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三兄妹と悪魔・前編
紅羽のライバル・2
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「えっと……ありがとう」
何が起こったのかはわからないが、彼女が寄生植物を倒してくれたのは事実だ。紅羽は戸惑いながらも礼を言う。すると少女は腕組みをしながら紅羽に尋ねた。
「あなた、吸血鬼なのよね?」
「そうだけど……」
「随分と弱い吸血鬼もいたものね。こんな怪異に遅れを取るなんて」
「よ、弱いって……ちょっと!」
それなりに強いという自負があったというのに、あっさりと打ち砕かれた。しかし流石にその言い方には腹が立つ。文句を言おうとする紅羽を見下ろし、少女はハーフツインテールの髪をかきあげた。
「あなたみたいに弱い奴が民警やってても、何の意味もないのよね」
「な……っ!」
そこまで言われる筋合いはない。しかし彼女が紅羽には手も足も出なかった敵を倒したのは事実だ。紅羽が口を開けたり閉めたりしていると、少女は溜息とともに紅羽に背を向けた。
「それじゃあ私は行くから、あなたはそこの伸びてる人たちを何とかしておいて」
「あっ……ちょっ、待っ……!」
少女は転移魔法を使い、その場からあっさりと姿を消してしまった。
「行っちゃった……」
「紅羽!」
碧都と榛斗の声が聞こえ、紅羽は振り返る。どうやら核を壊したことで花粉の影響も無くなったらしい。
「良くやった、紅羽」
「榛兄……実は私が倒したわけじゃなくて」
紅羽は先程起きたことを二人に説明した。話しているうちに悔しさが蘇ってきてしまい、最終的には半ギレになっていた。
「確かに全然太刀打ちできなかったけど! でもあの言い方なくない!?」
「白の軍服……ってことはサーペンティンの子かな」
紅羽の憤慨は榛斗にはあっさり流されてしまった。紅羽はそれにも文句を言おうとするが、碧都に宥められる。
「そのサーなんとかって大手の民警会社だよね?」
「今一番勢いあるんじゃないかなぁ。女の子の制服が軍服ワンピースでかわいいんだよね」
「確かに可愛いけどそうじゃなくて!」
サーペンティンはかなり大手の民警会社だ。そこに所属するには厳しい試験を通過しなければならない。強さは当然折り紙付きだ。
「それにしても、紅羽で歯が立たないような相手には見えなかったんだけどな……何らかの強化がされていたのか……」
榛斗が首を傾げる。そもそも勝てないような相手だと思っていればあんな伝言はしないということは紅羽にもわかっていた。紅羽なら花粉を吸わないようにしながら倒せると踏んでいたから託してくれたのだ。
「そもそもあの手の寄生植物って、それが生えてるところに突っ込んでいくとか、誰かに種を植え付けられるとかしないとああはならないんだよ。大体は森の中で野生生物に寄生するし。この前のナンパ男といい、やはり何か変だな……」
「悪魔が関わってるってこと?」
「可能性はある」
榛斗の言葉を聞いて、紅羽は俯いた。悪魔が関わっているとして、寄生植物にすら手が出なかった自分に倒すことができるのだろうか。紅羽は赤い石を握りしめる。
「……あの子くらい強かったら、悪魔にも勝てたのかな」
紅羽の呟きを聞いた榛斗は、くしゃくしゃと彼女の頭を撫でる。髪の毛を乱された紅羽は不満そうに榛斗を見上げた。
「子供扱いは嫌だって言ってるじゃん。髪の毛ぐっちゃぐちゃなんだけど」
「ごめんごめん」
「誠意が足りないなぁ」
軽口を叩けるくらいには元気らしい。榛斗は文句を言う紅羽を宥めながら、その場を離れていった。
***
――民間警備会社サーペンティン本部――
「百瀬です。ただいま戻りました」
百瀬蛍は窓の外を眺めながら紅茶を飲んでいる男に声をかけた。男の名は天堂樹。民間警備会社サーペンティンの代表取締役社長である。樹は銀の髪を靡かせながら振り返った。
「お疲れ様。問題なかったみたいだね」
「はい、滞りなく」
「さすがだね。あれはかなり強い個体のようだったけれど、一人で片付けるなんて」
蛍は樹に褒められ、嬉しそうに頬を赤らめた。しかしすぐに緩んだ顔を元に戻して言う。
