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魔法使いの章
未知の力の脅威(後編)
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「とほほ……」
訓練場に残された、ハヤテと魔道具の腕輪。シオリがいなくなったことを確認した後、ハヤテはぼふっと訓練場に倒れ込んだ。
確かに、この魔道具は強力なんだろう。見えないほどの細い繊維。あの刺毛すら弾き飛ばす強度、しなやかさ。使いこなせればこれほど役に立つ道具もないかもしれない。
とはいえ……。
「疲れた……」
正直、しばらく動きたくない。体の傷は癒されても、精神的な疲れは回復しない。とっくに俺の精神エネルギーは底を突いた。しばらくぐっすりと寝よう。
……未知の力、か。
もし叡持殿の分析が正しければ、相手は自分の命を奪うことが出来る。こうやって寝ている間にも、気が付いたら奪われているかもしれない。なんて恐ろしいんだ。
考えれば、これが当たり前だった。常に命を狙われ、必死になって逃げまわったあの日々。辛くて、怖くて、苦しくて……。そんな中でも、ずっと、弟と再会することを夢見ていた。だから、必死になって生きた。生きていればチャンスがある。生きていれば、いつか必ず……。
忘れていたな。俺は、いつ命が吹き飛んだっておかしくない存在だった。ほんの少し前から、そういう心配が急に消えただけで。
考えれば、自分は随分と強くなった。飛ぶスピードも大幅に速くなり、刺毛弾幕もかなり避けられるようになった。フィールドワークでも、ある程度叡持殿のサポートが出来ている。
それも、すべてはあの時、あの蒼い魔法使いに拾われてから始まった。強力な魔術を操る叡持殿に、終末をもたらせるほどの強大な魔物である棟梁。
俺は叡持殿の強さに憧れ、棟梁にしごかれ、こうやって今まで過ごしている。
俺は、満足していた。この、命の心配もなく、強大な力を持つお二方の近くに置かれ、自分もまた鍛えられている。こんな状況にぼけていた。
確かに相手は未知の力を持つ脅威だ。だが、俺はずっと未知の敵と戦ってきた。いや、生き延びてきた。これからも同じだ。生き延びる、そして、再会する。俺は、ずっとこのために生きてるんだ。
頭がすっきりすると、なんだか小腹が空いてきた。空腹感に襲われたハヤテは、ごろごろしながら近くの食べ物を探した。
しかし、どれも遠い。それもそのはず。ハヤテは、訓練している場所にそのまま寝転がっていたのだから。せっかく訓練の後に食べるためのお菓子を持ってきたというのに、こんなに遠くては食べられない。
「あ……! そうだ」
ハヤテは、腕に着けた魔道具を見た。
シュルシュルッ!
腕輪から糸を出し、遠く、お菓子の場所まで伸ばす。そして、糸を器用に操り、そこにあった菓子を取る。
「さて、やるか!」
糖分を補給し、エネルギーは満タン。腕輪を初めてうまく使いこなし、やる気も十分。
ぱっと起き上がり、ハヤテは腕輪の操作を、黙々と練習し始めた。
==============
<<<<<<<>>>>>>>
==============
ドローンから送られてくるデータを処理しながら、シオリは片手間でハヤテを見守っていた。叡持のドローンは種類が非常に多く、隠密行動に優れたものもある。
「……やるじゃねぇか」
急速に成長していくハヤテを、シオリは誇らしそうな笑顔で眺める。
お前なら分かっているはずだ。強大な力には代償がある。簡単に手に入る力には、それ相応のコストを後で支払わなくてはいけない。逆に言えば、しっかりと鍛練をし、経験を積み重ね、しっかりと体得したものは揺るがない。先にコストをしっかりと払ったのだから。
この魔道具は強力で万能だが、そう簡単には扱えない。何せ、細い糸を自由自在に操るのだから、相当な集中力を思考力、直観力も必要になる。しかし、これは絶対にこの後役に立つ。あらゆるフィールドワークで、この魔道具は使える。時には自分の身を護り、そして、騎乗竜として、叡持を護って欲しい——。
ドローンからは常にデータが送られる。叡持が実験を繰り返す世界の、いたるところから残留痕のデータが送信され、各データのノイズキャンセリング、及び下処理をしていく。
こうして、叡持がデータを使いやすくするのも自分の仕事。叡持が研究をするために、自分はすべてを捧げる。
新たに発見したスペクトルと、未知の存在である黒い煙とその発生源。これが、叡持の研究に貢献することを信じて。叡持の体のため、もっと頑張らなくては。
それにしても、ここまで広範囲に残留痕があるとは。しかも、古さはランダム。これはつまり、相手はどんな範囲でも影響を与えることが可能ということ。しかも、これが自然現象である確率は極めて低い。早急に対策しないと、下手をすれば叡持の命も危うい。いくら自分が表に立たないようにしているとはいえ、ここまでの相手なら、とっくに叡持のことを捉えている可能性も考えなくてはいけない。
『シオリさん、一度僕の部屋に来て頂けませんか?』
突然届いた叡持からの通信。シオリはやや慌てながら通話を開いた。
「ん? わ、分かったが、何があったんだ?」
