爆轟のマッドワイズマン

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魔法使いの章

未知の力の脅威(前編)

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「もし、相手が生命エネルギーを操ることが出来るとしたら、非常に厄介です」

 叡持はやや苦い顔をしながら、話を続けた。

「果たして、相手はどれほどの領域まで踏み込むことが出来るのか、現段階では見当もつきません。最悪、『生きている人間から直接命を奪える』可能性があります」
「叡持、その可能性は高いと思うぜ。あの時も話したが、先の村では全員謎の死を遂げていた。ただの物理攻撃じゃない。かといって、魔術が使用された形跡もなかった。だが、あの黒い煙の残留痕が確認された」
「じゃ、じゃあ……、やっぱり相手は命を直接奪える、ってことですか? それも大量に」
「その通りです。そして、相手がこちらに敵意を向けていたとしたら、更に厄介です。こちらには、まだ対抗策がないのですから」

 あの魔法使い、大賢人・新川叡持が苦戦する相手。未知の力を使い、こちらと敵対する可能性もある相手。ハヤテはゾッとした。初めて叡持の装束を見た時の恐怖。だが、相手は更に強い力を持っているかもしれない。それに、直接命を……。

「シオリさん。すべてのドローンの任務を変更してください」
「あ? わ、分かったが……どういう——」
「全ドローンを動員し、あの黒い煙について徹底的にデータを集めます。残留痕、実物問わず、とにかく僅かな痕跡もすべて集めます」

 脅威と接触しているというのに、どこか叡持の目は輝いていた。彼は、未知との接触を楽しんでいる。脅威でありながら、それ以上に、まだ知らない存在に対して好奇心を抑えられていない。
 そして不気味だった。彼は、全く恐怖していないようだった。命が失われるかもしれないことを理解しておきながら、恐怖心や不安を全く感じられない。

 彼はずっと、目を輝かせていた。

「僕は今までのデータから、新たな防衛システムを開発しようと思います。今後のため、この力に対する防衛手段の開発は急務でしょう。シオリさんは、ドローンから送られたデータの下処理を終え次第すぐに僕に下さい。分析に使用します」
「了解した。なら、私はすぐさま作業に向かうぜ。じゃあな」

 シオリは一言残し、部屋を後にした。

「あの……。お、俺は……」

「ハヤテさんに今お願いすることはありません。飛行訓練か、隙を見てシオリさんや、僕のサポートをして頂ければ幸いです」

「は、はあ……」

 ハヤテをよそに、叡持はすぐさますべてのモニターにスペクトルを表示させ、様々な分析を行っていった。

「あ、あの……」

「いかがなされましたか?」

「相手は、強敵なんですよね?」
「正確に言うと違います。恐らくこちら以上の情報と戦力は持ち合わせてはいないでしょう。そもそも、武力でどこかを滅ぼそうというのなら、シオリさんに直接出向いて頂くだけでどうにかなります」
「そうですよね……、あんな巨大な蜘蛛に勝てる奴なんか……」
「しかし、こちらに対抗策がなければ話が変わります。こちらが相手に対してまったく情報がなければ、こちらは未知の攻撃による大損害は免れることが出来ません」
「……確かに」

「しかし慌てる必要はありません」

「そうなんですか?」

「はい。先の少年領主のおかげで、単位時間ごとの詳細な煙のデータを取得することが出来ました。そして、あの村から残留痕を見つけることも出来ました。これによって、ごくごく微細な残留痕から、それがどれくらい前につくられたものなのかを予想することが出来ます。それはつまり、相手の行動範囲を特定することが出来るということです」

「……ほんとですか」

 ハヤテは、いつしか恐怖を忘れていた。未知の敵から襲われる恐怖は、叡持の詳細で説得力のある説明によって消滅した。

 代わりに生まれたのは、叡持に対する強い畏怖だった。どんな脅威が現れても、詳細で大胆な情報収集と、精密な分析。これらに裏打ちされた絶対的な戦力。

 こんな奴を相手にして勝てる訳がない。この下にいる限り、自分は安心出来る。こうやって、自分の命の心配がなくなれば、俺は自分の目的を果たすことが出来る。

 親の仇を討ち、弟と再会する——。


  〇     〇
 〇 〇   〇 〇
〇 〇 〇 〇 〇 〇
 〇 〇   〇 〇
  〇     〇


 ……なんだと?

 あの魔法使いは、私の術を見切ろうとしているのか?

 そんな馬鹿な。私の術は、私だけのもの。誰にも干渉されず、誰にも認識されずに力を振るうことが出来る。それこそが、私を私にした力……。


 あの魔法使いは、私に見られていることを知らない。つまり、まだ私の力に気がついていない。
 当然だ。いくらあがこうと、私の術から逃れることは出来ないのだから。


 ……私の術が、ここまで意識されている。

 こんなこと、今までなかった。私というものに、彼は近づこうとしている。私の術を研究し、その根本たる私に辿り着こうとしている。

 誰も、私に近づこうとしなかったのに。初めて……。
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