爆轟のマッドワイズマン

新聞紙

文字の大きさ
21 / 31
魔法使いの章

大規模地域観測作戦

しおりを挟む
「ふぅ~」

 広い工場の中で、シオリは一息ついた。

「棟梁、お疲れ様です。これで準備は完璧ですか」
「ああ、全ての機材、設備のアップデートが完了した。ついでに、今までの全データの補完プログラムも完成している。あとは、あの黒い煙をもう一度観測するだけだ」
「……ですが、そう上手くあの煙は出てきてくれるんですか?」
「だから、こういう観測機材を使ってスキャンするわけだ」
「そうなんですか?」
「ああ、あそこらへんを見てみろ」

 シオリに指を差され、ハヤテはその方向を向いた。そこに置かれているのは、自分のドラゴンの姿よりも大きな、翼の生えた機械。それが大量に置かれている。その近くにも、大小さまざまな翼のある機械が置いてある。

「これを、主に都市部上空で飛ばす。これが、常に都市を観測し続けるわけだ。そして、反応があった場合にもっと小型のドローン、そして、お前が叡持を乗せて直接赴く。そうやって、観測を効率化しているんだぜ」

 そういえば、以前にそんなことはなされた覚えがある。ドローンという空飛ぶ機械を使って、被検体を探しているとか。

「じゃあ、この整備されているドローン? で合ってますか?」
「ああ、大型から小型まで、すべてドローンだ」
「じゃあ、このドローンは、この後都市の観測に赴くんですね?」
「まあ、普段はそうなんだが、今回は少し違う」
「そうなんですか?」
「ああ。今回は、ドローンの大部分を一部の地域に集中させる。なんでも、そこで紛争が起こっているらしいんだ。そこらへん一帯を、ドローンで集中的に観測するようだ」
「はー。ところで、この大きなドローン一機で、どれくらいの範囲を観測出来るんですか?」
「まあ、帝国5個分は観測できる範囲がある。移動しながら観測するから、実際はもっと広範囲を、細かく観測できるがな」

 なんてこった。ここまで調べられる機械が、ここには大量にある。一体、この陣営だけでどれほどの戦力があるのか。少なくとも、ここ以上の情報力を持った勢力はないだろう。

「まあ、こういう性能を持った機体を、何機も投入するんだ。叡持がどれほど本気か分かるだろ?」
「……はい」
「なら、お前もしっかり精進しろよ!」

 バーンと背中を押され、よろけるハヤテ。シオリは大笑いしながら、戸惑うハヤテを眺めていた。

〇 〇 〇 〇

 大草原の上で、対峙する二つの軍隊。片方は急速に拡大を続ける少年領主の軍隊。対するは、故郷を護ろうとする防衛軍。勝敗に関係なく、多くの血が流れることになる。それでもなお、領主は戦争をしようとする。それはつまり、暴力の行使。多くのコストを払い、無理矢理何かをしようと、いや、暴力の行使そのものが目的にだってなりえる。

 軍隊の陣地では、一人の少年が立っている、他の者は恐怖に震えあがり、その少年を黙って見ている。

 彼の腰には、一振りの長剣が佩かれている。この長剣こそ、恐怖の証。

「じゃあ、もう攻めちゃおう。いつまで睨み合っているんじゃ退屈すぎる」
「し、しかし……、現在我が軍は劣——」

 バシュッ!

 この瞬間、一人の忠臣が、命を散らした。

「よし、攻め込もう!」


==============
<<<<<<<>>>>>>>
==============


「シオリさん、ドローンの配置状況はどうですか?」
「ああ、大型ドローンの15%、中型ドローンの20%を集中させてるぜ。観測体制はばっちりだ。ここまで集中させたのは初めてじゃないか?」
「はい。僕の予想が正しければ、ここで大きな動きがあります。それを、しっかりと観測しなくてはいけません」

 叡持とシオリが会話する中、ハヤテはずっと、モニタリングされる少年を見ていた。

 彼は哀れだ。Dドライバを使うまでは臣下に、使ってからはDドライバに。結局力に支配され、振り回されている。

 確かに彼には、力を我が物とする力はない。だが、それは少しずつ身に着けていくものではないか? 初めから強い者などいない。俺だって、決して強いわけじゃない。俺も、場合によってはこんな哀れな姿となったのだろうか。他人にはとても思えないこの少年を、ハヤテはずっと眺めていた。

「この少年の軍団は、恐らく敗北するでしょう。しかし、彼にはDドライバがあります。それも、破壊力がトップクラスのものが。さて、もうそろそろ頃合いでしょう。ハヤテさん、準備をお願いします」

「え? は、はい……」


==============
<<<<<<<>>>>>>>
==============


「敵は目前です! 早くお逃げください!」

 バシュッ!

「僕は逃げない。だって、この剣があるんだから」

 既に軍隊は壊滅している。兵はほどんと逃げ、自分の臣下さえも脱走している。絶望的な敗北だが、少年領主はまだ立ち向かおうとする。

「敵の大将だ! 討ち取って名を上げろ!」

 敵は既に陣地に到達し、手柄と立てようと大勢の雑兵が押し寄せる。

「なんだよ……、どうしてみんな、僕をいじめようと……。うわああああああ!」

 絶望の中、少年領主は剣を振った。すると強烈な衝撃波が発生し、辺りの兵士、木々草花をなぎ倒す。見るとそこには、バラバラになった兵士が、草原を埋め尽くしている。

「はは……、なんだよ。この剣があれば、別に軍隊なんか要らなかったんだ。この剣さえあれば、僕は最強なんだ!」

 ブオンブオンと剣を振り、人間をゴミの如く掃除する。既に少年は、人間の目をしていなかった。血に飢えた獣、残虐で、破壊を楽しむ、ただの災厄の権化と化していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...