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魔法使いの章
未知の力の脅威(中編)
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「これは……」
スペクトルと座標データ、地図上のデータをいくつも参照し、叡持はある法則を見つけた。
『どうかしたか?』
別室で作業をするシオリが、叡持に対し通信を開いた。
「はい。非常に大切なことを発見しました」
『ほう? それはどういう?』
「この残留痕には、ある“方向”が記録されていたのです」
『方向?』
「僕は、この残留痕の、減衰について分析を行っていました。すると、時間に関係なく減衰している箇所があったのです」
『それは、“距離”による減衰じゃねぇのか?』
「違います。どの場所でも、取れる残留痕はほぼ変わりません。つまり、相手は距離に関係なく影響を及ぼすことが可能になります。しかし、その残留痕一つ一つを調べると……」
叡持は言葉を溜めながら、一つのデータを示した。
『……これは!』
示されたデータは、一つの残留痕について、それぞれの点でのデータをまとめて面にしたものだった。大地と平行な面に対して、その残留痕の傾向を分かりやすく表示したものだった。
その図から、あることが分かる。それは、残留痕がある一定の方向に向かうごとに減衰が強まっていくことだった。
「どうやらあの黒い煙は距離による制約を受けません。しかし、“どの方向から”力を受けているのか、しっかりと記録されていました。つまり、この方向に関するデータを集めれば……」
『この煙の発生源を突き止められる。そう言いたいんだな?』
「その通りです」
『見つけたらどうするんだ?』
「まずは具体的な対抗手段を確立しなくてはいけません。少なくとも、相手の力を無効化する技術を開発する必要があります。幸い、既に大量にデータを収集出来ているので、それらを基に理論を確立し、魔術や機材の設計をします」
『分かった。設計を終えたら私に教えてくれ。サクッとつくってやる』
「ありがとうございます」
『さて、じゃあ、私も先にやることがあるな』
「何をなされるのですか?」
「ハヤテをしごく」
〇 〇
一体何が……。俺は、ただ、ゆっくりこの城を探検していただけなのに……。
「ハヤテ! シャキッとしろ!」
「はっ、はいっ!」
突然始まったシオリによる特訓。いきなり渡された謎の魔道具。特に理由を告げられず、予定も、何も聞かされずに始まった鍛練の時間。ハヤテには理解するための時間など与えられず、シオリにしごかれていた。
「と、棟梁! あの……」
「口を開く暇があれば手を動かせ! この魔道具を使いこなせ!」
と……、言われても……。
この謎の魔道具は、腕輪のような形をしている。しかも、少年の姿でも竜の姿でも使用出来る優れもの。そして、この腕輪には……。
シュッ!
腕輪から、細い糸が飛び出す。余りにも細いので、視界に捉えることさえ難しい。その糸を操るのならなおさらだ。
「いいか、まずはこの糸で私の刺毛弾幕を回避してみろ!」
「えっ! ちょ、無理で——」
「問答無用!」
人間態のシオリが、無数の刺毛弾幕を放つ。あの巨大蜘蛛の姿ではないので、刺毛一本一本の大きさも、破壊力も、密度もかなり劣っている。しかし、こちらも少年の姿。すばしっこく動いても、あの弾幕は非常に厳しい。それを、こんな細い糸一本で防ぐなんて。
正気の沙汰じゃない。
「いい加減才能の出し惜しみはやめろ! お前には力がある! この糸だって、簡単に操れるようになる!」
そんなこと言われても……。
ハヤテは直観のまま、このよく分からない糸を動かす。刺毛は容赦などせずにハヤテの体に命中していく。
「ぐ、ぐわあああ……」
「ハヤテ! この魔道具はDドライバじゃねえ! 叡持が、私の糸の力を再現するために開発した魔道具だ! そう簡単に操れるもんじゃねぇんだ!」
「……は、はい!」
返事だけは必死にする。それにしても、なぜ、突然こんな魔道具を渡してきたのだろうか。
時間があっという間に過ぎていく。無数の傷を負い、ボロボロになったハヤテ。やる気と根性がある分、しっかりとシオリの指導についていこうとする。
「よーし、休憩だ。ハヤテ。よく頑張った!」
にっ、と笑い、ハヤテの頭を撫でるシオリ。ついでに治療用の魔術を発動し、ハヤテの傷を完全に癒した。
「傷を癒して、無理矢理鍛練を続けるって、どういう指導ですか……?」
精神力を大幅に消耗した、半開きの目でハヤテはシオリを見た。
「悪かったな、ハヤテ。だが、きっとこの鍛練を感謝することになるぜ」
「……ほんとですか?」
やけに自信満々なシオリを、ハヤテは更に細めた目で見ている。
「近々、脅威との接触がある。もうすぐあの力の発生源も求められるだろうからな」
「——! ほんとですか……」
「ああ、だから、そうなっても大丈夫なように、この魔道具の扱いについて特訓しようと思ったんだ。この魔道具はかなり強力だ。まあ、私の糸の模倣品だから、本物には劣るがな。とにかく、この糸は、フィールドワークで絶対に役に立つ。ささっと使い方を覚えて、上手く活用してくれ」