「相手への対抗策を一部完成させました」
訓練場に残された、ハヤテと魔道具の腕輪。シオリがいなくなったことを確認した後、ハヤテはぼふっと訓練場に倒れ込んだ。
確かに、この魔道具は強力なんだろう。見えないほどの細い繊維。あの刺毛すら弾き飛ばす強度、しなやかさ。使いこなせればこれほど役に立つ道具もないかもしれない。
とはいえ……。
「疲れた……」
正直、しばらく動きたくない。体の傷は癒されても、精神的な疲れは回復しない。とっくに俺の精神エネルギーは底を突いた。しばらくぐっすりと寝よう。
……未知の力、か。
もし叡持殿の分析が正しければ、相手は自分の命を奪うことが出来る。こうやって寝ている間にも、気が付いたら奪われているかもしれない。なんて恐ろしいんだ。
考えれば、これが当たり前だった。常に命を狙われ、必死になって逃げまわったあの日々。辛くて、怖くて、苦しくて……。そんな中でも、ずっと、弟と再会することを夢見ていた。だから、必死になって生きた。生きていればチャンスがある。生きていれば、いつか必ず……。
忘れていたな。俺は、いつ命が吹き飛んだっておかしくない存在だった。ほんの少し前から、そういう心配が急に消えただけで。
考えれば、自分は随分と強くなった。飛ぶスピードも大幅に速くなり、刺毛弾幕もかなり避けられるようになった。フィールドワークでも、ある程度叡持殿のサポートが出来ている。
それも、すべてはあの時、あの蒼い魔法使いに拾われてから始まった。強力な魔術を操る叡持殿に、終末をもたらせるほどの強大な魔物である棟梁。
俺は叡持殿の強さに憧れ、棟梁にしごかれ、こうやって今まで過ごしている。
俺は、満足していた。この、命の心配もなく、強大な力を持つお二方の近くに置かれ、自分もまた鍛えられている。こんな状況にぼけていた。
確かに相手は未知の力を持つ脅威だ。だが、俺はずっと未知の敵と戦ってきた。いや、生き延びてきた。これからも同じだ。生き延びる、そして、再会する。俺は、ずっとこのために生きてるんだ。
頭がすっきりすると、なんだか小腹が空いてきた。空腹感に襲われたハヤテは、ごろごろしながら近くの食べ物を探した。
しかし、どれも遠い。それもそのはず。ハヤテは、訓練している場所にそのまま寝転がっていたのだから。せっかく訓練の後に食べるためのお菓子を持ってきたというのに、こんなに遠くては食べられない。
「あ……! そうだ」
ハヤテは、腕に着けた魔道具を見た。
シュルシュルッ!
腕輪から糸を出し、遠く、お菓子の場所まで伸ばす。そして、糸を器用に操り、そこにあった菓子を取る。
「さて、やるか!」
糖分を補給し、エネルギーは満タン。腕輪を初めてうまく使いこなし、やる気も十分。
ぱっと起き上がり、ハヤテは腕輪の操作を、黙々と練習し始めた。
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ドローンから送られてくるデータを処理しながら、シオリは片手間でハヤテを見守っていた。叡持のドローンは種類が非常に多く、隠密行動に優れたものもある。
「……やるじゃねぇか」
急速に成長していくハヤテを、シオリは誇らしそうな笑顔で眺める。
お前なら分かっているはずだ。強大な力には代償がある。簡単に手に入る力には、それ相応のコストを後で支払わなくてはいけない。逆に言えば、しっかりと鍛練をし、経験を積み重ね、しっかりと体得したものは揺るがない。先にコストをしっかりと払ったのだから。
この魔道具は強力で万能だが、そう簡単には扱えない。何せ、細い糸を自由自在に操るのだから、相当な集中力を思考力、直観力も必要になる。しかし、これは絶対にこの後役に立つ。あらゆるフィールドワークで、この魔道具は使える。時には自分の身を護り、そして、騎乗竜として、叡持を護って欲しい——。
ドローンからは常にデータが送られる。叡持が実験を繰り返す世界の、いたるところから残留痕のデータが送信され、各データのノイズキャンセリング、及び下処理をしていく。
こうして、叡持がデータを使いやすくするのも自分の仕事。叡持が研究をするために、自分はすべてを捧げる。
新たに発見したスペクトルと、未知の存在である黒い煙とその発生源。これが、叡持の研究に貢献することを信じて。叡持の体のため、もっと頑張らなくては。
それにしても、ここまで広範囲に残留痕があるとは。しかも、古さはランダム。これはつまり、相手はどんな範囲でも影響を与えることが可能ということ。しかも、これが自然現象である確率は極めて低い。早急に対策しないと、下手をすれば叡持の命も危うい。いくら自分が表に立たないようにしているとはいえ、ここまでの相手なら、とっくに叡持のことを捉えている可能性も考えなくてはいけない。
『シオリさん、一度僕の部屋に来て頂けませんか?』
突然届いた叡持からの通信。シオリはやや慌てながら通話を開いた。
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「相手への対抗策を一部完成させました」
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