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魔法使いの章
ファーストコンタクト(中編)
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いよいよか。
ハヤテは竜の姿となり、叡持が設計した魔道具をいくつか装備し、いつでも出発できる用意を済ませた。
「お待たせしました」
奥から、一人の魔法使いが歩いてきた。
蒼い装束を身に纏い、大きなゴーグルで顔を隠す、冷たい魔法使い。
久々に叡持の法衣姿を見た。ここのところ、叡持はずっと普段着だったので、天真爛漫な、どこか欠落した叡持を見ていた。
だが、思い出した。あの時の恐怖を。圧倒的な強者に出会ったあの感覚を。
「ではハヤテさん。よろしくお願いします」
ゴーグルの向こう側から、いつもの叡持が声をかけて来た。いつもの、天真爛漫な魔法使いが。
彼はハヤテの上に乗り、いつでも出発できるサインを出す。
「……よし、行きます」
ぶわっと、力いっぱい翼を羽ばたかせる。城に生えた木々が大きく揺れ、落ちていた木の葉が大きく巻き上げられる。
「よし、じゃあ行ってこい! 叡持! ハヤテ!」
「では、行ってきます」
〇 〇
ミスギスの夜は活気に満ちている。多くの飲食店が店を開け、仕事終わりの人間を受け入れる。ある者は朝まで飲み明かし、ある者はその場で寝泊まりすることもある。
この街の灯りは眩しく、おかげで夜でも町を見失うことはない。もっとも、叡持とハヤテはナビゲーションのおかげで迷うことはないのだが。
叡持はハヤテに乗りながら、ミスギス上空を漂っていた。
「さすがですね、ハヤテさん。速さも、乗り心地も極上です」
「……褒めすぎです」
ハヤテは少し頬を赤くした。まだ鱗が柔らかいので、頬が赤くなるとすぐに分かる。
「こうやって、弟さんを護りながら飛んでいたのですか?」
「——! な、なななななななな……」
「すみません。変なことを言ってしまいました。……さて、もう被検体のデータを詳しく取れるはずなのですが……」
叡持の声が止まった。ハヤテは、叡持の雰囲気が一瞬で変わったことを理解した。
「シオリさん。リアルタイムのスペクトルは映っていますか?」
『……ああ、通信も良好、しっかりと映ってるぜ』
「こんなスペクトルの形、僕は見たことがない気がします」
『ああ、私も見覚えがない。早速全データベースを参照して、徹底的な解析を行う。叡持は引き続きサンプリング作業を頼む』
「はい。分かりました。シオリさんもお願いします」
叡持は顔を上げ、ハヤテに話しかけた。
「接近します」
「え、えええ?」
〇 〇
「ああ、あああっ、ああああああ!」
奇声を発しながら、路地裏を走る一人の男。
ハヤテはそれを、街の上から眺めていた。
叡持が開発した魔道具は、全てが副作用を持つわけではない。むしろ、簡単な魔術を使うものなら、安全に使えるものが多い。
現在使用しているものは「遮蔽装置」というもの。何やら、周りから姿が見えなくなる道具らしい。
そういえば、今回の被検体は、「遮蔽装置付き短剣型Dドライバ」のテストを行っていたんだっけ? なんで俺が使っているものには副作用がないのか。ハヤテは疑問を解決しようと頭を回転させ始めた。
『喝ッ!』
その時、シオリの刺毛弾がハヤテに直撃した。
「ぎゃああああああ!」
『フィールドワーク中に注意をおろそかにするとは、いい度胸だな』
しまった……。棟梁だ。
「す、すみません棟梁! ……てか、どうやって飛ばしたんですか?」
『この程度、叡持の魔道具を使えばいくらでもテレポートさせることが出来る』
うわあ……。なんでもありなのか、この人たちは。
『それよりもハヤテ、しっかりと叡持を見ていろ。彼は、私の主人なんだからな』
シオリの言葉を聞き、ハヤテはどきっとした。今まで、棟梁ことシオリには散々しごかれた。だが、叡持はこんなとんでもない怪物を使い魔として従えている。
何より、あの時理解していたはずだ。叡持の強さが、尋常じゃないことを。
「……棟梁。目が覚めました。しっかりと、叡持殿を見て、成長します」
『その心意気だ。頑張れよ!』
ハヤテは気持ちを切り替えた。叡持は今、もっと被検体に接近している。叡持の行動、戦い方は、絶対に参考になる。しっかり見て、自分も力を付けなくては。
復讐を果たすため、弟を、見つけるために……。
…………
「ごおお、ぐふう、があああああ……」
暗い路地裏で、苦しむ人間が一人。辺りに汚い廃液をまき散らしながら、ゆっくりと進んでいく。
いつもならここらへんで異形化を促すところだが、今回はそうはいかない。
——あの黒い煙は一体?
