植物大学生と暴風魔法使い

新聞紙

文字の大きさ
38 / 43

どこにいる、優作(後編)

しおりを挟む
 優作が、いない。

 こんなに頑張ったのに。こんなに頑張ったのに。優作が……いない。
 どこにいるの優作! どこで何をしているの優作! どうして、どうして姿を現してくれないの優作! アンの目から、ぽろりと涙がこぼれた。
 確かに私は一度優作を見捨てた。見捨てて、どこかへ行こうとした。だからって、ここまで私から逃げるの優作? 私は、会いたいのに。優作に会いたいのに。合って、謝りたいのに……。

 もう、会えないのかな。

 もう、私は優作に会うことは出来ないのかな。仕方ないのかな。勝手に飛び出したのだから。自分から、決別したのだから。もう一回会いたいなんて、自分勝手なのかな。自分勝手を、もう許されないのかな。

 気の抜けた、力の抜けた魔法使いが、アスファルトの上に倒れている。希望もほとんどない。精力もほどんと残っていない。既に日は大きく傾き、夕方の紅い日差しがその人の形をしたものに差し込み、長い影を落とす。

 ごめんなさい。ごめんなさい。溢れる後悔と自責の念が、目を通って流れ出す。声は出ない。体に力も入らない。視界から色が消えていく。だんだんくすんだ色へと変わる。
 目の焦点が合わなくなる。目の前の景色が、古いカメラで撮ったピンボケ動画のように、だらだらと流れていく。

 ……悔しい。こんなところで終わるなんて。大陸を駆ける風が、目的も果たせずに止んでしまうなんて……。

 グググ……。

 かすかに残る体の感覚が、何かを捉えた。残っているか定かじゃない集中力を向け、何が起こったかを確認しようとする。

 ぽんっ!

 どうやら、ポーチの中から優作のゴーレムが飛び出したようだ。まさか、まだ魔力が残っているとは。このゴーレム、相当出来がいい。優作の魔術の腕が、まさかここまで上がっているなんて。
 はあ、自分はなんてバカなことをしたのだろうか。優作の魔術の才能は本物だったのに。せっかく、出会えたのに……。アンは再び、目に涙を蓄えた。だが、それが流れ落ちるほどの量を確保する体力はなかった。

 ゆさゆさゆさ……。

 ……ん? 自分の体が、何かに揺さぶれあれている。アンは力を振り絞って振り返る。
 ゴーレムが、自分の体を揺すぶっていた。ゴーレムは必死に動いていたが、アンが自分を見ていることに気が付くと、くりくりとした瞳を向けながら、アンの顔に近づいてきた。

 ……かわいいな。ここまで必死に頑張るゴーレムを見ると、なんだか元気が出てくる。こんなに小さいのに。
 対して自分は、こんなに大きいのに、ただ倒れている。情けないな。
 とはいっても、私は頑張ったよ。努力した。これまで使ったことのないほどの魔力を使った。体、精神、魔力、私の限界の限界まで絞り出した。もうだめだった、ってところから更に頑張った。別に恥じる必要なんてない。むしろ誇っていい。本当に、全力を尽くしたのだから。




 ……情けない。こんなことを自分に言い聞かせている私が、とっても情けない。私は、大風師・ヴィヴィアンだ。風と気象を操る大魔法使いだ。本当なら大風王になっていたかもしれない魔法使いなんだ。誰にも負けたことなんてなかった。あらゆる障害も吹き飛ばしてきた。自分にすら、一度屈服したのに勝ったんだ。何を今更気力をなくしている。
 アンの中に、気力がみなぎってきた。再び、大きな風となるため、進み続ける大気の流れとなるための、大きな気力。

 グオン。

 アンが、立ち上がった。静かな強さを秘めながら、力強く大地に両足を打ち付けた。
「ありがとうクマちゃん」
落ち着いた笑顔で、アンはゴーレムに笑いかけた。感動したのか、ゴーレムが飛び跳ね始めた。
「……ふふ、やっぱりかわいいね」
ゴーレムはずっと飛び跳ねている。腕を真上にぴんと伸ばしながら、ずっとジャンプしている。
 ……いつまで飛び跳ねているのだろう。もういいのではないか? もしかして、この動きには何か意味があるのか? アンはゴーレムの動きを注意深く観察した。

 ぴょんぴょん、素早く……。なんか違う。元気! というわけでもないな。どちらかというと慌てている……。まさか、彼は優作の場所を知っているのか?
「ねえねえ、もしかして君、優作がどこにいるか知ってる?」
ゴーレムは勢いよく何度も首を縦に振った。
「分かったから、分かったからもううなずかなくていいよ。で、どこにいるの?」
そう言うとゴーレムは、再び上に跳ねる動きを始めた。
「よくわかんないよ」
こんな時ゴーレムと会話出来れば……。あいにく、ゴーレムと会話する方法は確立されていない。アンはずっと、ゴーレムを観察していた。

 ぴんと伸びた腕……。まっすぐ? 上を向いている……。
「——!」
まさか、優作をこんなに見つけられなかった理由って……。
 アンは空を見上げた。いや、まさか。優作はまだ絨毯を操縦できない。だから飛ぶことは……。今まで、補助付きで操縦はしていた。飛ばすだけなら出来るかもしれない。だが、仮にそれが本当だとしたら、今、優作は空を飛んでいることになる。
 ……暴走していたら? 最悪のシナリオが頭の中に浮かんだ。
「ねえねえクマちゃん! もしかして優作は、一人で絨毯に乗ったの?」
ゴーレムはもう一度、首を大きく縦に振った。
 一瞬安堵したアンだが、すぐに事の深刻さを理解した。もしあの絨毯が暴走していたら……。
「こうしちゃいられない!」
アンはゴーレムを雑につかみ、ポーチに無理矢理押し込んだ。

 バッ!

 高く飛び上がり、絨毯に飛び乗る。

 ビュゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウッ!

 全速力で、暗くなっていく夕方の空に駆け出していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。 ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。 そこは魔法がすべての世界。 スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。 でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて── 「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」 そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに…… 家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば── 「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」 えぇ……なんでそうなるの!? 電気と生活の知恵で異世界を変える、 元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...