爆轟のマッドワイズマン

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魔法使いの章

消えたファランクス

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 何が……、あった、の?

 どうしてこんな爆発が……?

 シーラは辺りを見回した。先ほどまで立っていた人たちが、みんな倒れている。

 そうだ、父さんは?

 傷ついた体を無理矢理動かし、はぐれてしまった父を探す。そんな時、はるか上空から、一人の青年の声が聞こえた。

「お師匠様が出るまでもありません。この森を侵攻しようとする悪人共は、この僕が追い払います」

 そこにいたのは、蒼い装束に身を包み、大きなゴーグルで顔を隠した魔法使いだった。青白色のオーラを身に纏い、空から私たちを見下ろしている。

 ——勝てない。

 体の底から湧き上がる感情が、自分の動く力を無効化してしまう。その代わりに浮かび上がるのは、猛烈な悔しさと、憎しみと、絶望だった。

 自分は、なんて無力なんだろう……。


〇 〇
〇 〇
〇 〇


「うーん……?」

 目が覚めたシーラは、ベッドから窓を見た。どうやら、既に太陽は南中している。いくら何でも寝すぎかな? まあ、おかげで完全回復が出来た。さて、仕事しないと。

 シーラは手際よく食事を済ませ、素早く身支度を済まし、すぐさま出かける用意を済ませた。

「あら? 角がまだ出てるわね」

 まだ疲れが取れきっていないのか、ちょっとした凡ミスをしてしまった。ポンポンと叩き、角を完全にしまう。

「じゃ、行きましょうか」

〇 〇

「うわああああああああああ!」

 ギルドの事務室で一人、トーマスは悶絶していた。

「兄ちゃん! 仕事はもっと静かにしようぜ!」

 ロビーで暇を持て余していた冒険者が、書類地獄に飲まれるトーマスに話しかけた。
「話しかけないでください! ファランクス先輩にあんなこと言っちゃった手前、先輩が来る前にこの仕事を済ませないと、次にこんなことがあった時、先輩がゆっくり休めないんですよ!」
「そうか、シーラちゃんは今日、遅れて出勤するんだっけな? 前の騒動は大変だったものな? あのシーラちゃんがボロボロになっちゃうんだから。それにしても、シーラちゃんをここまで想うとは、シーラちゃんもいい後輩を持ったな! はっはっは!」

 暇な冒険者、スミスがトーマスを茶化す。大きな笑い声をあげながら、スミスは執拗にトーマスに絡みつく。

「そんなに暇してるんなら、こんな案件でも見てみればいいじゃないですか!」

 トーマスは乱暴に、一枚の宣伝用紙をスミスの前に差し出した。

「あー、案件? 面倒だなあ……。ん……」
「どうしたんすかスミスさん、なんか表情が……」
「兄ちゃん、シーラちゃんの笑顔が見たいなら、この紙、全部処分しといたほうがいい」

 暇してる陽気な冒険者が、突然作り出す真剣な表情。それに戸惑いながら、トーマスはその宣伝用紙を見た。

「な、何でですか? だってこの案件、めっちゃくちゃいいですよ。『急速に力をつけ、周囲を恐怖のどん底に叩き落とす悪逆非道な領主。そのような者は正義の下に裁かれなければいけない。志の高い者は志願せよ』。領主の傭兵募集じゃないですか。大口で美味しい案件の代表ですよ? どうして……」
「シーラちゃんは、傭兵募集で育ての父親を失っている」
「——!」
「シーラちゃんは幼いころ、森の中で、偶然探索していたファランクス君に拾われたんだ。当時のファランクス君は実の娘を失ったばかりでな、それはそれは仲のいい親子になったんだぜ? ……って、おい、兄ちゃん?」

 スミスが見たとき、トーマスは目から滝のような涙を流し、書類を水びだしにしていた。

「う、お、俺……、先輩にそんな過去があったなんて……。だから先輩は強いんですね。孤独で、自分だけを頼りに、ずっと頑張ってきて……、俺、俺……」

 号泣するトーマスを見ながら、スミスは暖かい笑みを浮かべた。

「兄ちゃん、もしシーラちゃんを幸せにしたいなら、絶対に彼女より先に死んじゃだめだぜ」

「……はっ!」

 一瞬で泣き止んだ。その代わり、熱くなっていた箇所が、目頭から顔の全域へ、一気に広まってしまった。

 スミスは大きな笑い声を上げながら、その場を去っていった。

「は、ははは……。こんなところ、あの先輩には絶対に見せられない……。あの、最高なビジネススマイルの……」

「最高なビジネススマイルの?」

 隣から、強そうな女性の声が聞こえた。

「ひいっ! せ、先輩? もう体は……」
「大丈夫。回復したわ」

 目つきの悪い大きな瞳が、トーマスの周辺をくまなくスキャンする。そして、何も言わずにシーラは書類を片付け始めた。

「……すみません、先輩」
「ん? どうしたの急に」

 シーラは軽くトーマスの方を向いた。が、その顔が余りにも強烈で、思わず釘付けにされてしまった。
 顔は潰れ、顔から出る液体と言う液体が放出されている。色は真っ赤になり、正直、どこかの雑魚モンスターと言われた方が説得力のある顔となっていた。

「俺……、俺がこんなにも仕事が出来ないから、先輩を安心してお休みさせることが出来なくて……」
「あなた、何か勘違いしていない?」
「……へ?」
「私は、仕事をするためにここに来たの。別に、あなたのことは関係ない。私は私の目的のために仕事をしているの」

 シーラはクールに言葉を返す。そのクールさに、トーマスはいつも憧れを抱くのだ。

「先輩……、もし困ったら、何でも言ってください。俺、最大限の力で、先輩をお助けします」

「気持ちだけ受け取っておくわ。ありがとう」

 ふわっと、気持ちが浮かび上がる。たった一言で、トーマスは天国へと昇った。

 俺、もっと頑張んないと。少なくとも、絶対に先輩より早く死なない! そう心に決めた。
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