【休載中】銀世界を筆は今日も

Noel.R

文字の大きさ
6 / 24
Op.1 Overture ーその始まりー

第三楽章

しおりを挟む
 LINEの着信を告げる口笛で目が覚めた。どうやら帰宅してすぐ、寝てしまっていたらしい。門を出てからの記憶が無い。よほど無意識的に漕いでいたようだ。事故が無くて良かった。まあ、事故に遭っていても何とも思わなかったかもしれないが。

 時刻は午後8時。LINEの着信の正体はただのニュースアカウントだった。見る気もなかったからそのまま削除した。

 もう夕食は良いや、そう思って取り敢えず風呂だけ入って寝ることにした。
 
 
 夢を見た。珍しくはっきりと記憶に残る夢を。

 俺はホールにいた。楢橋文化会館のホールに。周りには吹奏楽部のメンバーがいた。皆制服ではなく、定期演奏会用の衣装だった。その時全てを理解した。これが夢で、この後どうなるかを。

 ゲネプロ前の最終確認だった。最初の曲は『交響詩 白夜の暁』。自分が書いたオリジナル作品。

 空虚五度を保ち進む伴奏の上を混沌とした二声部が駆ける冒頭から、吹雪くフルート、射すファンファーレ。あらゆる《白》を、《光》を、全パートが表現する。

 チャイムが全てを鎮め、曲は白夜の静寂を詠う。音を用いた静寂の表現は、プッチーニのオペラ『トゥーランドット』を思わせる。滔々と、流れていく。

 やがて、訪れるであろう闇への畏れが顔を出す。昂ぶる畏怖は舞となり、狂い乱れる。声部は離合集散を繰り返し、調性は失われ、恐怖が波となる。それは共振し、増幅してゆく。

 極まる世界を収めるのがチューバのソロ。白夜の中を、煌々と。あちこちからベルトーンが形成され、やがてそれは一つの十字架のメロディーとなる。

 ソロの主題がユニゾンとなり、大団円を迎える。

 その練習中のことだった。チューバのソロは俺が持っていた。指揮を振る当時の顧問との間に解釈のズレが無意識レベルで生じていたようで、険悪な雰囲気が全体に伝播していた。

    鬱屈としたままゲネプロ前の休憩に入った。その時、顧問が俺のところに来て告げた。

「黒木にソロはさせない。山内(当時の先輩)に任せる。」と。

    すぐに抗議した。作曲したのは自分で、自分のり方に一任して欲しいと。しかし顧問も譲らなかった。

「指揮者は僕だから。指揮者の解釈がバンドの解釈なんだよ。」

    若造が、と嘲笑う心を無表情に包んだような何とも言えないその表情と精神が、俺の堪忍袋の尾を切った。

    歩み寄り、大柄な顧問の襟首を掴んで足を払い、殴り付けようとしたところで、数人の同級生に止められた。一瞬冷静な自分が帰ってきて、そのまま逃げるようにホールを去った。そこで目が覚めた。

    結局あの日、本番には出なかった。そして退部した。

    それから学校で吹奏楽の音を聴くと、目眩や頭痛、軽度のパニックに苛まれるようになった。

    入院して何とか克服し、今に至る。

    さて、学校に行こうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

処理中です...