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魔法使いの章
既知・目的(前編)
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「ふう……」
シミュレーションは、やはり疲れる。
スペクトルから予想できる相手の手段をすべて計算する。そして、ドローンからのデータが処理されるたびに計算をやり直し、相手の力を分析する。
しかし、一つだけ、まだ実証出来ていないものがある。
どうやら、相手の力は『死』に反応する。これが生命エネルギーによるものだと考えてはいたが、明確な根拠はない。あの時は、いわば偶然だったということだ。そもそも、Dドライバの副作用と『死』が合わさることで黒い煙が発生すると考えていた時の理論だ。大幅に修正しなければいけない。
果たして、黒い煙と『死』には、厳密な関係があるのか、それとランダムなのか……。
「叡持、入るぜ」
女性職人の姿をしたシオリが、叡持の部屋へ到着した。
「お待ちしておりました。まずは、こちらをご覧ください」
丁寧な口調で、叡持はモニターの一つに、ある魔法陣を表示した。
「これは? 私は見たことがないが……」
「当然です。これは、僕がやっと完成させた対策用魔術なのですから」
叡持はにっこりと笑い、そのまま話を続けた。
「先の村の一件、やはり相手は生きた人間から生命エネルギーを奪える可能性が高いです。この魔術は、生きた人間に対して働くあの力を無効化出来ます。死んでしまえばもう防御のしようがありませんが、少なくとも生きているうちは防御が出来ます。まずはこの魔術を、城の防衛設備と法衣装甲のプラグインとして追加して頂きたいのです」
「了解したぜ叡持。なら、私はデータの処理を一旦中断して、防衛設備と法衣装甲のアップデートをする。……そういえば、お前はさっき『一部完成』とか言ってたな。何があったんだ?」
「はい。この魔術は未完成です。限られた情報で、最低限の安全を担保するものですから。これからも、継続的な観測は必要でしょう」
「そういうことか。なら、今はとにかくこの魔術を実装すればいいだけだな」
〇 〇
〇 〇 〇 〇
〇 〇 〇 〇 〇 〇
〇 〇 〇 〇
〇 〇
なん……、だと?
遂に、私の魔術を無効化した……、だと?
この、私の力が、相手に効かない。そんなこと有り得ない。きっと、相手はそのつもりになっているだけのはずだ。実際、あの魔法使いは私に見られていることを知らない。
……今のうちに奪っておくか?
今は未完成でも、放っておけばいつか私を本当に超えてしまうかもしれない。そうなれば、私が危うくなる。ずっと、誰にも認識されずにいたのに。誰にも知られず、誰にも気づかれず、一人でひっそりと……。
まだ、生かしておいてもいい。この魔法使いを眺めているのは実に楽しい。そして、私のことを知ろうとしている。それが、味わったことのない快感を与えている。
まだ、奪うのは惜しい。しばらく、泳がせよう。
〇 〇
〇 〇 〇 〇
〇 〇 〇 〇 〇 〇
〇 〇 〇 〇
〇 〇
「はい。ですが、一つ、気になることがあります」
「?」
「目的です」
先ほどまで椅子に腰を掛けていた叡持が、すっと立ち上がった。
「どう考えても、この黒い煙の残留痕の発生に規則性が見つからないのです。何度検証しても自然現象との関連は全く見つけることが出来ませんし、何より自然現象ならもっと規則性があるはずです。つまり、それは誰かによって引き起こされていると考えるべきです。しかし、誰かが引き起こしているのなら、必ず“目的”があるはずです。それなのに、この目的がまったく分からないのです」
「……なるほど。自然現象としても規則がないし、誰かが起こしているものにしても、目的が不明瞭、か。だから誰かが起こしたもの、とも断言出来ないんだな」
「はい。ですが、自然現象でないことはほぼ確実です。ですから、誰かが引き起こすもの。強力な術者、気まぐれな神格、いたずら好きの妖精、様々な犯人が考えられますが、誰が引き起こしているかにしても、目的が——」
「“ただ殺したい”。それだけで十分じゃないですか?」
ハヤテが、叡持の部屋の扉を開けた。
「これはハヤテさん。いかが——、あ、あの、差し支えなければ、あなたになにがあったのか、説明して頂けると嬉しいのですが……」
叡持は一瞬言葉を失った。そこにいたのは、ハヤテだった。しかし、立っていない。床にべったりと寝転がり、完全に脱力した状態で叡持を見ていた。
「ハ……、ハヤテ……っ、て、てめぇ、何でここまで抜けてるんじゃああああああ!」
シオリの怒りのツボが刺激される。鋭い紫のオーラが人間態のシオリから噴出し、同時に、高密度の刺毛弾幕が飛び出す。
シュルルルルルッ!
