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再会(後編)
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優作は最期に、アンを思い浮かべた。いつも明るくて、自由だった魔法使い。自分より遥かに高い身長で、長い赤髪をなびかせ、鮮やかな瞳を向けてくる魔法使い。最後に傷つけてしまった。仮に自分が絨毯を操縦出来たとしても、飛び出していったアンを探すのは不可能だったかもしれないし、再会できたとしても許してもらえないかもしれない。ただ、せめて最後、会いたかった。会って、最後に……。
絨毯を止めるのは簡単だ。自分が一言、『止まれ』と言えば止まるだろう。じゃあ、なんて止まろうとしない? 止まらなければ命を落とすのかもしれないのに。そこまでして、自分の命を懸けて、“信念”を貫くのか? 無謀で、成功する確率が少ない賭けに、自分の命を差し出すのか?
……ここまで耐えたんだ。きっと、可能性がある。信じよう。優作は、初めてこの言葉を使った。他人も、自分も全く信用せず、壁の中に閉じこもっていた学生が、初めてこんな不安定で、期待利得の少ない言葉を使った。
だが、この時のこの言葉は、他のどんなものより強い力を持っていた。どんなもの、自分の命すら顧みずに貫く信念、その原動力となる恩人への気持ち。もはや理屈なんて必要ない。
軟弱な青年は、無限の力と、無限の可能性を手に入れていた。そう、どんなことでも。ありえなことを引き起こす、奇跡さえも起こす力を——。
「——落ち着いて! まずは精霊と親和することだけを考えて!」
——! もうろうとする意識の中に、聞き覚えのある声が聞こえた。優作は瞬間的に振り返った。そして、目に映ったのは——。
——鮮やかな赤髪と上品なダッフルコートをなびかせ、つばの広い帽子をかぶる、長身な女性。何の前触れもなく降りかかる、エネルギーの塊。いつも明るくて自由な人。突然自分の前に現れて、突然姿を消してしまった恩人。いつも明るいわけじゃない。恐ろしい時もあるし、とても偉大な人間に見えるときもある。だけど、暗い部分や、触れたくない部分もある。そんな、暴風のような魔法使い——。
そこにいたのは、アンだった。アンが、優作の真横を飛んでいた。複雑に動く優作の絨毯の挙動を完璧にトレースし、完全に真横に着いていた。
今までのこと、アンと出会い、別れ、今に至るあらゆることが思い返される。やっと、再会できた。信じてよかった。諦めないで良かった。優作の涙腺が、急に熱くなった。体の底から感動が、熱い気持ちが湧き上がってきた。
「あ……、アン。……俺——」
「悪いけど雑談してる余裕はない。まず、落ち着いて。そして、絨毯に宿る精霊のことを考えて」
アンは全く感傷に浸ることなく、優作へ的確な指示を送る。この時のアンの目は、ヒーローのような目だった。相手を救うこと、それだけを考え、ただ真っ直ぐ相手を見つめる。かっこいいな。ほんと——。
「もたもたしないで。死ぬよ」
アンがきっぱりと言葉を放つ。その時のオーラは、かっこよさを通り越して少し怖かった。
「わ、分かった。……やってみる」
優作は一度深呼吸をし、絨毯へと意識を集中させる。
「たぶん優作は、じぶんで絨毯を“操縦”しようと考えていたと思う。だけど違う。飛行術は、精霊がいないと成り立たない。だから常に精霊を尊重する。自由に飛ぶために、自分と精霊を親和させる。そうすると、自分の意志と精霊の意思が一致する。そうやって飛ぶの。決して意思を押し付けるわけじゃない。まさか、その基本を教え忘れていたとは。このヴィヴィアン、一生の不覚。とにかく、精霊を思い浮かべて」
と、言われてもなあ……。精霊を思い浮かべる感覚がよく分からない。とりあえず、絨毯に意識を集中させる。そういえば、前に絨毯を作った時、“絨毯に引き込まれる”という感覚のが大切だと読んだ気がする。精霊がどうだか知らないが、自分もこの絨毯に意識を溶かしてみるか。優作は、自分の心が絨毯に入っていくイメージを始めた。
「そうそう、いい感じだよ優作! この調子で頑張って!」
突然、ヒーローからいつもの自由人に戻るアン。一瞬気が抜けたが、すぐにイメージを再開した。
…‥感じる。少しずつ、絨毯が自分の一部になっていく。今まで妨害してきた突風が、自分を導くように道を開ける。次に絨毯がどこに行こうとするのか、頭の中に浮かび上がるようになる。
「あ! 避けて優作! 正面に塔が——」
キュィィイイイイイイン!
