【R18】INVADER

深山瀬怜

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竜胆

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「あらあら、随分酷い状態にされちゃって」
 気を失っているカノンは、目の前で起きた惨劇には気付かなかった。エルマは変種の触手を食い荒らしている深紫色の触手を手に取る。
「カノンは最初に寄生されてから結構時間が経ってるから、体も変化してるはずよね。それと……元々の触手とカノンの思惑が一致して、変異したってところかしら。この子たちがいれば変種の駆逐は少し楽になりそうね」
 まずはこれ以上殖えないように大本を叩くというのはカノンと同じ考えだった。エルマはミルタがカノンを捕らえようとするのに便乗して〈レェム〉の本拠地を襲撃したのだった。これで触手たちの目的は果たした。あとはエルマが自分の目的を達成する番だ。
「こんなにすぐに廃人になるようなものは趣味じゃないのよ。それでもカノンは随分抵抗していたみたいだけど」
 そもそも現地調査を主とする調査員だったのだ。他惑星での有事に備えて、ある程度の拷問などに耐える訓練はしている。薬剤に対する耐性も多少はあるだろう。もちろん催淫効果を無効化できるというわけではなく、精神力で対応している状態ではあるが。
「私はあなたたちがソレア中に広がろうがどうだっていいのよ。ただあのミルタって子がカノンに手を出したのが気に入らなかっただけで」
 エルマは自らに従えた触手に向かって言う。もとよりエルマは触手の目的自体にはあまり興味がなかった。その目はいつもカノンだけを見つめていた。優秀な調査員として評価されていく姿を、ただまっすぐにソレアのことだけを考えて行動する姿をずっと見てきた。
「アシュレイはロイコクロリディウムを例に出していたけれど……あれはカタツムリが普通だったら絶対にしない行動を取らせるのよね。でもあなたたちは、本人の中にまるでない行動を引き起こす程ではない。触手に寄生された人間の行動は、その人がやりたいと思っていることの中で、触手に都合がいいものを引き出されて増幅されている、と考えた方がいいわ」
 触手にこんなことを説明しても、彼らがそれを理解できるかどうかはわからない。けれどエルマは続けた。
「人間が考えることは一つではないもの。あなたたちは私たちの思考を侵蝕し、歪めてはいるけれど、その全てを奪うのは難しいか、非常に時間がかかってしまうか――リュカ君だって、カノンに対する思いが全くなければ、ああはならなかったのよ」
 エルマは自分を正当化するような言葉を吐く。しかしそんな言葉でカノンが納得することがないのはわかっていた。触手に説明をしたところで特に意味がないということも。だからこれはほとんど独り言のようなものだ。
「だから……これも、私の本当の気持ちであることに間違いはない」
 エルマは意識を失っているカノンの頬を撫でた。その体はもう完全に蝕まれてしまっているだろう。ミルタにはカノンの意思は必要なかった。ただその体があればよかった。だから、容赦のない責めを実行したのだ。
「このままにしておいたら本当に廃人まっしぐらなのは……気に入らないわね」
 次の瞬間、エルマから伸びた無数の触手の群れがカノンの体を包み込んだ。蠢き、這いずり、絡みつくその青紫色の中に深紫のものが混ざり始める。
「あら、あなたたちも混ざりたいの? そうね、あなたたちの力があった方が効率がいいかも」
 エルマは微笑みながら、一本の触手をカノンの口の中に潜り込ませた。その衝撃でカノンが薄目を開ける。しかしその目はどこも見てはいなかった。
「ほとんど実験みたいなものだけど、やらないよりはマシだものね」
