植物大学生と暴風魔法使い

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どこにいる、優作(中編)

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 ……鉄道なめてた。まさかこんなに路線が広いうえに、ここまで多くの電車が走っているなんて。気が付くとかなり日が傾いていた。時間だけが過ぎた。しかも、優作はどの電車にも乗っていなかった。代わりにアンが見たのは、イライラした人、困り果てる人、電話の対応に追われる人。
「さすがにやりすぎた」
少し自分がやったことを後悔した。こういうことやっているから邪魔者にされるのかな。仮に優作がこの電車の中に乗っていたら、もうカンカンに怒っていたかもしれない。
「さて、やりますか」
ポーチから自分のアサミィを取り出し、自分の髪の一部をさっと切った。杖を構えながら髪に呪文を込める。

 ボフッ。

 右手に空気塊を形成し、先ほどの髪を包む。そして、ふっと息を吹きかけて空気塊を飛ばした。

 空気塊はふわふわと進みながら、倒した信号機のところへ進んでいく。

 ぽかんっ!

 空気塊が弾けた。

 ゴゴゴゴゴゴゴ……!

 倒れ、バラバラになっていた信号機がひとりでに動き出し、勝手に修復されていく。瞬く間に、信号機は元の状態に戻った。ついでに、近くにいた作業員たちにも催眠をしておいた。この魔術に違和感を覚えないように。

 何事もなかったように復元したアン。ほっと一息ついた。
 って、何を安心している私。本来の目的を忘れちゃダメでしょ。優作が見つからない。こんなに苦労したのに。
 だが、電車に乗っていないことは分かった。ならば、どこか地面に足を付けているはずだ。アンはタンッ、と飛び降り、ふわっと地面に着地した。

 杖の先を地面に付け、足を肩幅に開く。一度深呼吸をした後、アンは杖を伝わる振動に全神経を集中させた。

 風から教えてもらうのがウィンドスキャン。これは、大地から教えてもらう魔術。名前は忘れた。まさか使うと思っていなかったから、最低限の方法しか覚えていなかった。まあ、ほとんどウィンドスキャンと変わらないが。

 感覚を研ぎ澄まし、振動に集中する。人が歩く。車が走る。ネコが駆ける。鳥が跳ねる。様々な情報が頭の中に飛び込んでくる。その中で、自分が欲しい情報を絞り出す。

 ——どこにいるの? 優作。

 慣れない魔術は疲労も大きい。アンの集中力はすぐに切れてしまった。
「……まだまだ」
アンはもう一度深呼吸をし、再び大地の震動に集中した。

 ……情報が氾濫している。日が傾き、多くの人が移動をするこの時間。夜行性の動物たちが少しずつ活動を始める時間。ものが多すぎる。情報が絞れない。アンの額から大粒の汗が流れる。ここまで苦戦したもの初めてだ。アンは改めて、振動に全集中力を捧げる。
 ……条件が悪すぎる。優作の反応があればすぐに分かるが、処理する情報が多すぎる。
「あっ」

 ドサッ。

 アンが、倒れた。

 ここまで集中力を使ったのは初めてだ。ここまで消耗したのも初めてだ。魔術の使い過ぎで倒れるなんて。まさか大風師・ヴィヴィアンが経験することになるとは。だが、アンは気が付いた。倒れていた方が、体が地面に接する方が、大地の震動を感じることが出来る。そもそも、杖の先だけに注目していたら、ただ疲れるだけじゃないか。ウィンドスキャンでも、全身の感覚を使う。なんでこんなことに気が付かなかったんだ。
 アンは全身をリラックスさせる。体が地面に沈み込むようなイメージで、体の力を抜きつつ、体を地面に密着させる。先ほどよりも疲れない。
「ふうぅ……」
深呼吸をし、感覚を研ぎ澄ます。先ほどよりも多くの情報を、軽い負担で集めることが出来る。

 ——待ってて優作!

 体が大地に溶ける。自分が、大地と融合していく。進めば進むほど、情報が整理されていく。地面に打ち付ける風の音、大地を蹴るタイヤの音、野生動物たちの進む音、余計な情報が排除されていく。残るのは人が歩く音。アンは更に集中し、地下、地上、高層建築、人が歩く音という音を集め始める。
 そして更に、男性が歩く音に注目する。情報がかなり減る。次に、小さな子供の音、老人の音、壮年男性の情報を段階的に排除していく。残るのは優作と同じくらいの男性の情報だけ。
 ここまで来たら、あとは優作の反応を探すだけだ。アンは更に絞る。絞って絞って、優作の情報を整理していく。どんどん、当てはまる情報に精査されていく。
 ……もう少しだ。頑張れ私。もう少しで、見つかる。もうすぐ優作が見つかる。

 絞って絞って絞って絞って……最後の一人……。
「ゆ、優作! ……じゃ、な……い?」
探した中に、優作はいなかった。

 ——そ、そんな。

 ぐたっと、アンの気が抜けた。
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