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Op.1 Overture ーその始まりー
第ニ楽章(前編)
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どうしてそこまで、知ろうとする?
どうしてそこまで、気にかける?
哀れみだと言うなら去ってくれ。
同情だと言うなら消えてくれ。
もう二度と、立たないと決めた舞台に、
道を作ろうとするな。
† † †
平成29年度の始業式。一応伝統校と呼ばれているこの学校には前進となった教育機関が在ったらしく、それらの旗と今の旗が入場する、というのが恒例となっている。各時代の校歌とともに、粛々と旗手が歩く。原曲よりも大幅にテンポを落とした校歌は嘗ての威光を伝えんとするかのように荘厳な響きを保つ。
…ように聴こえるのだろう。何も知らない一般生徒並びに教職員には。
崩れかけの縦、合わないピッチとフレージング、誤魔化すようなぬるい表現…はっきり言ってどうしようもない。自称伝統校の自己満足には充分かもしれないが。
校歌斉唱も何とも言えず微妙な出来だった。最早これ以上の感想は浮かばない。
教室に戻ってからHR迄には暫く余裕があった。今年の校長は話が簡潔で良い。今日一番良かったことはこれで決まるかもしれない。もうすぐ退屈(だと思われる)なHRが始まると思うと憂鬱なものだ。
「ねえ!ちょっといい?」
唐突に声を掛けられた。振り返るとそこには、同じクラスであろう女子が一人。別に悪意があるわけでは無さそうで、寧ろ何も知らずに興味本位で、といったところだろうか。赤い縁の眼鏡にポニーテール。人懐っこそうな笑みを薄く浮かべている。
…だが正直迷惑だ。
「…何か?」
初対面にしては胡乱げ過ぎたかもしれないがまあこれくらいしたところでどうってことないだろう。退いてくれたらそれで良い。だが現実は予想の斜め上を行った。
「黒木君ってさ、もしかして音楽経験ある?」
……………………………………………はぁ?
「あ、違ったらごめんね、ちょっと様子見たらそんな気がして…」
待て待て。どこをどう観察したらそんな突拍子もない結論に辿り着く?しかも何で当たる?何かやらかしていたか?名前も知ってたしさてはまさか…
「あの…何かごめんね?でも名前は名簿見たら分かるし、それとさっきからずっと気付いてないかもしれないけど、考えてること全部口に出てるよ?」
「え?!………あ。」
思わず口を塞いでしまった。確かにダダ漏れだった。
「当たりっぽいけど…どう?」
正しい。確かに彼女は正しい。が…
「あまり話したくない。色々あるから。」
彼女は少し残念そうに、そしてそれを隠すかのように申し訳なさげに、
「そっか…ごめんね。急に色々聞こうとして…。」
少しばかり既視感を覚える表情だった。チリチリと、目の奥のほうが痛むような感覚がした。
「LINEなら…いい?」
上目遣いなその視線もそうだろうが、断りきれなかったのはその既視感のせいかもしれないと、後々思うようになる。
退屈な(予想通りに)HRが終わり、午前中で解散となった。特に予定も無く、まっすぐ自転車置き場に向かった。その途中、体育館の真横を通ると吹奏楽部の練習する音が聞こえた。
一年間の辛抱、そう割り切って門を抜けた。
どうしてそこまで、気にかける?
哀れみだと言うなら去ってくれ。
同情だと言うなら消えてくれ。
もう二度と、立たないと決めた舞台に、
道を作ろうとするな。
† † †
平成29年度の始業式。一応伝統校と呼ばれているこの学校には前進となった教育機関が在ったらしく、それらの旗と今の旗が入場する、というのが恒例となっている。各時代の校歌とともに、粛々と旗手が歩く。原曲よりも大幅にテンポを落とした校歌は嘗ての威光を伝えんとするかのように荘厳な響きを保つ。
…ように聴こえるのだろう。何も知らない一般生徒並びに教職員には。
崩れかけの縦、合わないピッチとフレージング、誤魔化すようなぬるい表現…はっきり言ってどうしようもない。自称伝統校の自己満足には充分かもしれないが。
校歌斉唱も何とも言えず微妙な出来だった。最早これ以上の感想は浮かばない。
教室に戻ってからHR迄には暫く余裕があった。今年の校長は話が簡潔で良い。今日一番良かったことはこれで決まるかもしれない。もうすぐ退屈(だと思われる)なHRが始まると思うと憂鬱なものだ。
「ねえ!ちょっといい?」
唐突に声を掛けられた。振り返るとそこには、同じクラスであろう女子が一人。別に悪意があるわけでは無さそうで、寧ろ何も知らずに興味本位で、といったところだろうか。赤い縁の眼鏡にポニーテール。人懐っこそうな笑みを薄く浮かべている。
…だが正直迷惑だ。
「…何か?」
初対面にしては胡乱げ過ぎたかもしれないがまあこれくらいしたところでどうってことないだろう。退いてくれたらそれで良い。だが現実は予想の斜め上を行った。
「黒木君ってさ、もしかして音楽経験ある?」
……………………………………………はぁ?
「あ、違ったらごめんね、ちょっと様子見たらそんな気がして…」
待て待て。どこをどう観察したらそんな突拍子もない結論に辿り着く?しかも何で当たる?何かやらかしていたか?名前も知ってたしさてはまさか…
「あの…何かごめんね?でも名前は名簿見たら分かるし、それとさっきからずっと気付いてないかもしれないけど、考えてること全部口に出てるよ?」
「え?!………あ。」
思わず口を塞いでしまった。確かにダダ漏れだった。
「当たりっぽいけど…どう?」
正しい。確かに彼女は正しい。が…
「あまり話したくない。色々あるから。」
彼女は少し残念そうに、そしてそれを隠すかのように申し訳なさげに、
「そっか…ごめんね。急に色々聞こうとして…。」
少しばかり既視感を覚える表情だった。チリチリと、目の奥のほうが痛むような感覚がした。
「LINEなら…いい?」
上目遣いなその視線もそうだろうが、断りきれなかったのはその既視感のせいかもしれないと、後々思うようになる。
退屈な(予想通りに)HRが終わり、午前中で解散となった。特に予定も無く、まっすぐ自転車置き場に向かった。その途中、体育館の真横を通ると吹奏楽部の練習する音が聞こえた。
一年間の辛抱、そう割り切って門を抜けた。
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