シオリはそう言い残し、そのまま訓練場から去った。
スペクトルと座標データ、地図上のデータをいくつも参照し、叡持はある法則を見つけた。
『どうかしたか?』
別室で作業をするシオリが、叡持に対し通信を開いた。
「はい。非常に大切なことを発見しました」
『ほう? それはどういう?』
「この残留痕には、ある“方向”が記録されていたのです」
『方向?』
「僕は、この残留痕の、減衰について分析を行っていました。すると、時間に関係なく減衰している箇所があったのです」
『それは、“距離”による減衰じゃねぇのか?』
「違います。どの場所でも、取れる残留痕はほぼ変わりません。つまり、相手は距離に関係なく影響を及ぼすことが可能になります。しかし、その残留痕一つ一つを調べると……」
叡持は言葉を溜めながら、一つのデータを示した。
『……これは!』
示されたデータは、一つの残留痕について、それぞれの点でのデータをまとめて面にしたものだった。大地と平行な面に対して、その残留痕の傾向を分かりやすく表示したものだった。
その図から、あることが分かる。それは、残留痕がある一定の方向に向かうごとに減衰が強まっていくことだった。
「どうやらあの黒い煙は距離による制約を受けません。しかし、“どの方向から”力を受けているのか、しっかりと記録されていました。つまり、この方向に関するデータを集めれば……」
『この煙の発生源を突き止められる。そう言いたいんだな?』
「その通りです」
『見つけたらどうするんだ?』
「まずは具体的な対抗手段を確立しなくてはいけません。少なくとも、相手の力を無効化する技術を開発する必要があります。幸い、既に大量にデータを収集出来ているので、それらを基に理論を確立し、魔術や機材の設計をします」
『分かった。設計を終えたら私に教えてくれ。サクッとつくってやる』
「ありがとうございます」
『さて、じゃあ、私も先にやることがあるな』
「何をなされるのですか?」
「ハヤテをしごく」
〇 〇
一体何が……。俺は、ただ、ゆっくりこの城を探検していただけなのに……。
「ハヤテ! シャキッとしろ!」
「はっ、はいっ!」
突然始まったシオリによる特訓。いきなり渡された謎の魔道具。特に理由を告げられず、予定も、何も聞かされずに始まった鍛練の時間。ハヤテには理解するための時間など与えられず、シオリにしごかれていた。
「と、棟梁! あの……」
「口を開く暇があれば手を動かせ! この魔道具を使いこなせ!」
と……、言われても……。
この謎の魔道具は、腕輪のような形をしている。しかも、少年の姿でも竜の姿でも使用出来る優れもの。そして、この腕輪には……。
シュッ!
腕輪から、細い糸が飛び出す。余りにも細いので、視界に捉えることさえ難しい。その糸を操るのならなおさらだ。
「いいか、まずはこの糸で私の刺毛弾幕を回避してみろ!」
「えっ! ちょ、無理で——」
「問答無用!」
人間態のシオリが、無数の刺毛弾幕を放つ。あの巨大蜘蛛の姿ではないので、刺毛一本一本の大きさも、破壊力も、密度もかなり劣っている。しかし、こちらも少年の姿。すばしっこく動いても、あの弾幕は非常に厳しい。それを、こんな細い糸一本で防ぐなんて。
正気の沙汰じゃない。
「いい加減才能の出し惜しみはやめろ! お前には力がある! この糸だって、簡単に操れるようになる!」
そんなこと言われても……。
ハヤテは直観のまま、このよく分からない糸を動かす。刺毛は容赦などせずにハヤテの体に命中していく。
「ぐ、ぐわあああ……」
「ハヤテ! この魔道具はDドライバじゃねえ! 叡持が、私の糸の力を再現するために開発した魔道具だ! そう簡単に操れるもんじゃねぇんだ!」
「……は、はい!」
返事だけは必死にする。それにしても、なぜ、突然こんな魔道具を渡してきたのだろうか。
時間があっという間に過ぎていく。無数の傷を負い、ボロボロになったハヤテ。やる気と根性がある分、しっかりとシオリの指導についていこうとする。
「よーし、休憩だ。ハヤテ。よく頑張った!」
にっ、と笑い、ハヤテの頭を撫でるシオリ。ついでに治療用の魔術を発動し、ハヤテの傷を完全に癒した。
「傷を癒して、無理矢理鍛練を続けるって、どういう指導ですか……?」
精神力を大幅に消耗した、半開きの目でハヤテはシオリを見た。
「悪かったな、ハヤテ。だが、きっとこの鍛練を感謝することになるぜ」
「……ほんとですか?」
やけに自信満々なシオリを、ハヤテは更に細めた目で見ている。
「近々、脅威との接触がある。もうすぐあの力の発生源も求められるだろうからな」
「——! ほんとですか……」
「ああ、だから、そうなっても大丈夫なように、この魔道具の扱いについて特訓しようと思ったんだ。この魔道具はかなり強力だ。まあ、私の糸の模倣品だから、本物には劣るがな。とにかく、この糸は、フィールドワークで絶対に役に立つ。ささっと使い方を覚えて、上手く活用してくれ」
シオリはそう言い残し、そのまま訓練場から去った。
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