「――それと、市来紅羽に会いました」
樹は微笑みながら椅子に腰掛けた。軍服を着ているが、その優雅さはまるで王族のようにも見える。
「どうやら偶然居合わせたようですが」
「成程。彼女の印象はどうだった?」
「手も足も出ない状態でした。取るに足らない存在です」
蛍が言い捨てると、樹は小さく笑った。その一挙手一投足に蛍は見とれていた。そして隠した牙が疼いているのを感じる。
「蛍は手厳しいね。でも彼女は悪魔と交戦して、暫く生きていることができた。君ほどではないかもしれないが、かなり強いよ。今の彼女は本来の力を発揮できていないだけだ」
吸血鬼の強さは持って生まれた魔力の量で大体決まってしまう。しかし本来持っている魔力を全て引き出すには条件がある。
「現在の退化した吸血鬼の中ではトップクラスだろう。本来の力を出せたらどれだけ強くなるか」
蛍は唇を噛んだ。樹は何故かはわからないが市来紅羽に注目しているらしい。強さだけなら自分の方がよほど上なのに。悪魔と戦ったことはないが、今日の紅羽を見る限り、蛍だって善戦できるはずなのだ。
「私は市来紅羽よりも強いです」
「ふふ、わかっているよ。君は完全な吸血鬼だからね。おいで、今日のご褒美をあげよう」
優しく手招きされ、蛍は樹に飛びつくように抱きついた。そしてその褐色の肌に牙を突き立てる。
喉を通っていく血の味。それは他には代え難いほど甘美なものだった。蛍はごくりと喉を鳴らしながらそれを味わう。
人工血液パックが吸血鬼にとってまずいものであることは知られているが、反対に吸血鬼がとても美味だと思う血についてはあまり知られていない。都市伝説的に語られてはいるが、その血を味わうことがほぼ不可能だから試しようがないとされているのだ。
しかし蛍はこの世で一番美味な血を知っていた。そしてそれは退化した吸血鬼の本能を呼び覚ますものでもあった。
満足した蛍は樹の首筋から牙を抜く。今しがた飲んだばかりの血が体を巡っているのを感じた。
「ありがとうございます――天使様」
吸血鬼の間でまことしやかに語られていることがあった。この世で一番美味しい血は天使と悪魔のものであると。
それが事実であることを蛍は知っていた。
何が起こったのかはわからないが、彼女が寄生植物を倒してくれたのは事実だ。紅羽は戸惑いながらも礼を言う。すると少女は腕組みをしながら紅羽に尋ねた。
「あなた、吸血鬼なのよね?」
「そうだけど……」
「随分と弱い吸血鬼もいたものね。こんな怪異に遅れを取るなんて」
「よ、弱いって……ちょっと!」
それなりに強いという自負があったというのに、あっさりと打ち砕かれた。しかし流石にその言い方には腹が立つ。文句を言おうとする紅羽を見下ろし、少女はハーフツインテールの髪をかきあげた。
「あなたみたいに弱い奴が民警やってても、何の意味もないのよね」
「な……っ!」
そこまで言われる筋合いはない。しかし彼女が紅羽には手も足も出なかった敵を倒したのは事実だ。紅羽が口を開けたり閉めたりしていると、少女は溜息とともに紅羽に背を向けた。
「それじゃあ私は行くから、あなたはそこの伸びてる人たちを何とかしておいて」
「あっ……ちょっ、待っ……!」
少女は転移魔法を使い、その場からあっさりと姿を消してしまった。
「行っちゃった……」
「紅羽!」
碧都と榛斗の声が聞こえ、紅羽は振り返る。どうやら核を壊したことで花粉の影響も無くなったらしい。
「良くやった、紅羽」
「榛兄……実は私が倒したわけじゃなくて」
紅羽は先程起きたことを二人に説明した。話しているうちに悔しさが蘇ってきてしまい、最終的には半ギレになっていた。
「確かに全然太刀打ちできなかったけど! でもあの言い方なくない!?」
「白の軍服……ってことはサーペンティンの子かな」
紅羽の憤慨は榛斗にはあっさり流されてしまった。紅羽はそれにも文句を言おうとするが、碧都に宥められる。
「そのサーなんとかって大手の民警会社だよね?」
「今一番勢いあるんじゃないかなぁ。女の子の制服が軍服ワンピースでかわいいんだよね」
「確かに可愛いけどそうじゃなくて!」
サーペンティンはかなり大手の民警会社だ。そこに所属するには厳しい試験を通過しなければならない。強さは当然折り紙付きだ。