このスペクトルは、あの煙のものだ。あの煙は、被検体の中に入り込もうとしているように見える。
魔術スペクトルを取り続ける叡持は、ずっと疑問を浮かべていた。やはり、こんなスペクトルは見たことがない。強いて言えば、呪いなんかはこんなスペクトルを示すことはあるが。だとしたら、派生型か? それなら解析することで分類できる。
叡持は様々な仮説を立てながら、淡々とデータを収集していた。
もし、この煙が、今まで見たこともないものだとしたら……。
「シオリさん。あの煙をサンプリングします」
『は? ちょっと待て、いきなりはきついぜ。そもそも、あの黒い煙が何なのか、どうすればいいかも……』
「出来ることをすべて試します」
『……分かった。出来る限りサポートする』
「ありがとうございます」
礼を言った後、叡持は周りに大量の魔法陣を並べた。
突然目の前に現れた未知の存在。
叡持はファーストコンタクトの興奮を、誰にも知られずに味わっていた。
ハヤテは竜の姿となり、叡持が設計した魔道具をいくつか装備し、いつでも出発できる用意を済ませた。
「お待たせしました」
奥から、一人の魔法使いが歩いてきた。
蒼い装束を身に纏い、大きなゴーグルで顔を隠す、冷たい魔法使い。
久々に叡持の法衣姿を見た。ここのところ、叡持はずっと普段着だったので、天真爛漫な、どこか欠落した叡持を見ていた。
だが、思い出した。あの時の恐怖を。圧倒的な強者に出会ったあの感覚を。
「ではハヤテさん。よろしくお願いします」
ゴーグルの向こう側から、いつもの叡持が声をかけて来た。いつもの、天真爛漫な魔法使いが。
彼はハヤテの上に乗り、いつでも出発できるサインを出す。
「……よし、行きます」
ぶわっと、力いっぱい翼を羽ばたかせる。城に生えた木々が大きく揺れ、落ちていた木の葉が大きく巻き上げられる。
「よし、じゃあ行ってこい! 叡持! ハヤテ!」
「では、行ってきます」
〇 〇
ミスギスの夜は活気に満ちている。多くの飲食店が店を開け、仕事終わりの人間を受け入れる。ある者は朝まで飲み明かし、ある者はその場で寝泊まりすることもある。
この街の灯りは眩しく、おかげで夜でも町を見失うことはない。もっとも、叡持とハヤテはナビゲーションのおかげで迷うことはないのだが。
叡持はハヤテに乗りながら、ミスギス上空を漂っていた。
「さすがですね、ハヤテさん。速さも、乗り心地も極上です」
「……褒めすぎです」
ハヤテは少し頬を赤くした。まだ鱗が柔らかいので、頬が赤くなるとすぐに分かる。
「こうやって、弟さんを護りながら飛んでいたのですか?」
「——! な、なななななななな……」
「すみません。変なことを言ってしまいました。……さて、もう被検体のデータを詳しく取れるはずなのですが……」
叡持の声が止まった。ハヤテは、叡持の雰囲気が一瞬で変わったことを理解した。
「シオリさん。リアルタイムのスペクトルは映っていますか?」
『……ああ、通信も良好、しっかりと映ってるぜ』
「こんなスペクトルの形、僕は見たことがない気がします」
『ああ、私も見覚えがない。早速全データベースを参照して、徹底的な解析を行う。叡持は引き続きサンプリング作業を頼む』
「はい。分かりました。シオリさんもお願いします」
叡持は顔を上げ、ハヤテに話しかけた。
「接近します」
「え、えええ?」
〇 〇
「ああ、あああっ、ああああああ!」
奇声を発しながら、路地裏を走る一人の男。
ハヤテはそれを、街の上から眺めていた。
叡持が開発した魔道具は、全てが副作用を持つわけではない。むしろ、簡単な魔術を使うものなら、安全に使えるものが多い。
現在使用しているものは「遮蔽装置」というもの。何やら、周りから姿が見えなくなる道具らしい。
そういえば、今回の被検体は、「遮蔽装置付き短剣型Dドライバ」のテストを行っていたんだっけ? なんで俺が使っているものには副作用がないのか。ハヤテは疑問を解決しようと頭を回転させ始めた。
『喝ッ!』
その時、シオリの刺毛弾がハヤテに直撃した。
「ぎゃああああああ!」
『フィールドワーク中に注意をおろそかにするとは、いい度胸だな』
しまった……。棟梁だ。
「す、すみません棟梁! ……てか、どうやって飛ばしたんですか?」
『この程度、叡持の魔道具を使えばいくらでもテレポートさせることが出来る』
うわあ……。なんでもありなのか、この人たちは。
『それよりもハヤテ、しっかりと叡持を見ていろ。彼は、私の主人なんだからな』
シオリの言葉を聞き、ハヤテはどきっとした。今まで、棟梁ことシオリには散々しごかれた。だが、叡持はこんなとんでもない怪物を使い魔として従えている。
何より、あの時理解していたはずだ。叡持の強さが、尋常じゃないことを。
「……棟梁。目が覚めました。しっかりと、叡持殿を見て、成長します」
『その心意気だ。頑張れよ!』
ハヤテは気持ちを切り替えた。叡持は今、もっと被検体に接近している。叡持の行動、戦い方は、絶対に参考になる。しっかり見て、自分も力を付けなくては。
復讐を果たすため、弟を、見つけるために……。
…………
「ごおお、ぐふう、があああああ……」
暗い路地裏で、苦しむ人間が一人。辺りに汚い廃液をまき散らしながら、ゆっくりと進んでいく。
いつもならここらへんで異形化を促すところだが、今回はそうはいかない。
——あの黒い煙は一体?
このスペクトルは、あの煙のものだ。あの煙は、被検体の中に入り込もうとしているように見える。
魔術スペクトルを取り続ける叡持は、ずっと疑問を浮かべていた。やはり、こんなスペクトルは見たことがない。強いて言えば、呪いなんかはこんなスペクトルを示すことはあるが。だとしたら、派生型か? それなら解析することで分類できる。
叡持は様々な仮説を立てながら、淡々とデータを収集していた。
もし、この煙が、今まで見たこともないものだとしたら……。
「シオリさん。あの煙をサンプリングします」
『は? ちょっと待て、いきなりはきついぜ。そもそも、あの黒い煙が何なのか、どうすればいいかも……』
「出来ることをすべて試します」
『……分かった。出来る限りサポートする』
「ありがとうございます」
礼を言った後、叡持は周りに大量の魔法陣を並べた。
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