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占領された優作の部屋(後編)
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優作が本の恐怖に襲われている時だった。
「ジジイ! 何度やっても同じだ! このヴィヴィアンが返り討ちにしてやる!」
横から大声が聞こえて、優作は平常心を取り戻した。見ると、アンが上半身を起こし、乱れた頭をかいている。
「……あ、夢だったんだ。って、優作? 帰ってきてたんだね。おかえり」
眠そうな半開きの目を向け、半ば寝ぼけているような声で話を続ける。
「……アン。ここ、俺の部屋なんだけど」
「知ってるよ。優作に何か恩返しするために、いろんな魔導書を読み漁っていたんだ。だけど、なかなかいいのがないんだよね。優作は何をしてほしいのか言ってくれないし。で、気が付いたら寝てたんだよ」
答えになってない。アンは、優作の質問が無かったかのように自分の話をする。
「まず、しっかりと俺の質問に答えてくれ。そして、俺の部屋を占領しないでくれ」
「それだとさ、普通じゃない? 私、魔法使いなんだよ? それも割と実力のある。もっとさ、夢のある願いとかないの? 向こうの世界の人たちならいろいろ言ってくれたよ?」
アンの実力は十分知っている。だが、普通のことができない実力派魔法使いというのはどうなんだ? という疑問を口に出す前に飲み込み、代わりに冷たい一言を口にした。
「そんなこと考えてる余裕はねぇんだよ」
「ふーん。つまらないねえ」
寂しそうな目で優作を見つめるアン。あんな大きくてきれいな目で見られたら、いくら部屋を占領されていた優作でも一瞬見惚れてしまう。だが、今欲しいのは魔法の力よりも実践力。将来生き残り続ける力の方が欲しい。魔術なんかを考えている余裕は本当にない。
アンの瞳は、しばらく優作の青白く冷たい顔を眺めていた。優作は魔術が引き起こす神秘の力を見たというのに、ここまで無関心とは。敦子は魔術をすんなりと受け入れたのに、なぜ彼はそこまで拒絶するのか。
本人も言う通り、優作には本当に余裕がない。言葉一つ一つ、行動一つ一つ、すべて、何かにせかされているような、そんな印象を受ける。窮屈じゃないのかな? そんな疑問が浮かんだ時、アンの目に、興味深いものが映った。
「何、魔導書読んでたの? 優作も興味あるんだ」
「え、これが魔導書?」
優作の耳の中に突然入ってきた単語——よく聞く単語ではあるが、現実ではまず聞かない単語——に、彼は少し戸惑った。
「そう。しかもそれは、しっかりと仕立てられた、魔力もちゃんと込められた最上級の魔導書だよ。他にもあるでしょ? 紙束みたいなやつとか、簡単に製本してあるやつとか。紙束は私が写経したメモ。あまり力はこもってない。製本してある本は、少しくらいこめられてるけど、そこまで期待しちゃいけない。だけど、しっかりと装飾されてる本はしっかりとした力がこもってる。割と貴重だから、大事にしてね」
乱雑に置いてるお前が言うか、という意見を口の中でこらえ、優作はさらに質問した。
「……その、最上級の本に籠った力って、実際何に使うんだ? てか、本に力がこもってる必要ある?」
「当然だよ。簡単なメモならともかく、本を読むのはとっても時間がかかるじゃない? 読む前に、“この本は自分が読むべきものか“分かったり、内容がすっと入ってきたら効率いいでしょ。特に、この最上級の魔導書は、読む人の適性を見たり、習得のサポートをしたり出来る」
「適性を見る? サポートする?」
「そう。これくらい上質な魔導書なら、自分に適正があるなら“内容が勝手に頭の中に入ってきたり”する。適正によっては、読むだけで魔術が使えるようになったりもする。私もね、何冊かそんな経験をしたよ。もちろん、しっかりと読み込んでいけば大体の本は内容が勝手に流れ込んでくるもんだし、自分からそういう魔術を習得してもいい。だから魔法使いは大体読むスピードが速いんだ」
なるほど。確かに力がこもっていれば便利だ。大学のテキスト全部、だれか力をこめてくれないかな、と優作はかなしい願望を頭の中に浮かべた。
「ところで、優作。この本を手に取ったの?」
アンに聞かれ、優作は慌てて本を手から離した。あの時の恐怖が蘇ってきたからだ。
「こういう上級の魔導書はね、“ぱっと手に取った時点で、もうその人はその本を読む資格がある”と言われてるの。もしよかったら、この本もっと読んでみたら?」
大学の勉強で精いっぱい、と言おうとしたが、優作の声が形になる前に、アンはそのまま話を続けてしまった。
「しかもこの本はね、あの『魔女アッシュ』が最初に手に取った本とも言われてるんだよ。もしかしたら、優作にも魔女アッシュみたいな素質があるのかもね」
アンが軽く笑いながらよくわかんない話をする。恐らく有名な魔法使いと自分が同じ才能があると言いたいのだろう。しかし、そもそも向こうの有名人をこっちの人間が知っているわけがない。第一、この世界で魔術を身に着けたところで……。
優作はすっと立ち上がり、一度魔導書をちらっと見た後、後ろ髪をひかれながら部屋を去った。
