般若と椿

ほーたん文子

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三人目

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 三人目の男を見つけたのはそれから八年後のことでした。その男はかつてへらへらしながら父を惨殺した長身の男でした。どうやら男は結婚し、妻との間に子を授かり、慎ましやかに、けれど幸せに暮らしているようです。それを知った女は怒り狂い、獣のように我が身を掻き毟りました。
 ──だって奴は人の父親を惨たらしく殺したのよ、それもあんなに楽しそうに。それなのに、奴が人の父親になるなんて。
 背中の般若が唸ったように感じた女は、自らの心に正直に行動しました。
 まずは妻子に近づきました。近くに移り住んだ心優しい娘を装い、数ヶ月、しかし女にとっては気が狂いそうになるほど時間をかけて距離を縮め、ついに家に招かれるまでになったのです。
 ある夜、夕食に招かれた女は、男が仕事から帰ってきた瞬間に回り込んで男の両足の腱を切りつけ、きつくきつく縛り上げました。髪をずるずる引っ張って居間に引きずり込むと、妻が甲高い声をあげて男に駆け寄りました。妻がうるさかったので下腹を、ちょうど子宮のあたりを刺しました。もうすぐ娘が産まれると幸せそうに話していたのを思い出したからです。思い出したら腹が立ったので、そのまま短剣を真一文字に引き結びました。今度は男が喚いたので、妻の美しい金の髪を断ち、男の口いっぱいに詰め込みました。そして時折ひくつく妻の陰部をいじくりまわして男の反応を楽しんでいると、騒ぎを聞きつけた子供が居間にひょこひょこやってきました。男の目の色が変わりましたが、女は気にもとめません。目を剥いて口や腹、股から血を垂れ流す母を不思議そうに見つめる無邪気な子供に短剣を持たせ、父を刺すように言い聞かせました。
 ──大丈夫、これは魔法の短剣なの。お父さんは疲れているみたいだから、これでゆっくり眠らせてあげましょう。お母さんと一緒に仲良く、ね。
 信頼するお姉さんの優しい声に、怯えていた子供は元気に頷き、ひと思いに父の腹に剣を突き刺しました。男は髪の混じった血を吐き、苦しげに身悶えしました。やはり幼気な子供の力では、眠らせるまでには至らないようです。女は困ったように微笑み、隠し持った短剣で子供の首を刎ねました。どうやら男はしかと目に灼きつけたようで、声にならない絶叫をあげました。女は痛みもその身に刻み込むために、子供の血を男の頬にこすりつけ、子供が刺した傷口をぐりぐりと広げてやりました。すると男は全身をがくがくと震わせて、ごとりと事切れました。物足りなく感じた女は妻子の体を開き、男の傷口から胃に直接、妻子の五臓六腑と胎児の成り損ないの肉片を詰め込みました。その姿はとても滑稽で、女はようやっと満足しました。
 男の目を覗きこむと、血走らせて真っ赤な瞳で女を怨んでいました。まるでいつかの誰かのよう。不愉快になった女は、男の両目を抉り、それぞれ子供の首の断面と妻の膣口に埋め込みました。

 ついに女の復讐が終わりを迎えたのです。気付けば十年以上の歳月が経っていました。背中の椿はもげそうなほど首を傾け、般若も笑っているように感じます。女は笑いながら闇に消え、狂喜乱舞のうちに行方をくらませました。
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