絨毯が急旋回をした。だが、今までの旋回とは全く違った。暴れ馬が予想外に動くんじゃない。まるで、熱いものに触った時に瞬間的に手を放すような、目の前に何かが飛んできて、無意識に目を閉じるような感覚。
「あ……、優作。ここまで……」
アンは確信した。優作と精霊が、完全にシンクロしていた。
「……あれ? 今、ぶつかりそうに……」
優作はまだ理解していない。やや戸惑う優作をみて、アンは安堵の表情を浮かべた。
絨毯を止めるのは簡単だ。自分が一言、『止まれ』と言えば止まるだろう。じゃあ、なんて止まろうとしない? 止まらなければ命を落とすのかもしれないのに。そこまでして、自分の命を懸けて、“信念”を貫くのか? 無謀で、成功する確率が少ない賭けに、自分の命を差し出すのか?
……ここまで耐えたんだ。きっと、可能性がある。信じよう。優作は、初めてこの言葉を使った。他人も、自分も全く信用せず、壁の中に閉じこもっていた学生が、初めてこんな不安定で、期待利得の少ない言葉を使った。
だが、この時のこの言葉は、他のどんなものより強い力を持っていた。どんなもの、自分の命すら顧みずに貫く信念、その原動力となる恩人への気持ち。もはや理屈なんて必要ない。
軟弱な青年は、無限の力と、無限の可能性を手に入れていた。そう、どんなことでも。ありえなことを引き起こす、奇跡さえも起こす力を——。
「——落ち着いて! まずは精霊と親和することだけを考えて!」
——! もうろうとする意識の中に、聞き覚えのある声が聞こえた。優作は瞬間的に振り返った。そして、目に映ったのは——。
——鮮やかな赤髪と上品なダッフルコートをなびかせ、つばの広い帽子をかぶる、長身な女性。何の前触れもなく降りかかる、エネルギーの塊。いつも明るくて自由な人。突然自分の前に現れて、突然姿を消してしまった恩人。いつも明るいわけじゃない。恐ろしい時もあるし、とても偉大な人間に見えるときもある。だけど、暗い部分や、触れたくない部分もある。そんな、暴風のような魔法使い——。
そこにいたのは、アンだった。アンが、優作の真横を飛んでいた。複雑に動く優作の絨毯の挙動を完璧にトレースし、完全に真横に着いていた。
今までのこと、アンと出会い、別れ、今に至るあらゆることが思い返される。やっと、再会できた。信じてよかった。諦めないで良かった。優作の涙腺が、急に熱くなった。体の底から感動が、熱い気持ちが湧き上がってきた。
「あ……、アン。……俺——」
「悪いけど雑談してる余裕はない。まず、落ち着いて。そして、絨毯に宿る精霊のことを考えて」
アンは全く感傷に浸ることなく、優作へ的確な指示を送る。この時のアンの目は、ヒーローのような目だった。相手を救うこと、それだけを考え、ただ真っ直ぐ相手を見つめる。かっこいいな。ほんと——。
「もたもたしないで。死ぬよ」
アンがきっぱりと言葉を放つ。その時のオーラは、かっこよさを通り越して少し怖かった。
「わ、分かった。……やってみる」
優作は一度深呼吸をし、絨毯へと意識を集中させる。
「たぶん優作は、じぶんで絨毯を“操縦”しようと考えていたと思う。だけど違う。飛行術は、精霊がいないと成り立たない。だから常に精霊を尊重する。自由に飛ぶために、自分と精霊を親和させる。そうすると、自分の意志と精霊の意思が一致する。そうやって飛ぶの。決して意思を押し付けるわけじゃない。まさか、その基本を教え忘れていたとは。このヴィヴィアン、一生の不覚。とにかく、精霊を思い浮かべて」
と、言われてもなあ……。精霊を思い浮かべる感覚がよく分からない。とりあえず、絨毯に意識を集中させる。そういえば、前に絨毯を作った時、“絨毯に引き込まれる”という感覚のが大切だと読んだ気がする。精霊がどうだか知らないが、自分もこの絨毯に意識を溶かしてみるか。優作は、自分の心が絨毯に入っていくイメージを始めた。
「そうそう、いい感じだよ優作! この調子で頑張って!」
突然、ヒーローからいつもの自由人に戻るアン。一瞬気が抜けたが、すぐにイメージを再開した。
…‥感じる。少しずつ、絨毯が自分の一部になっていく。今まで妨害してきた突風が、自分を導くように道を開ける。次に絨毯がどこに行こうとするのか、頭の中に浮かび上がるようになる。
「あ! 避けて優作! 正面に塔が——」
キュィィイイイイイイン!
絨毯が急旋回をした。だが、今までの旋回とは全く違った。暴れ馬が予想外に動くんじゃない。まるで、熱いものに触った時に瞬間的に手を放すような、目の前に何かが飛んできて、無意識に目を閉じるような感覚。
「あ……、優作。ここまで……」
アンは確信した。優作と精霊が、完全にシンクロしていた。
「……あれ? 今、ぶつかりそうに……」
優作はまだ理解していない。やや戸惑う優作をみて、アンは安堵の表情を浮かべた。
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