「それにしても、紅羽で歯が立たないような相手には見えなかったんだけどな……何らかの強化がされていたのか……」
榛斗が首を傾げる。そもそも勝てないような相手だと思っていればあんな伝言はしないということは紅羽にもわかっていた。紅羽なら花粉を吸わないようにしながら倒せると踏んでいたから託してくれたのだ。
「そもそもあの手の寄生植物って、それが生えてるところに突っ込んでいくとか、誰かに種を植え付けられるとかしないとああはならないんだよ。大体は森の中で野生生物に寄生するし。この前のナンパ男といい、やはり何か変だな……」
「悪魔が関わってるってこと?」
「可能性はある」
榛斗の言葉を聞いて、紅羽は俯いた。悪魔が関わっているとして、寄生植物にすら手が出なかった自分に倒すことができるのだろうか。紅羽は赤い石を握りしめる。
「……あの子くらい強かったら、悪魔にも勝てたのかな」
紅羽の呟きを聞いた榛斗は、くしゃくしゃと彼女の頭を撫でる。髪の毛を乱された紅羽は不満そうに榛斗を見上げた。
「子供扱いは嫌だって言ってるじゃん。髪の毛ぐっちゃぐちゃなんだけど」
「ごめんごめん」
「誠意が足りないなぁ」
軽口を叩けるくらいには元気らしい。榛斗は文句を言う紅羽を宥めながら、その場を離れていった。
***
――民間警備会社サーペンティン本部――
「百瀬です。ただいま戻りました」
百瀬蛍は窓の外を眺めながら紅茶を飲んでいる男に声をかけた。男の名は天堂樹。民間警備会社サーペンティンの代表取締役社長である。樹は銀の髪を靡かせながら振り返った。
「お疲れ様。問題なかったみたいだね」
「はい、滞りなく」
「さすがだね。あれはかなり強い個体のようだったけれど、一人で片付けるなんて」
蛍は樹に褒められ、嬉しそうに頬を赤らめた。しかしすぐに緩んだ顔を元に戻して言う。
「――それと、市来紅羽に会いました」
樹は微笑みながら椅子に腰掛けた。軍服を着ているが、その優雅さはまるで王族のようにも見える。
「どうやら偶然居合わせたようですが」
「成程。彼女の印象はどうだった?」
「手も足も出ない状態でした。取るに足らない存在です」
蛍が言い捨てると、樹は小さく笑った。その一挙手一投足に蛍は見とれていた。そして隠した牙が疼いているのを感じる。
「蛍は手厳しいね。でも彼女は悪魔と交戦して、暫く生きていることができた。君ほどではないかもしれないが、かなり強いよ。今の彼女は本来の力を発揮できていないだけだ」
吸血鬼の強さは持って生まれた魔力の量で大体決まってしまう。しかし本来持っている魔力を全て引き出すには条件がある。
「現在の退化した吸血鬼の中ではトップクラスだろう。本来の力を出せたらどれだけ強くなるか」
蛍は唇を噛んだ。樹は何故かはわからないが市来紅羽に注目しているらしい。強さだけなら自分の方がよほど上なのに。悪魔と戦ったことはないが、今日の紅羽を見る限り、蛍だって善戦できるはずなのだ。
「私は市来紅羽よりも強いです」
「ふふ、わかっているよ。君は完全な吸血鬼だからね。おいで、今日のご褒美をあげよう」
優しく手招きされ、蛍は樹に飛びつくように抱きついた。そしてその褐色の肌に牙を突き立てる。
喉を通っていく血の味。それは他には代え難いほど甘美なものだった。蛍はごくりと喉を鳴らしながらそれを味わう。
人工血液パックが吸血鬼にとってまずいものであることは知られているが、反対に吸血鬼がとても美味だと思う血についてはあまり知られていない。都市伝説的に語られてはいるが、その血を味わうことがほぼ不可能だから試しようがないとされているのだ。
しかし蛍はこの世で一番美味な血を知っていた。そしてそれは退化した吸血鬼の本能を呼び覚ますものでもあった。
満足した蛍は樹の首筋から牙を抜く。今しがた飲んだばかりの血が体を巡っているのを感じた。
「ありがとうございます――天使様」
吸血鬼の間でまことしやかに語られていることがあった。この世で一番美味しい血は天使と悪魔のものであると。
それが事実であることを蛍は知っていた。
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