで辛い目に遭わせるくらいなら、補修や課題などいくらでも負いましたのにっ!」
「そん」
「けれどもうご安心くださいまし! 精霊だろうと何だろうと、お姉様を苦しめるものはこのエリアデルが許しませんわ!」
「エリィ、ちょっと、ちょっと落ち着いて」
嘆き、怒り、昂る感情のままに言葉を連ねるエリィをどうにか宥めようとしていると。こんこんとドアの方でノックの音が鳴った。
見れば、開け放たれたままのドアの傍らに佇むラスティが。
「入っていいわよ」
許可すると彼も室内へ入って来る。ちゃんと後ろ手にドアも閉めて。
「今着いたの?」
「ええ、今さっき。オズ先生からあらかた聞きました」
「でしょうね」
エリィの興奮ぶりを見れば明らかだ。正直に言えば、私の口から説明せずに済んだことに安堵した。先生には申し訳ない。
「二人とも。今回のことは私にも予想できなかった事故のようなものだから、誰にも責任はないの。先生方を悪く思わないでちょうだいね」
エリィは明らかに不満そうな顔をした。けれど、不満そうな顔のまま「分かったおりますわ」と応える。
「仔細伺いましたもの。他ならぬお姉様が決めて参加された調査なのですから、責を押し付けるのはお姉様に対しても失礼になりますわ。
それはそれとしてお姉様を害した何者かに対しては怒り心頭ですけれど」
「同じく」
思っていたよりも理性的でいてくれてひとまず安心した。最悪、事態を知るなり暴れ始める可能性も危惧していた。少しエリィを侮りすぎていたようだ。
「じゃあ、明日のことも」
「もちろん引き受けましたわ」
「同じく」
迷いのない返答。やはりだ。分かっていたことだけれど、また胸に不安が湧いてくる。
「気を付けてちょうだいね。少しでも危険を感じたらすぐに逃げるのよ?」
「分かってますよ。ちゃんとオレがお守りします」
「ラスティも。自分の身を大切にして」
釘を刺せば、はーいと気のない返事を寄越す。いつもエリィよりは冷静だけれど、自分を顧みないところは大差ない。
ラスティを手招きする。呼ばれるがままに顔を近付けた彼の頭に触れる。向かって右側の額、髪の生え際。うっすらと今も傷跡が残っている。
「何です?」
「何でもないわ」
二人が私を過剰なまでに慕ってくれるようになったのは精霊落としの後からだ。自分の魔力と引き換えに全員を救った私を英雄か何かのように思っているらしい。
そんな風に特別視されるようなことではないと思うのだけれど。
「私はお姉様と一緒のお部屋で良いのでしょう? 一緒に眠るのは久しぶりですわね!」
「エリィ様、まずは夕飯にしましょう。腹が減って死にそうですよオレは」
過保護がすぎると思っていたけれど、こうして二人が傍にいると心が安らぐ自分がいる。兄弟離れできていないのはお互い様だ。
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