爆轟のマッドワイズマン

新聞紙

文字の大きさ
18 / 31
魔法使いの章

暴走の少年領主

しおりを挟む
「お、お許しください!」
「やだ」

 少年領主のあどけない一言と共に、目の前の命が吹き飛んだ。

「じゃあいいね。次は隣の都市を占領しよう」

 領主の発言に、全員静かにうなずいた。少しでも意義を申し立てれば……。


 臣下の表情を見ながら、少年領主はこの上ない愉悦に浸った。

 僕はこれが欲しかった。

 全員が、否応なく自分の言うことを聞く。誰も自分を邪魔しない。全員が自分にひれ伏すこの快感を、一人、味わっていた。


==============
<<<<<<<>>>>>>>
==============


「うわあ……」

 叡持の部屋には大量のモニターが設置されており、被検体一人一人をリアルタイムでモニタリングすることが出来る。
 ハヤテは少年の姿となり、この部屋で一人、モニターを眺めていた。この時見ていたのは、とある地方の領主。突然大きな地位を与えられ、暴走している一人の少年。

「ここにいらっしゃったのですね」

 普段着の叡持が、静かに部屋に入ってきた。

「……はい。この少年が、どうしても気になって」
「ああ、この少年領主のことですか。何か興味深い点でも?」

 叡持はひょうひょうな笑顔を浮かべている。それが、どこか怖い。恐らく、何かの感情が欠落している影響なのだろう。

「なんか、この子が余りにも可哀そうで……」
「可哀そう?」
「はい。だって、大人の都合で勝手に領主にされて、勝手に閉じ込められて、そして、こんな恐ろしい人間に……」
「普通ですよ」
「……はい?」

 叡持が発した思いがけない発言に、ハヤテは困惑した。

「“普通”って、どういう……」
「正確には、一定の法則に則っている。と言うべきでしょうか」
「“法則”……、ですか」
「もちろん、大量の実例を帰納させて導いたものですが」

 そう言うと、叡持はモニターの一つに大量の人間を表示した。画面を何分割もするので、一人当たりの面積は驚くほど小さい。そして、ここに表示された者は全員、強盗、殺人鬼などの極悪人だった。

「Dドライバの被検体に、このような凶悪犯が多いのはご存じでしょう」
「……はい。さんざん見てます」
「ですが、初めから凶悪犯だった被検体は稀です」
「え?」
「もちろん、あなたの命を狙ったあの冒険者のように、素行の悪い人間は多いです。しかし、凶悪犯、と呼べるまでの人間は非常に少ない」
「じゃ、じゃあ、なんで……」
「僕は疑問に思っていました。被検体として適性が高い人間は、どうして“力”を渇望するのか」

 叡持はやはり目を輝かせていた。だが、ハヤテにとって、それは聞くまでもないこと。力を渇望する理由、そんなもの一つしかない。

「力だけでは何も出来ません。それは、ただ燃料をその場に置いておいても何も機能しないようなものです。力を生かすためには、何か目的が必要になります。それは、部屋を暖めるために燃料を燃やすようなものです。逆に言うと、何か目的がなければ、力を欲することはありません。真夏に、ストーブ用の燃料が不要なのと全く同じです」
「結局何が言いたいんですか?」
「つまり、力を欲する者は大抵何か目的を持っています。そして多くの場合、それは強烈な不満、耐えがたい境遇、理不尽な運命等です。これらの激しい外敵に対し、彼らは暴力を以て目的を果たそうとします」

「暴力を……、以て……。ですか」

 自分は親の仇を討ちたい。それは、暴力を以て解決ということなのか。少し自分が否定されているような気がした。

「暴力というのは、決して効率のいい方法ではありません。しかし、非常に分かりやすく、即効性があります。突然力を手にした場合、暴力に訴えるのは自然と言ってもいいでしょう」

「……叡持殿。あなたが言いたいことは分かります。ですが、それとあの少年領主が可哀そうでないことと、どう関係するんですか?」

 ハヤテは、自分がイラついていることに気が付いた。
 目の前の魔法使いは、圧倒的な力を持っている。そして、その使い魔も、やはり圧倒的な力を持っている。彼らに、弱い者の気持ちは分からない。
 毎朝、今日という日を迎えられるだけでありがたいような、そんないつ消えてもおかしくないほどの弱者の気持ちなんか……。

「あの少年領主は、初めからすべて自分のものだと考えていました。それなのに、自分は何も持っていない。この差異が、彼の不満であり、力を欲する原因です。このように、何かから抑圧されていた人間が、突然力を手に入れれば、その抑圧してきたものを攻撃する。これが、僕が導き出した法則です」

「なんだよそれ……」

 叡持は、やはり目を輝かせている。そんなの当たり前じゃないか。ずっと嫌だったものに、仕返しをする力を持ったら、仕返しするのは当然だろう。

「まあ、ここまでなら普通の“仕返し”の説明です。しかし、面白いのはここからです」

 叡持は更に目の輝きを強めた。同時に、自分が考えた突っ込みを、叡持が予想していたことに、自分の小ささを感じた。

「仮に仕返しを完了させたとして、この暴力の衝動はとどまることを知りません。むしろ増大していきます。そうして、気が付けば無関係な人間、環境に対しても暴力を振るい始めます。それが個人レベルなら凶悪犯、領主クラスになれば暴君と呼ばれるわけです。Dドライバを貸与した場合は、その力を無制限に使い始めます。だから、このような人間は被検体として非常に適しています」

「あ……」

「まあ、結局のところ、スタート地点の違いだけで、あの少年領主も、その臣下も、根は変わらないわけです。そのため、あの少年領主に同情する場所は一切ありません」

「だ、だからって……」

「逆に言えば、このような状況になっても、力を制御しようとする者もいます。例えばハヤテさん、あなたです」

「え……?」

「僕は、あなたのような方には最大限の敬意を払うつもりです。なぜなら、あなたは力の虜にならず、力を制御するだけの強さがあるからです」

 ハヤテは黙った。どう返答すればいいのか、本当に迷った。根拠を聞くべきか、素直に喜ぶべきか……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...