【R18】Paradise Lost~あるいはSF淫紋を施された妹と、脳を破壊された俺

深山瀬怜

文字の大きさ
10 / 32

9・満たされない心

しおりを挟む
 好きにしてもいい、という言葉で箍が外れてしまったようだった。稔は和紗に壁に手を突かせ、その細い腰を抱えた。和紗の臀部にそそり立つ肉棒を数度擦り付けると、和紗の肩が震える。この体勢は顔が見えないから和紗が何を考えているかはわかりにくい、と稔は思った。

「……嫌ならちゃんと言えよ、和紗」
「嫌じゃないよ。ちょっと……熱くてびっくりしただけ」

 自分の体にこんな熱があったとは思わなかった。それは抗いがたいものだ。そしてそれを向けたいと思う相手は、本当は和紗ではない。
 でも、それを璃子にぶつけるわけにはいかない。気持ちいいことも、抗いがたいものであることも確かだが、汚らわしくて、気持ちが悪い行為には変わりがないのだ。

「いいよ、お兄。もう挿れても……ッ!」

 和紗の言葉が終わる前に、稔は和紗の体にその楔を打ち込んだ。一気に貫いたせいか、和紗からは呻き声のような嬌声が漏れる。稔は構わずに更に和紗の腰を抉るように突き上げた。

「っ、は……ぅ、あ、ぁあ、……ん、あぁ……!」

 それは稔にとっても、目の前に閃光が走るほどの刺激だった。肉を押し開いていくような感覚。苦しいけれど甘い締め付け。気泡緩衝材を思わず潰してしまうのと同じだ。それが気持ちいいからやめられない。延々と続けてしまう。
 稔は夢中になって腰を打ちつけ続けた。腰と腰がぶつかる音と、結合部から漏れる湿った音が浴室内に反響する。それは稔にたまらない嫌悪感をもたらすが、同時に興奮を煽る材料にもなった。
 いつしか和紗の体に、璃子のそれを重ねていた。璃子の裸なんて一度も見たことがないから、それは稔の想像でしかない。和紗のものより少し高い嬌声もそうだ。稔は璃子の名を心の中で何度も呼びながら、衝動のままに腰を打ちつけた。

「っ、だめ……奥のほ……っ、あ、あああッ!」

 和紗の体を壁に押し付けるように深く突く。妄想の中の璃子の長い髪がその動きに合わせて揺れていた。

「ぅ、出る……ッ!」

 体の熱が下半身の一点に集中する。そのままそれは和紗の奥深くに叩きつけられた。白濁を全て出し切ってから和紗の体を解放すると、繋がっていた場所からとろりと白いものが溢れ出した。それを見て、和紗が呟く。

「もったいないね、何だか」
「別にもったいなくはないだろ。将来の生殖のための精子はもう取ってるし、そもそも中にあったところで妊娠するわけでもないし」
「それはそうなんだけどね……」

 無為なものであっても、それが和紗の中に残っているのは障りがある。和紗は稔にその姿をなるべく見られないようにしながら、汚れた体を洗い流した。白濁としたものはシャワーの水流に押し流されて排水溝へ消えていく。

「ごめんね、お兄」
「いいよ。お互い落ち着くまでの辛抱だろ?」
「……うん」

 体は綺麗に洗われて、先程までの痕跡が消えていく。先に浴室を出る和紗を見送ってから、稔は溜息を吐いた。
 人間が克服したというこの欲は、何と厄介なものなのだろう。終わった直後は良くても、またしばらくすると璃子のことを考えてしまう。獣の行為に彼女を巻き込むわけにはいかないのに。

「……早く治るといいんだけどな」

 そうしたら、また元の生活に、何にも煩わされない日常に戻れるのだから。

***

 こんなことをしても意味がないことは、和紗にも充分わかっていた。稔と性行為に及んだとしても稔の心は動かないだろうし、自分が妊娠するわけでもない。性欲が高まっているだけで、妊娠するようなことはないと憂花には言われていた。でもどこかで、それが稔の子供だったら妊娠しても構わないとも思っていた。
 浴室の排水溝へと消えていったもの。あの中には少ないながらも種があった。それは役目を果たすことなく死んだのだ。そもそも前時代であっても、精子はほぼ生き残ることができないものだったというのは知識として知ってはいる。けれど何か一つでいいから、稔のものを、証を、自分の体に刻みたかった。
 どうやったって、その心は手に入らないのだから。
 稔が璃子のことを好いているのは昔からだ。璃子とは幼馴染で、親同士もそれなりに仲が良くて、まるで家族のように育った。最初は恋愛感情など抱いていなかった。それが明確に変わった日を和紗はよく覚えている。

