10 / 31
魔法使いの章
モニタリング
しおりを挟む
「俺です。ハヤテです」
その少年は、叡持の新しい使い魔、ハヤテだった。
身長も小さく、なんというか、どこか守ってあげたくなるような雰囲気の少年に化けていた。
あまりにも化けるのが上手かったので、叡持すら見破ることが出来なかった。
「は~、なるほど。シオリさんに変身術を叩き込まれたのですね」
「はい。あんなにしごかれるとは思いませんでした」
「ついでに言葉も変わりましたね」
「そこはノリです。なんか、姿が変わると言葉も変わるというか。これでも、一時的に人間に化けて街に潜伏したこともあったんですよ。ですが、自分の変身術がいかにちゃっちいものだったのか思い知りました」
「なるほど。ところで、僕に何か御用ですか?」
「……いや、ただ『この姿を見せてこい!』と言われただけです」
少年の姿をしたハヤテが、恥ずかしそうに下を向いた。
「……そうですか。シオリさんも張り切っていますね。せっかくですから、あなたも一緒にモニタリングしませんか? これからあなたには、僕をいろんな場所に運んでもらう仕事をして頂きます。出来る限り親密になったほうがいいでしょう」
そういえば、これから俺はこの魔法使いを運ぶ騎乗竜になるんだっけ? その修行もみっちりとつけられた。
「あ、はい。なら、お言葉に甘えて……」
ハヤテは、叡持が眺めるモニターを一緒に眺め始めた。
モニター一つ一つには、被検体の現在の様子と、様々なデータがリアルタイムに表示されている。
「これ、全部被検体なんですか?」
「はい。この方たちは、全員僕の実験にご協力頂いている方々です。彼らは皆、爆轟術を扱うための魔道具『Dドライバ』の副作用についてサンプリングさせて頂いているのです。Dドライバの製造プラントはもう御覧になられましたか?」
「いいえ、まだ全然この城の中を案内されていないので」
「そうですか。ぜひ一度ご覧になって下さい。きっと驚きますよ」
叡持は目を輝かせながらハヤテを見ていた。
これが、あの時の魔法使いなのか。
ハヤテにとって、あの時の印象は強烈だった。
感情の読み取れない、冷たい魔法使いの印象が。
「あの……、気になってたんですけど、この被検体って、どうやって選んでいるんですか?」
「いい質問ですね」
そう言いながら叡持は立ち上がり、モニターに別のものを映し始めた。
先ほどまでのモニタリングではなく、正直よく分からない、何かもやもやしたような謎の図が表示されている。
「これはドローンから送られてくる解析データです。主に都市部上空を飛びながら、それぞれの実験に適合した被検体を探しているのです」
「ど、どろーん?」
「そういえば、こちらの方々には馴染がないですよね。簡単に言うと、無人で、勝手に飛んでいろいろな任務を行うことが出来る機械です。特にこの城で製造されるドローンは低級の精霊を搭載し、魔力で動いているので、非常に性能がいいんです」
「はあ……」
俺は、まだまだ学ばなくてはいけない。ここは、明らかにレベルが違う。俺達モンスターが必死に逃げていた冒険者なんか、全く太刀打ちできないほどの魔術を持ち、それらを生かすとんでもない力を持っている。そんな奴の使い魔なのだから、自分もそんなレベルに到達しなくてはいけない。
「……ところで、この被検体って、この後どうなるんですか?」
「ほぼ確実に、副作用におかされて破滅します」
「——!」
「そんなに驚かないでください。これは、副作用の研究なのですから」
叡持は天真爛漫な笑みを浮かべながら、ハヤテに説明する。
「つ……、つまり、ここに映っている人間は……、みんな、破滅するって、ことですか?」
「その通りです。全員、そのための『同意』をして頂いています」
ハヤテは、大量に映されている人間たちを、一人一人眺めた。
ほとんどは悪い奴だ。強盗、盗賊、殺人鬼、ろくな人間はほとんどいない。みんな悪い顔つきをしているし、正直こんな目に遭って仕方ない奴らだ。
「どうされましたか?」
「……いや、なんとも」
「では、一つ確認させて頂きたいのですが……」
「?」
「あなたは、人間が嫌いですよね?」
ドキッとした。自分が今、抱いていた感情と、もともと抱いていた感情が、激しく衝突した気がした。
「……は、はい。そうです」
「なら、とっても嬉しいことではないですか? 見ているだけで、人間が次々と破滅していくのですから」
叡持の言葉に対し、ハヤテは何も言えなかった。
なぜかは分からないもやもやに支配された。
代わりに、ハヤテは話題を変えることにした。
「あの、わざわざこういう悪人を選んでいるのですか?」
「いいえ、そのつもりはありません。ですが、人によって異形化の進行は違います」
「異形化?」
「はい、Dドライバによる副作用のことです。この副作用の進行が、なるべく早い方が大量のサンプルが集まります。すると、自然とそういう人たちに集中するわけです」
「はあ……」
俺は、この魔法使いのようにはなれない。これほど目的に対して迷いがなく、一直線に突き進むような力は俺にはない。
だが、それでいいのだろうか? この魔法使いは、本当にこれでいいのだろうか?目の前の魔法使いは、何か大切なものが欠落しているのではないか。
——何か、辛い経験でもしたのだろうか。
勘だけは鋭いハヤテは、この時何かを悟った。
叡持は、何かがえぐり取られている。と。
その少年は、叡持の新しい使い魔、ハヤテだった。
身長も小さく、なんというか、どこか守ってあげたくなるような雰囲気の少年に化けていた。
