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26・栓

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「ん……っ、く、ぁ……やめ、……やめてくれ……っ」
「そう言いながらこんなにビンビンにしてるじゃないですか。気持ちいいんでしょう?」

 二つの柔らかいものが稔の陰茎をやわやわと刺激する。雛の胸は大きく、心とは裏腹に体が勝手に高まってしまっていた。優香は雛の胸の谷間から飛び出した鈴口をチロチロと舐めている。先走りが溢れ始めて、それが更に滑りを良くしていった。

「あ……これ、私も擦れて気持ちい……っ」

 稔に快楽を与える雛も、硬くなったものが胸に触れることで快感を得ているようだった。稔を責め立てながらも腰を揺らしている。稔は目の前の景色が明滅するほどの悦楽を感じていた。これまでもその部分を刺激されることはあった。和紗や璃子と繋がったこともある。けれど今感じているものはそのときよりもはるかに暴力的なものだった。

「っ、なんだ……これ、ッ、ああっ!」
「お薬のおかげですごく気持ちいいでしょう? これに逆らえる男なんていないって憂花様が言ってましたよ」

 過剰なまでに鋭敏になっているのは薬のせいなのか。稔は唇を噛み締めた。こんなものを受け入れるわけにはいかない。そう思うものの、二人に与え続けられる刺激に体は易々と敗北する。切ないような感覚が背筋から腰に向けて走った。

「っ、あぁっ! も……うぅ!」

 優香に強く吸い上げられ、暴力的なまでに甘い刺激に目の前が真っ白になる。優香は口の中に溜まった白いものをごくりと音を立てて飲み込んだ。
 普通欲望を吐き出したあとの性器はしばらく力を失うものだ。しかし雛の細い指がその輪郭をなぞると、それだけで硬さを取り戻し始める。

「薬が切れるまでいくらでも出せるらしいですよ。でもあんまり出し過ぎると先輩も疲れちゃいますよね?」

 既に体が重くなっている。度重なる絶頂で頭もぼんやりしていた。

「だからここを塞いじゃいますね?」

 頭に靄がかかっていたせいか、その言葉の意味も考えることなく稔は頷いていた。雛は優香に言って部屋の奥から何かを持って来させる。雛は優香の手からそれを受け取ると、消毒用のアルコールを使ってそれを綺麗にした。細い金属の棒だ。真っ直ぐだがところどころがうねっていて、片方の先に細い輪が付いている。何に使うものかは全くわからなかった。しかし雛の「塞ぐ」という言葉から推察することはできる。
 優香が稔のものを扱いて大きくしていく。裏筋を舌先で舐め上げられ、溢れた先走りを纏った手でくびれを擦られた。直接的な刺激に体は素直に昇り詰めようとする。しかし優香は稔が絶頂する直前で手を止めた。

「っ、何を……」
「怖がらなくて大丈夫ですよ。何にも考えられないくらい気持ち良くしてあげますから」

 雛が花を綻ばせるように笑い、亀頭に触れた。そして金属の細い棒を尿道口に突き立てる。冷たいものが押し入ってくる圧迫感に、稔は微かな呻き声を上げた。

「くっ、ん……っ、あっ……ぁ」

 雛は金属の棒をゆっくりと進めていく。それに押し出されるように白いものが棒と稔自身の隙間から溢れ出した。
 当然そんな場所に異物を入れたことなどない、普段は排尿や射精にだけ使われる場所を侵すように棒が進んでいく。雛は稔の反応を見ながら、棒を掴んでくるりと回した。

「あっ、あ……くッ、ぅう……やめ……やめて、くれ……っ」
「何言ってるんですか、気持ちいいくせに」
「っ、あ……! ああ……っ!」

 優香が稔の後ろから抱きつき、胸を押し付けながら耳の穴に舌を差し入れはじめた。陰茎に与えられている刺激だけでも気が狂いそうなのに、耳に直接響くぴちゃぴちゃという水音に脳を犯される。それに気を取られている隙に、雛は金属棒を奥へ奥へと進めていった。冷たいものに穴を押し広げられているはずなのに、熱が広がっていく。

「んんっ、あっ、ぁ、うぁぁぁ……ッ!」

 金属の棒がある一点に到達した瞬間、稔の背中が跳ねた。視界が白く染まるほどの強い快感が襲ってくる。しかしその証として溢れる白いものは金属棒に押し止められた。

「ここがいいんですね、先輩?」
「あぅっ、あっ、ダメ、そこは……っ」

 目の前に何度も火花が散る。せり上がる欲望は出口を失い、逆流して稔の身体を苛んだ。堰き止められている苦痛と、終わりのない快楽。いつしか欲望を吐き出したいと、絶頂したいと言うことしか考えられなくなっていった。

