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願望(後編)
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ビュウウウウウゥゥゥゥゥ……。
垂直に上昇し、アンは更に高い場所を目指す。地上にある余計なものを避けるため。邪念から逃げるため。
そういえば、前にもこんな飛行をした。あの時は、優作と一緒だった。優作を無理矢理絨毯に乗せて、この球体の上にある世界を飛び回った。
あの時、とってもほわっとした。優作が、心から自分を頼ってくれた気がした。こんな気持ちになったのは初めて。……だけど、私は邪魔者でしかなかった。だから私は優作から離れた。
空の高い所。もくもくとした雲は遥か下、太陽光を遮るものはほとんどない。この高さまでくると、生き物の気配を全く感じなくなる。ここを吹く風は、地上をかすめてきた風じゃない。もっと遠くから、遥かに長い距離を、圧倒的な規模で流れる大気。そんな中に、魔法使いが一人。
……静かだ。独りだ。ここは開放的だが、暖かさがない。自分は、こんな風に憧れていた。あらゆるものを気にすることなく、大陸を駆ける風。振り返ることのない、自分の思うままに流れる大気に。
自分は今まで、何も振り返らずに生きてきた。常に、自分は迷わず、やりたいことを、正しいと思ったことをやり続けてきた。
なら、私はなぜこんなに迷っているの? 私は正しいと思ったから行動した。関わっちゃいけないと思ったから断ち切った。
……今、優作は何をしているのだろうか。優作に魔法の扉を開かせたのは私だ。それなのに、私は見捨てて飛び去った。
……果たして、この感情は雑念なのだろうか。ずっと、排除しようとしていたこれは、本当に排除していいものなのだろうか。
優作との日々は楽しかった。自分は邪魔者だったかもしれない。優作にとっては害だったかもしれない。だが、私は楽しかった。暖かくて、刺激の連続で。今までの旅の中で、一番幸せな時間を過ごした。それだけは曲げようのない事実だ。
この時、アンは自分の心がとても熱くなっているのに気が付いた。こんな状態ではちゃんとした判断は出来ない。アンは一度姿勢を整え、風に意識を集中させた。先ほどまでの、邪念を消すためのものじゃない。考えを整理し、自分の、本当の意思を見つけるためのもの。
ヒュウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………。
大きな空気の流れに、体が溶ける。
心が露わになり、自分の隠れた感情が、浮き彫りになっていく。
余計な部分、迷い、あらゆるものが風によって吹き飛ばされていく。
すっきりした。心が洗われた。
………………。
「忘れていいわけ、ないでしょ!」
風がどばっ! と吹いた。大きくて強い風に、アンの鮮やかな赤髪と、上品なダッフルコートが吹かれ躍る。大気に邪魔されず、ほぼ直接降り注いでいるような強い日差しが、アンの赤髪に乱反射し、彼女の瞳を輝かせる。
後ろを振り返ってなんで悪い! 自分のやりたいことをやってなんで悪い! 他人の目なんか全く気にしなかった私が、なんで自分自身のよく分かんない感情に縛られなければいけない! 私は大陸を駆ける風でありたい! 大空を旅する雲でありたい!
邪魔にされて結構だ! 誰が何と言おうと、自分は自分の心に従うだけだ。自分を偽らず、何にも縛られずに流れるのが私じゃないか!
風はいちいち気にしない? 嘘をつくな。風だって蛇行するし、逆走することだってある。それができるからこそ自由なんだ。何勝手に風がまっすぐ吹き抜けるなんて決めつけて、自分の行動を縛ってるんだ。私はバカか? 確かにバカだ。バカならバカなりにやればいいじゃないか。
「ふぅ」
アンは改めて足をそろえ、天を仰いだ。その後正面を向いた。
タンッ!
体をまっすにに整え、絨毯から飛び降りた。
ゴォォォォオオオオオオオオ!
体が直接空を切る。この世界そのものである球体が私を引っ張る。その勢いに任せ、アンはどんどん加速していく。風が直接体に当たる。この感触が新鮮で、清々しい。
だんだん、空気の密度が濃くなっていく。自分に当たる風が強くなり、風が運んでくる情報が増えていく。
自分は、今まで大切なものを見落としていたのかもしれない。風の自由さに憧れて、壁の外の広い世界に憧れて、ずっと旅をしてきた。だが、結局自分は狭い世界に閉じこもったままだった。
高度が下がるにつれ、だんだん町が見えてくる。山と山の間に作られた、広いようで狭い、白く見える領域。この中には、自分が想像する以上の数の人間が暮らしている。
その中で私が出会ったのは、暗くて、冷たくて、閉じこもった一人の学生。自由を求める自分とは正反対の人間。私と優作は違う。だから噛み合わないし、邪魔者にもなる。余計なことをしてしまうことだってあるし、突然喧嘩になることだってある。
だけど、それでいいじゃん。違うから、こうやって触れ合うのだから。違うところがあるから、面白いのだから。
フサッ!
もくもくとした雲を一瞬で通り抜ける。空気はますます密度を増し、地面が近くなってくる。
ビュゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウッ!
遥か空高くから、アンの絨毯が猛スピードで追ってきた。
ボフッ!