あまりにも化けるのが上手かったので、叡持すら見破ることが出来なかった。
「は~、なるほど。シオリさんに変身術を叩き込まれたのですね」
「はい。あんなにしごかれるとは思いませんでした」
「ついでに言葉も変わりましたね」
「そこはノリです。なんか、姿が変わると言葉も変わるというか。これでも、一時的に人間に化けて街に潜伏したこともあったんですよ。ですが、自分の変身術がいかにちゃっちいものだったのか思い知りました」
「なるほど。ところで、僕に何か御用ですか?」
「……いや、ただ『この姿を見せてこい!』と言われただけです」
少年の姿をしたハヤテが、恥ずかしそうに下を向いた。
「……そうですか。シオリさんも張り切っていますね。せっかくですから、あなたも一緒にモニタリングしませんか? これからあなたには、僕をいろんな場所に運んでもらう仕事をして頂きます。出来る限り親密になったほうがいいでしょう」
そういえば、これから俺はこの魔法使いを運ぶ騎乗竜になるんだっけ? その修行もみっちりとつけられた。
「あ、はい。なら、お言葉に甘えて……」
ハヤテは、叡持が眺めるモニターを一緒に眺め始めた。
モニター一つ一つには、被検体の現在の様子と、様々なデータがリアルタイムに表示されている。
「これ、全部被検体なんですか?」
「はい。この方たちは、全員僕の実験にご協力頂いている方々です。彼らは皆、爆轟術を扱うための魔道具『Dドライバ』の副作用についてサンプリングさせて頂いているのです。Dドライバの製造プラントはもう御覧になられましたか?」
「いいえ、まだ全然この城の中を案内されていないので」
「そうですか。ぜひ一度ご覧になって下さい。きっと驚きますよ」
叡持は目を輝かせながらハヤテを見ていた。
これが、あの時の魔法使いなのか。
ハヤテにとって、あの時の印象は強烈だった。
感情の読み取れない、冷たい魔法使いの印象が。
「あの……、気になってたんですけど、この被検体って、どうやって選んでいるんですか?」
「いい質問ですね」
そう言いながら叡持は立ち上がり、モニターに別のものを映し始めた。
先ほどまでのモニタリングではなく、正直よく分からない、何かもやもやしたような謎の図が表示されている。
「これはドローンから送られてくる解析データです。主に都市部上空を飛びながら、それぞれの実験に適合した被検体を探しているのです」
「ど、どろーん?」
「そういえば、こちらの方々には馴染がないですよね。簡単に言うと、無人で、勝手に飛んでいろいろな任務を行うことが出来る機械です。特にこの城で製造されるドローンは低級の精霊を搭載し、魔力で動いているので、非常に性能がいいんです」
「はあ……」
俺は、まだまだ学ばなくてはいけない。ここは、明らかにレベルが違う。俺達モンスターが必死に逃げていた冒険者なんか、全く太刀打ちできないほどの魔術を持ち、それらを生かすとんでもない力を持っている。そんな奴の使い魔なのだから、自分もそんなレベルに到達しなくてはいけない。
「……ところで、この被検体って、この後どうなるんですか?」
「ほぼ確実に、副作用におかされて破滅します」
「——!」
「そんなに驚かないでください。これは、副作用の研究なのですから」
叡持は天真爛漫な笑みを浮かべながら、ハヤテに説明する。
「つ……、つまり、ここに映っている人間は……、みんな、破滅するって、ことですか?」
「その通りです。全員、そのための『同意』をして頂いています」
ハヤテは、大量に映されている人間たちを、一人一人眺めた。
ほとんどは悪い奴だ。強盗、盗賊、殺人鬼、ろくな人間はほとんどいない。みんな悪い顔つきをしているし、正直こんな目に遭って仕方ない奴らだ。
「どうされましたか?」
「……いや、なんとも」
「では、一つ確認させて頂きたいのですが……」
「?」
「あなたは、人間が嫌いですよね?」
ドキッとした。自分が今、抱いていた感情と、もともと抱いていた感情が、激しく衝突した気がした。
「……は、はい。そうです」
「なら、とっても嬉しいことではないですか? 見ているだけで、人間が次々と破滅していくのですから」
叡持の言葉に対し、ハヤテは何も言えなかった。
なぜかは分からないもやもやに支配された。
代わりに、ハヤテは話題を変えることにした。
「あの、わざわざこういう悪人を選んでいるのですか?」
「いいえ、そのつもりはありません。ですが、人によって異形化の進行は違います」
「異形化?」
「はい、Dドライバによる副作用のことです。この副作用の進行が、なるべく早い方が大量のサンプルが集まります。すると、自然とそういう人たちに集中するわけです」
「はあ……」
俺は、この魔法使いのようにはなれない。これほど目的に対して迷いがなく、一直線に突き進むような力は俺にはない。
だが、それでいいのだろうか? この魔法使いは、本当にこれでいいのだろうか?目の前の魔法使いは、何か大切なものが欠落しているのではないか。
——何か、辛い経験でもしたのだろうか。
勘だけは鋭いハヤテは、この時何かを悟った。
叡持は、何かがえぐり取られている。と。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。
それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。
※全3話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる