9 / 31
魔法使いの章
透明な強盗犯、最強の事務員(後編)
しおりを挟む
どう考えても非効率だ。
新人は、自分の適性より少し上を受けて、少しずつ成長していくもの。
その過程で、成長できなかった者はおいていかれる。俺みたいに。
こんなことは、今に始まったことじゃない。
先輩は、しょっちゅう新人に似たようなことをしている。
そして、ほどんどの新人は、除籍処理をされることになる。
一体先輩は何を考えているのだろう。
いつもクールな先輩が、これほどまでにやること。
何か深い理由でもあるのか……。
ゴーン。
昼休みの鐘が鳴った。
「おっしゃああああああ! 休みだぜえええええ!」
「静かにしなさい、暑苦しい」
シーラは一言残して席を立つ。
「あ、先輩! 待ってください! 俺もついていきます!」
トーマスは金魚の糞のように、シーラにくっついている。
「分かったわ。早く昼食を済ませて、早く戻りましょう」
「はい!」
二人はそのまま、バックヤードへと歩いていった。
「そ、そうだ先輩! こんな噂知ってますか? 『楽して力が欲しい冒険者の前に、謎の魔法使いが現れる。そして、超強力な魔道具をくれるんです。ですが、その使用者はなぜか行方不明になってしまう』って噂っす!」
「ふーん。面倒な除籍処理を増やす輩がいるのね」
シーラはあまり食いつかない。
「いや、そんなことよりも、『超強力な魔道具』ってところに惹かれません?」
「いいえ」
やはりシーラはクールに返す。
「トーマス。いいこと? 世の中に、無料なものは存在しないのよ? 何かを使えば、必ず対価を払わなくてはいけないの。それに、私たちは無料でもらったものには絶対に価値を見出せない。なぜなら、私たちが大切だと思うものは、全て自分がどれほど情熱を捧げたかによって決まるから」
「……先輩、ほんとクールっすよね」
「そんな噂を仕入れる暇があったら、もっと現実的なニュースを仕入れなさい。『この頃頻発している強盗殺人犯のニュース』とかを」
「はい……」
トーマスはすこししょんぼりとしながら、シーラの後を歩いていた。
ロビーは騒がしいが、バックヤードはかなり静かだ。いつもならこのまま休憩室に行って、二人っきりでお昼を食べる。
もっとも、シーラは暇さえあれば魔導書や学術書を読み漁るので、あまり話しかける機会はない。だから、この廊下を歩いている時間が、一番雑談が出来る時間なのだ。
トーマスも分かっているから、この時間に出来る限り話しかけようとする。
だが、この日はそんな雑談を許してはくれなかった。
「……あ、あの……、先輩」
「何? 早く言ってちょうだい」
「あいつ、誰ですか?」
廊下の分かれ道に、見かけない男が立っていた。汚い身なりで、不審な雰囲気を出しながら、周りときょろきょろと見ている。
そして、片手には短剣が握られていた。
「トーマス、不審者よ。強盗殺人犯の可能性もある。このまま取り押さえるわ」
「……はい」
シーラは片手に魔法陣を展開した。これは拘束用魔術。こういう不審者を捕まえる時に、特に役立つものだ。
そして、シーラは満面のビジネススマイルをしながら、おしとやかに、上品に、ゆっくりと近づいていった。
「こんにちは。初めまして、私は——」
バシュッ!
男が、狂ったようにナイフを振り回した。
シーラはひらりとよけ、十分な間合いを取る。
「先輩!」
トーマスは加勢しようとした。が——。
「雑魚は引っ込んでなさい!」
「ひいっ!」
シーラの声が、トーマスを硬直させた。
完璧な事務員とも、ビジネススマイルのお姉さんとも違う。
鍛え抜かれた戦士のような声が、トーマスにガツンとぶつかった。
「何硬直してるの! 早く増援を呼んできなさい!」
「はっ、はは、はいっ! 先輩、必ず——」
「無駄口を叩かない!」
「はいっ!」
トーマスは走り去った。
余計な者がいなくなったことを確認したシーラは、右手に新たな魔法陣を描いた。
シュン。
そこから出てきたのは、一振りの長剣だった。
女性が使うにしては武骨すぎるデザイン。
まっすぐな鍔に、緋色の柄を備えた、まさに戦うための長剣。
「まさか、こんなところでこれを出すことになるなんてね」
シーラは剣を構え、不審な男を眼力で威嚇する。
「……お前、女のくせにそんな剣を持ちやがって」
男は罵倒する。
「さて、いい加減、お縄についてもらいましょうか」
====================
<<<<<<<<<<>>>>>>>>>>
====================
叡持は画面を眺めながら、手元のノートに複雑な文字列を書き溜めている。
今回は異形化の進行が随分と遅い。何か特徴があるのか。叡持は頭をフル回転させ、様々な可能性を考えていた。
それにしても厄介なのは、ここのギルドの人間に、Dドライバの存在を知られてしまう可能性があること。
そうすれば、自分はひっそりと研究することが出来なくなるかもしれない。
そうやって、お師匠様も……。
「入りますよ」
叡持の部屋に、見慣れない少年が入ってきた。
「あの……、どちら様で……」