 カノンの口の中に入り込んだ触手は、そのままカノンの食道の中を進んでいく。エルマはその触手が目的の場所に到達したことを感知すると、いつもとは違う液体を吐き出させた。どれほど効果があるかはわからないが、やらないよりはいい。これは触手が女性の子宮以外に卵を産みつけるときに使っている洗浄液を少し変化させたものだ。液体を吐き出し終わった触手を引き抜くと、カノンが嘔吐く。カノンが吐き出したものに深紫の触手が群がるのを見て、エルマは微笑んだ。
「元々は変種の方だから、あなたたちには毒にはならないのかしらね。調査のしがいがありそうだから、後で何個か持って帰ろうかしら」
 のんびりと呟いたエルマは、再びカノンに向き直る。ぼんやりと宙を彷徨っていたその視線がエルマに向けられた瞬間、エルマはこの上ない悦びを感じた。
「エル、マ……?」
「久しぶりに会ったと思ったら、随分な状態になってるじゃない、カノン? 綺麗な声も掠れちゃって」
「ど、……して、ここ……に」
 エルマはカノンがどこで何をしているかをずっと見ていた。いつでも連れ戻せるとわかっていてそうしなかったのは、孤独な戦いに苦しむ様を眺めていたかったからだ。
「まさか、助けに来てくれたとでも思ってる? だとしたらおめでたい頭をしてるわね。私はあなたの可哀想な姿を見るとすごく興奮するの。だから――簡単に壊れてもらっちゃ困るのよ」
 身勝手な理由は、紛れもなくエルマの本心だった。カノンはエルマの答えを聞いてもなおぼんやりとした目をしている。その姿は確かに惨めとは言えたが、エルマが好むものではなかった。
「それに、この子たちは変種が気に入らないみたいだし。だから外に出ようと思ってね」
「エルマ……また……」
「人殺しはお互い様でしょ?」
 そう言いながらも、エルマは自分とカノンの大きな違いについては認識していた。エルマにとっては邪魔な人間を排除しただけだが、カノンにとっては犠牲にするしかなかった人間だ。カノンには罪悪感に苦しんだ夜もあっただろう。しかしそれはエルマを興奮させる材料にしかならなかった。
「そんなことよりもね、カノン」
 エルマは自分の触手を使ってカノンの全身をなぞる。触れるか触れないかの動きでもカノンは体をよじらせる。
「あの変種の毒を、全部吸い出してあげる」
 エルマの言葉を合図に、青紫色の触手の先が二つに分かれる。その先には小さな牙のようなものがついていて、まるで無数の蛇が鎌首をもたげているようにも見えた。
「っ、や……やめ……んんん……ッ!」
 触手たちがカノンの肌に一斉に牙を突き立てる。痛みはなかった。その代わり、体の中の何かを吸い上げられているような感覚にカノンは悶える。
 カノンにとって何よりも恐ろしかったのは、それを快感として受け取ってしまう自分の肉体だった。散々蹂躙された蜜壺から垂れた透明な液体を、エルマは決して見逃さない。
「っ、ぁあ……ぅ……う、ん……っ」
 気が狂ってしまいそうだとカノンは思った。けれどそう思えるほどに自分が自分を取り戻しているという方が正解であることもわかっていた。変種の体液を嫌というほど注がれ、自分自身が失われてしまっていたはずなのに、少しずつ頭の中の霧が晴れていく。
「このくらいでいいかしらね。気分はどう?」
「……どう、して」
 エルマはカノンを壊そうとしていたのではなかったのか。あの浴室の中で、昼夜を問わずカノンを蹂躙していた張本人が、なぜカノンを助けるような真似をするのか。カノンはエルマが考えていることが理解できなかった。
「助けたわけじゃないわよ。ただ――カノンを壊していいのは私だけなの」
「……エルマに壊されるつもりもないけど」
「あら、そんな口がきけるくらいには元気になったのね。でもまだやめないわよ」
 体はまだ重い。意識ははっきりしてきたけれど、動くことはできなかった。エルマはカノンの肌に噛み付いている触手たちを一旦離れさせる。白い肌に残った牙の痕は一瞬で消えていった。
「さて、次はどこを綺麗にしようかしら……やっぱりここは最後に取っておきたいわよね?」
 エルマは蜜をこぼすカノンの秘裂を指でなぞりながら言った。それだけでカノンは色を含んだ吐息を漏らす。しかしエルマが次に触手を伸ばしたのはカノンの後ろの穴と尿道口だった。
「カノンの中は私が全部綺麗にしてあげる。だから――いっぱい気持ちよくなって」
「っ、エルマ……ッ、あああ……っ!」
 細い触手が二つの穴をそれぞれに蹂躙する。しかし触手が分泌しているのはいつもの催淫剤ではなく、洗浄液だった。触手が中で蠢くたびに快感が全身を包み込む。しかし同時に意識の霧は晴れていった。
「あ……や……はッ、ぅ……だ、め……っ」
 触手に体をいいようにされているというのに、それを心地いいと感じてしまう。身悶えるカノンを見つめながら、エルマは自分の体にも触手を纏わせた。触手がゆっくりとエルマの性器に入っていくと、エルマは熱い吐息を漏らす。
「気持ちよくなっていいのよ、カノン。あなたを縛るものは、全部忘れてしまえばいい」
「なん、の……話……っ?」
「カノンはずっと、この惑星のためにって働いてきたけど……ここは本当に、あなたが命を賭けて守るべきものなのかしら?」
 エルマはカノンの両手首を頭上でひとつにまとめた。今のカノンに抵抗する体力はない。けれど拘束されているその姿を見て、エルマはたまらない愉悦を感じた。
「それは考えたことなかった、という顔?」
 カノンはエルマから顔を背ける。それは間違いなく肯定の返事だった。
「カノンが頑張ってるのに、良からぬことを考える人が触手を増やすようなことをしたり、変種を生み出したりする。そんな人がいるようなこの世界に、守るべき価値はあるのかしらね?」
「ッ、わたし……は……っ」
「あなたの本性を引き出したのが、あの子だっていうのが気に入らないのよね。でも……優秀な調査官のカノンより、開き直ったカノンの方が好きよ」
 ソレアを守りたいという思いも嘘はないのだろう。そこに腐った人間がいたとしても、大切に思う人の方がおそらくは多いのだ。そしてその思いと、停滞を是としないカノンの性質は矛盾せずに両立する。エルマはカノンの首筋に軽く口づけをした。
「そろそろこっちにもあげようかしらね」
 エルマはカノンの陰唇を指で広げる。首を横に振るカノンを無視して、エルマはそこに細い触手を導いた。触手はカノンの中に入ると、ゆっくりと動き始める。
「っ……あ、ああ……ん、やぁ……ッ」
「随分乱暴にされたのね。中もちょっと傷ついてる。出されたものもまだ残っちゃってるし」
 カノンの膣内に入った触手は、エルマの言葉を確認するように動いていた。激しい動きではないが、先程まで何本も産卵管を咥え込まされていた場所を労るように撫でられ、カノンは体を捩らせる。
 エルマはカノンの膣内にもう一本触手を挿入した。二本になった触手はそれぞれに動き、カノンの中に残った変種の毒を掻き出していく。
「ぁ、ああ……ぅ、う……ん」
 あえかな声を上げながら、カノンは強い快感と同時に心地よさも感じていた。変種に与えられた暴力的なまでの快楽よりは弱いはずなのに、思わず本音を口走りそうになってしまう。
「ぅ……ああ、ん……」
 体の中心に熱を感じて、カノンは悶える。触手が粘液を分泌する度に、その場所につけられた小さな傷が癒えていく。無重力の中を揺蕩っているような快感。カノンの体は緩やかだが確実に絶頂に向かっていく。
「全部、綺麗にしてあげるわね」
 エルマがそう言うと同時に、触手がその動きをわずかに激しくする。しかしそれは無理矢理に快楽を叩きつけるようなものではなく、確実にカノンの感じる場所を刺激するものだった。それがかえってカノンの理性を溶かしていく。
「っ、ああ……ん、気持ち、い……」
「私はただカノンを綺麗にしてるだけなんだけど、それで感じてるの?」
「……っ、エルマ、もう……ッ」
「あらあら、随分堪え性がなくなっちゃったのね」
 エルマはカノンの中から触手をゆっくりと抜く。それを惜しむようにカノンの秘部がひくついているのを、エルマは笑みを浮かべながら見つめていた。そしてとろけきったカノンの頬に触れながら、自分のスカートを捲り上げて、下着をおろす。
