彼女にできること

時和 シノブ

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菜々が母親のことを再び忘れかけた頃、店に見知らぬ女性が現れた。

菜々は、その女性を見て、あることに気がついた。

(母に似てる……)

今日に限って、知世は買い出しにスーパーに出かけてしまっていた。
客を放って逃げることはできない。

「占いでしたら、もう少しで戻ってきますので」

そう菜々が言うと、女性は首を横に振る。

「いいえ、今日は菜々さんに用があって来ました」

百合子は、以前この店に来店した老婆から菜々がこの店にいることを聞いてやって来たのだった。
菜々は、こうなったら喧嘩でもなんでもしてやれと思い、母親らしき女性を正面に座らせる。
すると女性が意を決したように口火を切った。

「あの……今日は突然すみません。私は、春子の妹の百合子ゆりこと申します」

無理矢理、菜々が記憶から消そうと試みた母の顔は目の前の百合子と、とてもよく似ていた。
しかし本人でないのなら、このまましらを切ってしまえばいいと菜々は考えた。

「申し訳ありません。私は『菜々さん』という方でもありませんし『春子さん』という女性も存じあげません」

菜々は内心、(ざまぁみろ)と思っていた。
それから、話を終わらせようと菜々が席を立つと、百合子が菜々の手を握った。

すると百合子の手から様々な『春子』の記憶と感情が流れてくる。
菜々が無理矢理、女性の手を解こうとすると、

「菜々さん、姉のことは本当にごめんなさい。お願いですから、話を聞いてもらえませんか」

と百合子は泣きそうになりながら、菜々の手を強く掴んだ。
菜々が負けじと手を振り解こうとした瞬間のことだった。

『菜々ちゃん、ごめんなさい……こんな形で、あなたに謝罪することを許してください。私は今、北海道にいます。私は、十三年前にあなたの前からいなくなって三年後、北海道に来ました。それからずっと闘病しています……きっと、お父さんや菜々ちゃんにしたことの罰が当たってしまったのね……でも、同情して欲しいとか、そういうんじゃありません。ただあなたが元気でいるか知りたかっただけ……』

菜々の中に流れてきたイメージは、そこで途切れた。
百合子は呆然とした菜々に、ゆっくりと語りだした。

「菜々さん、ごめんなさい。私も、菜々さんと同じような能力を持っているのよ……手で触れた人の思いを読み取ることができるの。本当は黙っていようと思ったんだけど、騙しているみたいで申し訳なくて……」

百合子の手からは、絶えず母、春子の菜々に対する思いが伝わっていた。



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