彼女にできること

時和 シノブ

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菜々が産まれた時の母の涙声、ハイハイする菜々と遊ぶ母の朗らかな声、幼稚園の入園式の時に菜々を注意する母の甲高い声、小学校の授業参観の帰りに菜々を褒めてくれた時の母の誇らしげな声……

全て菜々の頭の中に流れてきた。
菜々は母の妹、百合子の手を強く振り解き、涙を見せまいと背を向けた。

「二度と来ないでください。それから伝えてください……恨みに思うほど、あなたのことを憶えていませんと」

百合子は「はい」と一言だけ答え、店を出て行った。
きっと百合子の頭の中にイメージとして、全て流れてしまっただろう。

どれだけ菜々が母を求め、愛していたかが……

日頃、人に癒しを与えた彼女の能力が、これほどまで残酷に感じられる出来事はなかった。

そこへ知世が帰ってきた。

「菜々、もしかして今の人……」

「…………」

菜々は何も言わず俯いていた。

「菜々、ごめん。この間、あんたに言ってなかったんだ……実は見えてたんだよ、今日のこと……菜々、本当はとっくに許してるんだろ? 母さんのこと」

菜々は知世に抱きついた。
相変わらずセンスの悪い知世のお気に入りの服は、菜々の涙でぐしょ濡れになった。

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