「まさか、これで終わりだなんて思ってないわよね?」
 エルマの陰核から伸びた赤紫色の産卵管が、カノンの蜜壺の入り口をなぞる。エルマの使用としていることを悟ったカノンは目を見開いた。
「私ね、可哀想なカノンを見ると興奮しちゃうの。それとも、まだ私があなたの良き同僚だって信じたかった?」
 二人の関係はとっくの昔に破綻している。それはカノンもわかっていた。エルマには散々陵辱もされたし、エルマが沢山の人を殺したことも理解している。それでも、どこかでエルマを信じたいという気持ちがカノンの中に残っていたのだ。エルマはそれを簡単に踏み躙っていく。そして傷ついたカノンを見て、悦びを感じるのだ。
「ほら、ちゃんと抵抗しないと入っちゃうわよ?」
 挑発するようにエルマが言う。けれど抵抗できないということもわかってはいるだろう。全身を触手に拘束されている上、体が重くて満足に動かせない。カノンはそれでも首を横に振って逃れようとするが、エルマは触手でカノンの細い腰を捕らえると、そのまま産卵管を挿入した。
「ッ……あ、ああ……だめ、エルマ……それだけは……っ!」
「いいじゃない。久しぶりに、私たちの子供をいっぱい産んじゃいましょう?」
 エルマが激しく腰を打ち付ける。それと同時にカノンの全身に纏わり付いていた触手がカノンの性感帯を責め立てる。それぞれの乳首には細い触手が吸い付き、疼きのような快感をカノンの体に送り込んでいた。
「ぁ……だめ、も……イっちゃ……!」
「いっぱいイっていいわよ。気絶しちゃうくらいにね」
「っ、や、ぁ、あああああ……っ!」
 カノンが果てると同時に、エルマはカノンの中に卵を送り込んだ。カノンの腹がゆっくりと膨れていく。カノンは涙を流しながら、力なく首を横に振った。
「カノンの中、すごく気持ちいいわよ。まあ他の人のことは知らないんだけど」
「エル、マ……っ、ぅ……ん」
「卵が動くのでも感じるのね。あんなに嫌がってたのに。やっぱり人は快楽には勝てないってことね」
 体はとうの昔に屈服している。けれど心も既に現実を受け入れつつあることにカノンは気が付いていた。しかし快楽の中にずっといるわけにはいかないとも思っている。触手がもたらすものは停滞であり、滅びだ。それだけは食い止めなければならない。カノンの心に呼応するように、カノンの背から伸びた一本の触手がエルマの首に巻き付いた。
「あくまで抵抗するのね、これからも」
「……それが、私だもの」
 触手が軽くエルマの首を絞めても、エルマは抵抗する素振りを見せなかった。それはカノンがエルマを殺そうとしているわけではないことを確信しているようでもあった。

「さすがね、カノン。――壊しがいがあるわ」

 エルマがそう言い、カノンの腹を撫でる。その瞬間にカノンの子宮の中に詰め込まれた卵たちが孵化し始めた。孵化した小さな青紫色の触手は、出口を求めて蠢き出す。その動きにより感じる場所を擦られ、カノンは背を反らして絶頂した。
「またいっぱい生まれたわね、私たちの可愛い子供……もっともっと産んでちょうだい?」
「っ……やだ、も、産みたくな……っ、ぅ、ああああッ!」
 カノンの中から次々と触手が這い出してくる。触手を産みながら、カノンは何度も絶頂していた。それが重なっていく度に頭の中が真っ白になっていく。
 身体の中にいた触手が全て生まれ出た頃には、カノンは気を失っていた。エルマは生まれたばかりの触手の赤子を手に取って笑う。
「この子は私が持って帰るわね。――じゃあまたね、カノン」
 気を失ったままのカノンを置いて、エルマはその場を後にする。その口元には相変わらず笑みが湛えられていた。

「次はいつ会えるかしら。そのときはまた――いっぱい可哀想な姿を見せてね」
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