新人は、自分の適性より少し上を受けて、少しずつ成長していくもの。
その過程で、成長できなかった者はおいていかれる。俺みたいに。
こんなことは、今に始まったことじゃない。
先輩は、しょっちゅう新人に似たようなことをしている。
そして、ほどんどの新人は、除籍処理をされることになる。
一体先輩は何を考えているのだろう。
いつもクールな先輩が、これほどまでにやること。
何か深い理由でもあるのか……。
ゴーン。
昼休みの鐘が鳴った。
「おっしゃああああああ! 休みだぜえええええ!」
「静かにしなさい、暑苦しい」
シーラは一言残して席を立つ。
「あ、先輩! 待ってください! 俺もついていきます!」
トーマスは金魚の糞のように、シーラにくっついている。
「分かったわ。早く昼食を済ませて、早く戻りましょう」
「はい!」
二人はそのまま、バックヤードへと歩いていった。
「そ、そうだ先輩! こんな噂知ってますか? 『楽して力が欲しい冒険者の前に、謎の魔法使いが現れる。そして、超強力な魔道具をくれるんです。ですが、その使用者はなぜか行方不明になってしまう』って噂っす!」
「ふーん。面倒な除籍処理を増やす輩がいるのね」
シーラはあまり食いつかない。
「いや、そんなことよりも、『超強力な魔道具』ってところに惹かれません?」
「いいえ」
やはりシーラはクールに返す。
「トーマス。いいこと? 世の中に、無料なものは存在しないのよ? 何かを使えば、必ず対価を払わなくてはいけないの。それに、私たちは無料でもらったものには絶対に価値を見出せない。なぜなら、私たちが大切だと思うものは、全て自分がどれほど情熱を捧げたかによって決まるから」
「……先輩、ほんとクールっすよね」
「そんな噂を仕入れる暇があったら、もっと現実的なニュースを仕入れなさい。『この頃頻発している強盗殺人犯のニュース』とかを」
「はい……」
トーマスはすこししょんぼりとしながら、シーラの後を歩いていた。
ロビーは騒がしいが、バックヤードはかなり静かだ。いつもならこのまま休憩室に行って、二人っきりでお昼を食べる。
もっとも、シーラは暇さえあれば魔導書や学術書を読み漁るので、あまり話しかける機会はない。だから、この廊下を歩いている時間が、一番雑談が出来る時間なのだ。
トーマスも分かっているから、この時間に出来る限り話しかけようとする。
だが、この日はそんな雑談を許してはくれなかった。
「……あ、あの……、先輩」
「何? 早く言ってちょうだい」
「あいつ、誰ですか?」
廊下の分かれ道に、見かけない男が立っていた。汚い身なりで、不審な雰囲気を出しながら、周りときょろきょろと見ている。
そして、片手には短剣が握られていた。
「トーマス、不審者よ。強盗殺人犯の可能性もある。このまま取り押さえるわ」
「……はい」
シーラは片手に魔法陣を展開した。これは拘束用魔術。こういう不審者を捕まえる時に、特に役立つものだ。
そして、シーラは満面のビジネススマイルをしながら、おしとやかに、上品に、ゆっくりと近づいていった。
「こんにちは。初めまして、私は——」
バシュッ!
男が、狂ったようにナイフを振り回した。
シーラはひらりとよけ、十分な間合いを取る。
「先輩!」
トーマスは加勢しようとした。が——。
「雑魚は引っ込んでなさい!」
「ひいっ!」
シーラの声が、トーマスを硬直させた。
完璧な事務員とも、ビジネススマイルのお姉さんとも違う。
鍛え抜かれた戦士のような声が、トーマスにガツンとぶつかった。
「何硬直してるの! 早く増援を呼んできなさい!」
「はっ、はは、はいっ! 先輩、必ず——」
「無駄口を叩かない!」
「はいっ!」
トーマスは走り去った。
余計な者がいなくなったことを確認したシーラは、右手に新たな魔法陣を描いた。
シュン。
そこから出てきたのは、一振りの長剣だった。
女性が使うにしては武骨すぎるデザイン。
まっすぐな鍔に、緋色の柄を備えた、まさに戦うための長剣。
「まさか、こんなところでこれを出すことになるなんてね」
シーラは剣を構え、不審な男を眼力で威嚇する。
「……お前、女のくせにそんな剣を持ちやがって」
男は罵倒する。
「さて、いい加減、お縄についてもらいましょうか」
====================
<<<<<<<<<<>>>>>>>>>>
====================
叡持は画面を眺めながら、手元のノートに複雑な文字列を書き溜めている。
今回は異形化の進行が随分と遅い。何か特徴があるのか。叡持は頭をフル回転させ、様々な可能性を考えていた。
それにしても厄介なのは、ここのギルドの人間に、Dドライバの存在を知られてしまう可能性があること。
そうすれば、自分はひっそりと研究することが出来なくなるかもしれない。
そうやって、お師匠様も……。
「入りますよ」
叡持の部屋に、見慣れない少年が入ってきた。
「あの……、どちら様で……」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる