【休載中】銀世界を筆は今日も

Noel.R

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Op.1 Overture ーその始まりー

第三楽章

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 LINEの着信を告げる口笛で目が覚めた。どうやら帰宅してすぐ、寝てしまっていたらしい。門を出てからの記憶が無い。よほど無意識的に漕いでいたようだ。事故が無くて良かった。まあ、事故に遭っていても何とも思わなかったかもしれないが。

 時刻は午後8時。LINEの着信の正体はただのニュースアカウントだった。見る気もなかったからそのまま削除した。

 もう夕食は良いや、そう思って取り敢えず風呂だけ入って寝ることにした。
 
 
 夢を見た。珍しくはっきりと記憶に残る夢を。

 俺はホールにいた。楢橋文化会館のホールに。周りには吹奏楽部のメンバーがいた。皆制服ではなく、定期演奏会用の衣装だった。その時全てを理解した。これが夢で、この後どうなるかを。

 ゲネプロ前の最終確認だった。最初の曲は『交響詩 白夜の暁』。自分が書いたオリジナル作品。

 空虚五度を保ち進む伴奏の上を混沌とした二声部が駆ける冒頭から、吹雪くフルート、射すファンファーレ。あらゆる《白》を、《光》を、全パートが表現する。

 チャイムが全てを鎮め、曲は白夜の静寂を詠う。音を用いた静寂の表現は、プッチーニのオペラ『トゥーランドット』を思わせる。滔々と、流れていく。

 やがて、訪れるであろう闇への畏れが顔を出す。昂ぶる畏怖は舞となり、狂い乱れる。声部は離合集散を繰り返し、調性は失われ、恐怖が波となる。それは共振し、増幅してゆく。

 極まる世界を収めるのがチューバのソロ。白夜の中を、煌々と。あちこちからベルトーンが形成され、やがてそれは一つの十字架のメロディーとなる。

 ソロの主題がユニゾンとなり、大団円を迎える。

 その練習中のことだった。チューバのソロは俺が持っていた。指揮を振る当時の顧問との間に解釈のズレが無意識レベルで生じていたようで、険悪な雰囲気が全体に伝播していた。

    鬱屈としたままゲネプロ前の休憩に入った。その時、顧問が俺のところに来て告げた。

「黒木にソロはさせない。山内(当時の先輩)に任せる。」と。

    すぐに抗議した。作曲したのは自分で、自分のり方に一任して欲しいと。しかし顧問も譲らなかった。

「指揮者は僕だから。指揮者の解釈がバンドの解釈なんだよ。」

    若造が、と嘲笑う心を無表情に包んだような何とも言えないその表情と精神が、俺の堪忍袋の尾を切った。

    歩み寄り、大柄な顧問の襟首を掴んで足を払い、殴り付けようとしたところで、数人の同級生に止められた。一瞬冷静な自分が帰ってきて、そのまま逃げるようにホールを去った。そこで目が覚めた。

    結局あの日、本番には出なかった。そして退部した。

    それから学校で吹奏楽の音を聴くと、目眩や頭痛、軽度のパニックに苛まれるようになった。

    入院して何とか克服し、今に至る。

    さて、学校に行こうか。
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