「優作?」
アンは速やかに部屋から出ていった優作を、疑問に満ちた目で眺めていた。
「ジジイ! 何度やっても同じだ! このヴィヴィアンが返り討ちにしてやる!」
横から大声が聞こえて、優作は平常心を取り戻した。見ると、アンが上半身を起こし、乱れた頭をかいている。
「……あ、夢だったんだ。って、優作? 帰ってきてたんだね。おかえり」
眠そうな半開きの目を向け、半ば寝ぼけているような声で話を続ける。
「……アン。ここ、俺の部屋なんだけど」
「知ってるよ。優作に何か恩返しするために、いろんな魔導書を読み漁っていたんだ。だけど、なかなかいいのがないんだよね。優作は何をしてほしいのか言ってくれないし。で、気が付いたら寝てたんだよ」
答えになってない。アンは、優作の質問が無かったかのように自分の話をする。
「まず、しっかりと俺の質問に答えてくれ。そして、俺の部屋を占領しないでくれ」
「それだとさ、普通じゃない? 私、魔法使いなんだよ? それも割と実力のある。もっとさ、夢のある願いとかないの? 向こうの世界の人たちならいろいろ言ってくれたよ?」
アンの実力は十分知っている。だが、普通のことができない実力派魔法使いというのはどうなんだ? という疑問を口に出す前に飲み込み、代わりに冷たい一言を口にした。
「そんなこと考えてる余裕はねぇんだよ」
「ふーん。つまらないねえ」
寂しそうな目で優作を見つめるアン。あんな大きくてきれいな目で見られたら、いくら部屋を占領されていた優作でも一瞬見惚れてしまう。だが、今欲しいのは魔法の力よりも実践力。将来生き残り続ける力の方が欲しい。魔術なんかを考えている余裕は本当にない。
アンの瞳は、しばらく優作の青白く冷たい顔を眺めていた。優作は魔術が引き起こす神秘の力を見たというのに、ここまで無関心とは。敦子は魔術をすんなりと受け入れたのに、なぜ彼はそこまで拒絶するのか。
本人も言う通り、優作には本当に余裕がない。言葉一つ一つ、行動一つ一つ、すべて、何かにせかされているような、そんな印象を受ける。窮屈じゃないのかな? そんな疑問が浮かんだ時、アンの目に、興味深いものが映った。
「何、魔導書読んでたの? 優作も興味あるんだ」
「え、これが魔導書?」
優作の耳の中に突然入ってきた単語——よく聞く単語ではあるが、現実ではまず聞かない単語——に、彼は少し戸惑った。
「そう。しかもそれは、しっかりと仕立てられた、魔力もちゃんと込められた最上級の魔導書だよ。他にもあるでしょ? 紙束みたいなやつとか、簡単に製本してあるやつとか。紙束は私が写経したメモ。あまり力はこもってない。製本してある本は、少しくらいこめられてるけど、そこまで期待しちゃいけない。だけど、しっかりと装飾されてる本はしっかりとした力がこもってる。割と貴重だから、大事にしてね」
乱雑に置いてるお前が言うか、という意見を口の中でこらえ、優作はさらに質問した。
「……その、最上級の本に籠った力って、実際何に使うんだ? てか、本に力がこもってる必要ある?」
「当然だよ。簡単なメモならともかく、本を読むのはとっても時間がかかるじゃない? 読む前に、“この本は自分が読むべきものか“分かったり、内容がすっと入ってきたら効率いいでしょ。特に、この最上級の魔導書は、読む人の適性を見たり、習得のサポートをしたり出来る」
「適性を見る? サポートする?」
「そう。これくらい上質な魔導書なら、自分に適正があるなら“内容が勝手に頭の中に入ってきたり”する。適正によっては、読むだけで魔術が使えるようになったりもする。私もね、何冊かそんな経験をしたよ。もちろん、しっかりと読み込んでいけば大体の本は内容が勝手に流れ込んでくるもんだし、自分からそういう魔術を習得してもいい。だから魔法使いは大体読むスピードが速いんだ」
なるほど。確かに力がこもっていれば便利だ。大学のテキスト全部、だれか力をこめてくれないかな、と優作はかなしい願望を頭の中に浮かべた。
「ところで、優作。この本を手に取ったの?」
アンに聞かれ、優作は慌てて本を手から離した。あの時の恐怖が蘇ってきたからだ。
「こういう上級の魔導書はね、“ぱっと手に取った時点で、もうその人はその本を読む資格がある”と言われてるの。もしよかったら、この本もっと読んでみたら?」
大学の勉強で精いっぱい、と言おうとしたが、優作の声が形になる前に、アンはそのまま話を続けてしまった。
「しかもこの本はね、あの『魔女アッシュ』が最初に手に取った本とも言われてるんだよ。もしかしたら、優作にも魔女アッシュみたいな素質があるのかもね」
アンが軽く笑いながらよくわかんない話をする。恐らく有名な魔法使いと自分が同じ才能があると言いたいのだろう。しかし、そもそも向こうの有名人をこっちの人間が知っているわけがない。第一、この世界で魔術を身に着けたところで……。
優作はすっと立ち上がり、一度魔導書をちらっと見た後、後ろ髪をひかれながら部屋を去った。
「優作?」
アンは速やかに部屋から出ていった優作を、疑問に満ちた目で眺めていた。
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