 あれは小学三年生の頃だった。和紗はその頃から既に絵は苦手で、特に水彩絵の具の扱いは下手だった。それをクラスメイトにからかわれた挙句、調子に乗った彼らの誰かが和紗の絵に大きくマジックでバツを描いた。別に絵が好きだったわけではない。ただ真面目に頑張ったけれどそれしかできなかった。それに大きくバツをつけられたのは、和紗にとっては大きなショックだった。運動は得意で、勉強も良くできた和紗は、そもそもバツをつけられるという経験自体少なかったのだ。
 学校でそんな出来事があったその日、和紗は家に帰る気になれなくて、近くの公園で一人で遊んでいた。そこに学校帰りの璃子が通りがかったのだ。璃子はすぐに和紗の様子がいつもと違うことに気付いて声をかけてきた。そして和紗は璃子になら言えると思い、学校での出来事を洗いざらい話した。
 その次の日、璃子はすぐに行動に出た。そのことを先生に話し、和紗をからかったクラスメイト全員を自力で集めて滾々と説教を始めた。そんなことで反省できる人たちは比較的質がいい方だと今は思う。でも小学三年生にはそれなりに効果があった。そしてそんな璃子の姿を眩しく見つめていたのが兄の稔だった。
 璃子は今でもそのときとあまり変わっていない。真っ直ぐで、正義感が強くて、とても優しい。稔はそんな璃子に心底惚れ込んでいるし、和紗も璃子ほど心根が綺麗な人を見たことがない。
 けれどその一件は、和紗の中にはモヤモヤとしたものを未だに残している。
 自分で解決したかったわけではない。けれど璃子が前に出たことによって、何故か惨めな気持ちになってしまっていた。璃子の姿は、強い敵にも果敢に挑む、戦隊ものに出てくる女の子のようだった。それは眩しくて、心惹かれるものであったはずだ。それなのに和紗は心の中で、璃子に言わなければよかったと思い続けている。
 稔だったらどうしただろうか。稔は和紗を慰めてはくれただろうが、自分で先生に言いに行ったりだとか、からかってきたクラスメイトに説教したりなんてことは絶対にできないだろう。せいぜい親に言うように促すくらいだ。璃子のような行動は取れないし、思いつかない。そう考えると頼りないとも思える。稔に相談しても、多分解決らしい解決はしなかった。親に相談して、親が先生に言って、先生がクラスメイトに指導して、それで有耶無耶になっただろう。だから相談相手は璃子で良かった。そう判断しているはずなのに、未だに何か棘のようなものが引っかかっていると感じるのだ。

(……私は、璃子ちゃんみたいにはなれないよ)

 今だってそうだ。
 卑怯な手段で、自分の体の不調を言い訳にして、稔を自分のものにしようとしている。心が手に入らないのなら体だけでも、なんて前時代の人間の悪い考えに支配されそうになっている。終わらせなければならなかったのに。苦しくても、耐えるべきだったのに。
 これが璃子だったらどうだったのだろう。璃子ならどうにか耐えたのかもしれない。少なくとも稔や雛を巻き込むようなことにはならなかっただろう。それどころか、自分を慰めることだってしなかったかもしれない。璃子は色で例えるなら純白だ。降り積もったばかりの雪のように、一切の汚れを拒絶する。それがわかっているから、稔も璃子にはその欲望を向けないようにしていて、そのためには和紗と契約を結ぶことだってしてしまうのだ。

(あんなときでも、お兄は璃子ちゃんのこと考えてるんだな)

 おそらく無意識だろう。吐息に混じって聞こえた、自分のものではない名前。自分で「璃子ちゃんだと思ってていい」と言ったはずなのに、それが自分の首を絞める。和紗は深く溜息を吐いてベッドの上に寝転んだ。
 どうやっても手に入らないとわかっている。それならいっそ、取り返しがつかないほどに壊されてしまいたかった。欲望の捌け口のように扱われたって構わない。そう思っているのに心は渇いていく。

(でも……これが治ったら、元に戻れるはずだから)

 けれど治ってしまったら、契約も終わるのだろう。
 相反する気持ちが胸の中にわだかまっていて、消えてくれない。とりあえず今日は眠ってしまおうと布団をかぶったそのとき、携帯端末が震え、新着メッセージが届いたことを知らせた。枕元の端末を手繰り寄せて画面を見ると、それは雛からのものだった。

『明日の放課後、温室に来ていただけますか?』

 用件はおおよそ想像がつく。雛の要求には応じなければならない。雛を巻き込んでしまったのは和紗なのだから。そして雛のためにも、自分の欲求には目を瞑り、この病を治す方法を探らなければならない。和紗は胸の奥に広がっていく黒いものに気付かないふりをしながら、明日のために目を閉じた。

 今日は悪い夢も、いい夢も見ずにただ眠れることだけを願いながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

金髪女騎士の♥♥♥な舞台裏

AIに♥♥♥な質問
ファンタジー
高貴な金髪女騎士、身体強化魔法、ふたなり化。何も起きないはずがなく…。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...