「っ、抜い……て、これ、ああ……っ!」
「んー……どうしようかなぁ。優香はどう思う?」

 雛はそう言いながら、金属の棒をくるくると回していた。そのたびにわずかな凹凸が稔の敏感な部分を刺激する。はしたなく喘ぎ声をあげる稔の口の端からは唾液が零れていた。

「雛ばっかりずるいよ。私もやりたい」

 優香が頬を膨らませる。それは普通の状況であれば可愛らしい表情だったが、今の稔にとっては悪魔の形相にしか見えなかった。

「じゃあ交代しよっか」

 雛と優香が立ち位置を入れ替える。稔の足の間に座った優香は嬉しそうに顔を綻ばせながら金属の棒を上下に動かし始めた。

「あ、ああ……っ! ぁ、ぅ、んん、あああっ!」

 素早く抜き差しされ、棒の隙間から溢れ出た白濁が泡立つ。しかし完全に抜かれることはなく、熱が身体の中へ逆流していった。同時に雛に胸の飾りを刺激され、稔の思考は完全に破壊される。

「ぃ、ぁあ……イキた……あああ……っ、も、ぅ、ああ……っ!」
「もう少しですよ、先輩」
「っ……もう、た……すけ……っ、ああぁっ!」

 射精することしか頭に浮かばない。理性などというものはもはや何の役にも立たなくなっていた。目の焦点が失われていく稔を見下ろし、雛と優香は嫣然とした笑みを浮かべた。

***

「敵の敵は味方って、どういうことなの?」

 腕組みをしながら和紗が拓海に尋ねる。拓海は私物のノートパソコンを立ち上げ、通話アプリを起動した。和紗と璃子は焦りを覚えながらも拓海の行動を見守る。

「あーもしもし。新垣ですけど」

 画面に映し出されたのは、年嵩の男性だった。頭髪はないが、威厳のある白く長い髭を生やしている。男はどこかの神父のような服を着ていた。和紗は男が身につけているペンダントを見て瞠目する。子宮をかたどったといわれているその形には見覚えがあった。

「確か……〈ナトゥア〉とかいう組織の」

 和紗が言うと、男は深く頷いた。

『いかにも。私は〈ナトゥア〉の日本支部の支部長を務めているジョン・網島だ』

 〈ナトゥア〉といえば、かつて憂花が所属していた組織だ。生殖能力を切り離し、性欲を捨てた人間を昔の状態に戻すことを目的に活動している。この人が敵なのか味方なのかは和紗にはわからなかった。しかし拓海の話では、敵の敵ではあるらしい。

「おっさんたちも布施憂花を追ってるんだ。和紗ちゃんの治療方法を探るために親父が連絡を取ったらしいんだけど……まあその点に関してはご存じの通りって感じだ」
『お役に立てず、申し訳ない。彼女の技術は我々が使用しているものを遥かに超えてしまっているのだ』

 真摯に頭を下げられ、和紗は多少面食らってしまった。その目的を考えれば和紗の状況は彼らにとっても歓迎すべきものなのではないかと思ったからだ。しかし網島は和紗の疑問を読んだように言葉を続ける。

『確かに我々は人間が生殖能力を取り戻すことを目的としている。しかしそれはその意思もない人間に押しつける形であってはならない。その者が我々の思想に納得し、自ら選ぶものでなければならないのだ』
「要するに、『まずは自分たちから』っていうことらしい。けれど布施憂花はそのやり方に納得しなかった」
『そうだ。彼女は我々のやり方ではいつまでも目的は達成できないと言った。本人の意思を無視してでも、適合する者に手術を施し、世界に広げていくべきだと』
「穏健派と急進派の違い……みたいなところかしら」

 璃子が言う。網島はゆっくりと頷いた。網島たち〈ナトゥア〉はあくまで時間をかけて目的を達成しようと考えていた。しかし憂花はそれでは駄目だと思ったのだ。それは何故なのだろうか。疑問はあるが、今はそれよりも重大な問題がある。和紗は低い声で網島に尋ねた。

「細かいことはいいの。先生が……いや、お兄がどこにいるのか、あなたたちならわかるの?」
『実は我々の中にも彼女に与していた者がいてな。その者たちの炙り出しに成功し、彼女の潜伏先の候補がいくつか挙がってきておる。その中のどこかにいるのは間違いないだろう』
「じゃあそれを教えて。取り返しのつかないことになる前に」

