植物大学生と暴風魔法使い

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どこにいる、優作(前編)

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 ビュウウウウウゥゥゥゥゥ……。

 バッ!

 タンッ!

 髪がふわっと広がる。ダッフルコートがなびく。つばの広い帽子が少しずれ、色の薄い瞳を半分隠す。すっと立ち上がり、帽子を元に戻す。華麗な着地を決め、大学の建物を眺めるアン。この中に優作がいる。さて、なんて言おうかな。いきなり飛び出して、優作はどう思っているのかな。怒ってるかな。
 そんなこと気にしても仕方ない。自分は自分に従うだけ。一度深呼吸をし、黙って優作が出てくるのを待つ。

 ゴーン。

 講義が終了した。この時間なら、もうこれ以上の講義はないはずだ。アンはその場で黙って、しばらく待っていることにした。



 ……遅い。講義が終わってからもうかなり時間が経つ。多くの学生が玄関から出てきた。それなのに、優作の姿がない。何かがおかしい。

 タン、タン、タン。

 他の人間より明らかに軽い足音。その違和感が、アンを自然と音の鳴る方向へと注意を向けさせた。
 そこにいたのは、青白い肌、自身のなさそうな顔、冷たい表情の、やや小柄な学生。優作だ。だが、何かがおかしい。
「ゆう……、さ、く……?」
アンが、疑問を持ったまま話しかける。優作らしきものに反応はない。怒っているのかな。それにしてはオーラを感じない。まるで、優作の形をした人形のように……。
 その時、アンの目の中に、興味深いものが飛び込んできた。

 あれは……。魔法の術式?

 優作と思われるものに、何か紙切れが張り付けられていた。その紙切れには何か魔術のための文様が描かれている。魔法が大好きなアンがそれを見たとき、考えるよりも先に体が動いていた。

 ぺり。

 ぽんっ!

 紙切れをはがすと同時に、学生の姿が変化した。モフモフとした見た目にくりくりとした瞳。これは……。
「優作の……。クマちゃん?」
そこにいたのは、優作のゴーレムだった。はっとしたアンは、すぐさまあの紙切れを見た。
 そこに描かれていたのは、姿を変えさせるための魔術だ。優作、いつの間にこんな魔術を。つまり優作は、ゴーレムを身代わりにして、自分だけどこかに行ってしまったということか。彼の性格を考えると、サボり? まあ、大学の講義は面白くないと言っていたから、先に帰っていると考えていいかもしれない。
 アンはゴーレムと優作のリュックサックを自分のウエストポーチに押し込み、自分の絨毯に飛び乗った。

 ビュゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウッ!

 アンが乗ると同時に、絨毯は急発進した。既に日は傾き始めていた。やや色の変化した空を、一直線に突っ切る絨毯が一枚。

〇 〇

 ガチャッ。

 そっと家の扉を開ける。
「あ、お帰りなさい……って、アンちゃん? どうしたの? 随分遅い帰りだったわね」
優作の母、敦子がアンを笑顔で迎えた。
「ははは……。心配かけました。敦子さん」
「ところでアンちゃん、優作見てない? もう帰ってきてもおかしくない時間なのだけど……」
「え? 優作、まだ帰ってきてないんですか?」
どういうことだ? まだ電車に乗っているのか? アンはくるっと身を翻す。
「ちょっと探してきます!」

 ビュゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウッ!

 絨毯に飛び乗り、アンは一直線に駅を目指した。

〇 〇

 駅に着いたはいものの、どうやって優作を探そうか。いつ電車を降りるかも分からない上に、そもそも電車に乗っているかも怪しい。こうなったら……。

 アンは杖を左手に構え、右手を前に突き出し、叫んだ。
「ロー・プレッシャー!」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

 アンの前方に、局地的な低気圧を巻き起こす。辺りの空気がその一点に引き寄せられる。吹き込む風はそこで上昇し、一本の竜巻へと発展した。竜巻が発生したのは線路の上。ギリギリ電車を持ち上げない程度の強さにした。

 キィィィィィン。キィィィィィン。キィィィィィン……。

 電車が次々に緊急停止していく。狙い通りだ。この世界の“鉄道”というものは複雑に動くので、優作がどれに乗っているのか分からなくなる。しかし、複雑に絡み合うからこそ、大きな障害を作ると連鎖的に止まってしまう。
 さて、電車が止まれば、あとは探すだけだ。優作が利用する路線は限られる。そこを、オーラを頼りに探せば見つかるだろう。

 ビュウウウウウゥゥゥゥゥ……。

 アンは絨毯を発進させ、路線の電車という電車をしらみつぶしに調べることにした。

 プゥゥゥゥ……。

 え? 今、電車が発進する音が聞こえた。予想外の動きをされたアンは、慌ててその電車を見た。なんと、竜巻が発生した路線を上手く避けて、電車を走らせようとしている。ここまで復旧能力が高いとは。
 その時、アンの目に、大きな信号機が見えた。様々な路線の、多くの電車に指令を送っている。この駅はこの路線の中でも特に大きい。通っている線路の数も、優作の家の近くの駅とは比べ物にならない。
「もしかして……」
アンは再び左手に杖を構え、右手を突き出して叫んだ。
「バウンド・カタパルト!」
右手から巨大な空気塊が形成され、目の前の信号機へ撃ち放った。

 ドビュウウゥゥゥゥッ!

 ブウォオオォォォォンンンッ!

 高速で射出された空気塊が信号機に直撃。

 グウォオオオォォォォン……。

 信号機が傾き始める。

 ガシャアアアァァァァァンッ!

 轟音を立てながら信号機が倒れ、各種線路を塞いでしまった。ここまでたくさんの線路を塞げば、電車は止まるしかないだろう。
「これなら大丈夫」
勝利を確信したアンは、徹底的に、停止した電車を調べることにした。
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