絨毯が、猛スピードで落下するアンをやさしく受け止めた。衝撃を吸収し、すぐさま体勢を整える。
「さて、行きますか!」
アンは絨毯を翻し、一直線にとある方向へ飛んで行った。
垂直に上昇し、アンは更に高い場所を目指す。地上にある余計なものを避けるため。邪念から逃げるため。
そういえば、前にもこんな飛行をした。あの時は、優作と一緒だった。優作を無理矢理絨毯に乗せて、この球体の上にある世界を飛び回った。
あの時、とってもほわっとした。優作が、心から自分を頼ってくれた気がした。こんな気持ちになったのは初めて。……だけど、私は邪魔者でしかなかった。だから私は優作から離れた。
空の高い所。もくもくとした雲は遥か下、太陽光を遮るものはほとんどない。この高さまでくると、生き物の気配を全く感じなくなる。ここを吹く風は、地上をかすめてきた風じゃない。もっと遠くから、遥かに長い距離を、圧倒的な規模で流れる大気。そんな中に、魔法使いが一人。
……静かだ。独りだ。ここは開放的だが、暖かさがない。自分は、こんな風に憧れていた。あらゆるものを気にすることなく、大陸を駆ける風。振り返ることのない、自分の思うままに流れる大気に。
自分は今まで、何も振り返らずに生きてきた。常に、自分は迷わず、やりたいことを、正しいと思ったことをやり続けてきた。
なら、私はなぜこんなに迷っているの? 私は正しいと思ったから行動した。関わっちゃいけないと思ったから断ち切った。
……今、優作は何をしているのだろうか。優作に魔法の扉を開かせたのは私だ。それなのに、私は見捨てて飛び去った。
……果たして、この感情は雑念なのだろうか。ずっと、排除しようとしていたこれは、本当に排除していいものなのだろうか。
優作との日々は楽しかった。自分は邪魔者だったかもしれない。優作にとっては害だったかもしれない。だが、私は楽しかった。暖かくて、刺激の連続で。今までの旅の中で、一番幸せな時間を過ごした。それだけは曲げようのない事実だ。
この時、アンは自分の心がとても熱くなっているのに気が付いた。こんな状態ではちゃんとした判断は出来ない。アンは一度姿勢を整え、風に意識を集中させた。先ほどまでの、邪念を消すためのものじゃない。考えを整理し、自分の、本当の意思を見つけるためのもの。
ヒュウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………。
大きな空気の流れに、体が溶ける。
心が露わになり、自分の隠れた感情が、浮き彫りになっていく。
余計な部分、迷い、あらゆるものが風によって吹き飛ばされていく。
すっきりした。心が洗われた。
………………。
「忘れていいわけ、ないでしょ!」
風がどばっ! と吹いた。大きくて強い風に、アンの鮮やかな赤髪と、上品なダッフルコートが吹かれ躍る。大気に邪魔されず、ほぼ直接降り注いでいるような強い日差しが、アンの赤髪に乱反射し、彼女の瞳を輝かせる。
後ろを振り返ってなんで悪い! 自分のやりたいことをやってなんで悪い! 他人の目なんか全く気にしなかった私が、なんで自分自身のよく分かんない感情に縛られなければいけない! 私は大陸を駆ける風でありたい! 大空を旅する雲でありたい!
邪魔にされて結構だ! 誰が何と言おうと、自分は自分の心に従うだけだ。自分を偽らず、何にも縛られずに流れるのが私じゃないか!
風はいちいち気にしない? 嘘をつくな。風だって蛇行するし、逆走することだってある。それができるからこそ自由なんだ。何勝手に風がまっすぐ吹き抜けるなんて決めつけて、自分の行動を縛ってるんだ。私はバカか? 確かにバカだ。バカならバカなりにやればいいじゃないか。
「ふぅ」
アンは改めて足をそろえ、天を仰いだ。その後正面を向いた。
タンッ!
体をまっすにに整え、絨毯から飛び降りた。
ゴォォォォオオオオオオオオ!
体が直接空を切る。この世界そのものである球体が私を引っ張る。その勢いに任せ、アンはどんどん加速していく。風が直接体に当たる。この感触が新鮮で、清々しい。
だんだん、空気の密度が濃くなっていく。自分に当たる風が強くなり、風が運んでくる情報が増えていく。
自分は、今まで大切なものを見落としていたのかもしれない。風の自由さに憧れて、壁の外の広い世界に憧れて、ずっと旅をしてきた。だが、結局自分は狭い世界に閉じこもったままだった。
高度が下がるにつれ、だんだん町が見えてくる。山と山の間に作られた、広いようで狭い、白く見える領域。この中には、自分が想像する以上の数の人間が暮らしている。
その中で私が出会ったのは、暗くて、冷たくて、閉じこもった一人の学生。自由を求める自分とは正反対の人間。私と優作は違う。だから噛み合わないし、邪魔者にもなる。余計なことをしてしまうことだってあるし、突然喧嘩になることだってある。
だけど、それでいいじゃん。違うから、こうやって触れ合うのだから。違うところがあるから、面白いのだから。
フサッ!
もくもくとした雲を一瞬で通り抜ける。空気はますます密度を増し、地面が近くなってくる。
ビュゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウッ!
遥か空高くから、アンの絨毯が猛スピードで追ってきた。
ボフッ!
絨毯が、猛スピードで落下するアンをやさしく受け止めた。衝撃を吸収し、すぐさま体勢を整える。
「さて、行きますか!」
アンは絨毯を翻し、一直線にとある方向へ飛んで行った。
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