 和紗の厳しい口調に、璃子が思わず和紗の袖を引いた。和紗は璃子の顔を見てハッとしてから、落ち着いた声で話し始める。

「お兄はあのまま放っておいたって昔の人間みたいな身体になったはずなのに、それでも連れ去ったってことは……私と同じで、その時期を早めようとしてるんじゃないかって」
『おそらくはその認識で間違いないだろう。男性での成功例を得たいというのがその理由の一つ。もう一つは――あの者は、この世界に混乱を引き起こしたいと思っておるのだろう』
「混乱?」

 璃子が尋ねる。網島は少し逡巡してから口を開いた。

『人間が生殖能力ばかりか性欲まで捨てたのには理由がある。かつて、人と人がいがみ合い、大きな混乱が起きたのだ。私も生まれていないくらい昔のことだが。彼女はその混沌を再び起こそうとしているのかもしれない。しかも今度は性欲を捨てることで対処することも出来ない』
「どうしてそんな……」
『何故かを聞く前に、我々は彼女を追放してしまった。彼女のあまりに非人道的な実験が露呈したからだ。だが……そんなことで彼女を止めることは出来なかったのだ』

 拓海が深く溜息を吐く。あくまで淡々と話す網島に対して、拓海は棘のある口調で言った。

「止めることは出来なかったっていうけどさ、あんたたちがそんな体たらくだからこっちは大分迷惑をこうむってるんだぜ? 迷惑どころの話じゃない。何も悪いことなんてしてないのに、自分の身体を勝手に作り替えられて、もう元には戻せませんなんて最悪じゃねぇか。親父にだって若干後遺症残ってるみたいだし」
『それについては……本当に申し訳なく思っている』
「申し訳なく思ってんなら、俺たちに最大限力を貸してくれよ? とにかく、さっさと稔の居場所を突き止めろ」
『今、それぞれの場所を部下たちに当たらせている。我々も〈ナトゥア〉の汚点である彼女を捕らえるために動いているのだ。最終的な目的は違えど、今この瞬間は君たちの味方であるつもりだ』
「じゃあなるべく急いでくれ。俺にとっても大事な友達だし、この二人とっては言わずもがなだ」

 網島が頷き、通話が切れた。何かを考えている璃子をよそに、和紗は落ち着きなくその場をぐるぐると歩き回り始める。

「あのおっさんから連絡があったら俺たちも動く。だからそれまでは――」

 拓海がそう言った瞬間、和紗がその場にしゃがみ込んだ。ただならぬ様子を感じて璃子が駆け寄る。

「和紗ちゃん?」
「っ……何か一瞬、お兄が見えた」
「え?」
「何か、白い……病室みたいなところ。『助けて』って言ってるような気がして……」

 璃子は和紗の手を握りながら、拓海を見る。拓海は璃子の言外の訴えを感じ取り、再び網島と通話を始めた。
 根拠があるとは言いがたい。けれど血を分けた兄妹で何か通じ合うものがある可能性もある。そして和紗が見た稔が「助けて」と言っていたなら、それは間違いなく急を要する事態だ。

「病室みたいなところがあるのはひとつだけでいいんだな? わかった。俺たちは今からそこに向かう。璃子ちゃんも、和紗ちゃんもそれでいいな?」

 和紗は頷き、厩舎に向かって走って行く。誰かに車を出してもらうという手もあるが、今はそのための時間も惜しかった。網島に教えられた場所はさほど遠くない。それならクリスティーヌで行った方が早いだろう。和紗の目的を悟った璃子が和紗を追いかけて走り出す。

「私も和紗ちゃんと一緒に行く!」
「わかった。璃子ちゃんは大丈夫だろうけど……三人は難しい」
「じゃあ俺は親父か誰かに車を出してもらうことにするよ。でも、くれぐれも気をつけろよ。相手は何をしてくるかわからないような奴だ」

 拓海の忠告に、和紗はしっかりと頷いた。危険なのは承知の上だ。本当は車を待った方がいいことはわかっている。けれど一刻も早く稔のところに駆けつけたかった。

「クリスティーヌがいるから大丈夫。気に入らない人間は蹴飛ばしてくれるよ」
「馬に蹴られると結構な怪我になったりするよな……でも、そうだな。そのくらいしても許されるだろ」

 和紗は璃子を先に鞍に乗せ、安全を確認してから素早くクリスティーヌに跨がった。クリスティーヌが和紗の合図に応えるように嘶く。和紗が足を動かすと、クリスティーヌは何もかもを理解しているように勢いよく走り出した。
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