ハヤテが腕輪に力を込める。そこから射出された糸が、刺毛弾幕を一本一本弾き、破壊する。
「棟梁……。どうですか? 俺、頑張りましたよ……。だから、これくらいだらけるのをお許しください……」
腑抜けた声を発するハヤテ。聞いていたらこっちまで脱力してしまいそう。
「ははは、やはりハヤテさんに投資して正解でした。ここまで成長能力が高いとは」
「こいつは、かなりの努力家なんだ。しかも素直だから、どんどん吸収していく。だから鍛えがいがあったんだが……。ここまで特訓し尽くすとは。ハヤテ、黙って部屋で寝てろ。これくらいの成長をしたんだ。ゆっくり休め。無理はすんな」
シオリは頭をかく。やってしまった、と顔に書いている。
「ですが、こんな状態でここまで来たのですから、何か目的をお持ちなのでしょう?」
「はい、叡持殿。あなたが“相手の目的”についてお話していたんで、俺の意見も聞いてほしいな、と」
シミュレーションは、やはり疲れる。
スペクトルから予想できる相手の手段をすべて計算する。そして、ドローンからのデータが処理されるたびに計算をやり直し、相手の力を分析する。
しかし、一つだけ、まだ実証出来ていないものがある。
どうやら、相手の力は『死』に反応する。これが生命エネルギーによるものだと考えてはいたが、明確な根拠はない。あの時は、いわば偶然だったということだ。そもそも、Dドライバの副作用と『死』が合わさることで黒い煙が発生すると考えていた時の理論だ。大幅に修正しなければいけない。
果たして、黒い煙と『死』には、厳密な関係があるのか、それとランダムなのか……。
「叡持、入るぜ」
女性職人の姿をしたシオリが、叡持の部屋へ到着した。
「お待ちしておりました。まずは、こちらをご覧ください」
丁寧な口調で、叡持はモニターの一つに、ある魔法陣を表示した。
「これは? 私は見たことがないが……」
「当然です。これは、僕がやっと完成させた対策用魔術なのですから」
叡持はにっこりと笑い、そのまま話を続けた。
「先の村の一件、やはり相手は生きた人間から生命エネルギーを奪える可能性が高いです。この魔術は、生きた人間に対して働くあの力を無効化出来ます。死んでしまえばもう防御のしようがありませんが、少なくとも生きているうちは防御が出来ます。まずはこの魔術を、城の防衛設備と法衣装甲のプラグインとして追加して頂きたいのです」
「了解したぜ叡持。なら、私はデータの処理を一旦中断して、防衛設備と法衣装甲のアップデートをする。……そういえば、お前はさっき『一部完成』とか言ってたな。何があったんだ?」
「はい。この魔術は未完成です。限られた情報で、最低限の安全を担保するものですから。これからも、継続的な観測は必要でしょう」
「そういうことか。なら、今はとにかくこの魔術を実装すればいいだけだな」
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なん……、だと?
遂に、私の魔術を無効化した……、だと?
この、私の力が、相手に効かない。そんなこと有り得ない。きっと、相手はそのつもりになっているだけのはずだ。実際、あの魔法使いは私に見られていることを知らない。
……今のうちに奪っておくか?
今は未完成でも、放っておけばいつか私を本当に超えてしまうかもしれない。そうなれば、私が危うくなる。ずっと、誰にも認識されずにいたのに。誰にも知られず、誰にも気づかれず、一人でひっそりと……。
まだ、生かしておいてもいい。この魔法使いを眺めているのは実に楽しい。そして、私のことを知ろうとしている。それが、味わったことのない快感を与えている。
まだ、奪うのは惜しい。しばらく、泳がせよう。
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「はい。ですが、一つ、気になることがあります」
「?」
「目的です」
先ほどまで椅子に腰を掛けていた叡持が、すっと立ち上がった。
「どう考えても、この黒い煙の残留痕の発生に規則性が見つからないのです。何度検証しても自然現象との関連は全く見つけることが出来ませんし、何より自然現象ならもっと規則性があるはずです。つまり、それは誰かによって引き起こされていると考えるべきです。しかし、誰かが引き起こしているのなら、必ず“目的”があるはずです。それなのに、この目的がまったく分からないのです」
「……なるほど。自然現象としても規則がないし、誰かが起こしているものにしても、目的が不明瞭、か。だから誰かが起こしたもの、とも断言出来ないんだな」
「はい。ですが、自然現象でないことはほぼ確実です。ですから、誰かが引き起こすもの。強力な術者、気まぐれな神格、いたずら好きの妖精、様々な犯人が考えられますが、誰が引き起こしているかにしても、目的が——」
「“ただ殺したい”。それだけで十分じゃないですか?」
ハヤテが、叡持の部屋の扉を開けた。
「これはハヤテさん。いかが——、あ、あの、差し支えなければ、あなたになにがあったのか、説明して頂けると嬉しいのですが……」
叡持は一瞬言葉を失った。そこにいたのは、ハヤテだった。しかし、立っていない。床にべったりと寝転がり、完全に脱力した状態で叡持を見ていた。
「ハ……、ハヤテ……っ、て、てめぇ、何でここまで抜けてるんじゃああああああ!」
シオリの怒りのツボが刺激される。鋭い紫のオーラが人間態のシオリから噴出し、同時に、高密度の刺毛弾幕が飛び出す。
シュルルルルルッ!
ハヤテが腕輪に力を込める。そこから射出された糸が、刺毛弾幕を一本一本弾き、破壊する。
「棟梁……。どうですか? 俺、頑張りましたよ……。だから、これくらいだらけるのをお許しください……」
腑抜けた声を発するハヤテ。聞いていたらこっちまで脱力してしまいそう。
「ははは、やはりハヤテさんに投資して正解でした。ここまで成長能力が高いとは」
「こいつは、かなりの努力家なんだ。しかも素直だから、どんどん吸収していく。だから鍛えがいがあったんだが……。ここまで特訓し尽くすとは。ハヤテ、黙って部屋で寝てろ。これくらいの成長をしたんだ。ゆっくり休め。無理はすんな」
シオリは頭をかく。やってしまった、と顔に書いている。
「ですが、こんな状態でここまで来たのですから、何か目的をお持ちなのでしょう?」
「はい、叡持殿。あなたが“相手の目的”についてお話していたんで、俺の意見も聞いてほしいな、と」
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