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1. ちょっと自分の都合のいいように考えるようにする
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一学期も終わり、夏休みに入った。
学校はそこそこ楽しいが、やはり私立校で皆お金持ちのご子息がほとんど。
感覚が僕とは違っていて、なじめなかった。
クラスの何人かは、僕がどうしてあのキャッスルプレスの社長に引き取られる事になったか興味深々に聞いてきたが、遠い親戚の一点張りで通した。
ただ、勉強だけは人一倍頑張った。
僕にはそれしかとりえが無かったからだ。
でもそのおかげで、それ以上に僕の素性に口を挟む者もいなくなった。
3年生ではあったが、エスカレーター式に高校への入学が決まっているので受験生という認識は無く、夏休み前には「休み中は何処へ出かける?」といった話題で持ちきりで、その輪の中にも入る事はできなかった。
「今年はモルディブへ行くんだ」
「私はモナコでクルーザーに乗って、F1を観戦するわ」
「へー……やっぱり行くならカリブ海だな」
そんな会話が当たり前のように飛び交う。
僕がかつて新聞配達をしていたなんて知ったら、彼らはどんな反応をするんだろう。
それはもちろん社長にも話さないように強く言われているし、話す必要もないが……。
夏休み、さて、僕はどうしたらいいのだろうか。
また、何か本でも読んでみようか。
そう考えながら社長の書斎の本棚をもう随分長いこと眺めていた。
ガチャ
「ここにいたのか。準備しろ」
「えっ?!」
突然、帰ってきた社長は書斎の扉を開け、僕にそう言った。なんだか汗だくで。
もしかして…家中僕を探してくれていた?
なんて、自分勝手にそう考える。
違うんだろうけど、そう考えると嬉しくなるから、いつもそう思うようにしている。
僕が生きてきた中での知恵だ。
義母さんになじられても、父さんに見放されても、ちょっと自分の都合のいいように考えるようにすると辛くない。
ただ、今は辛さを逃れるためじゃなく、こんな嬉しくなれることを考えれる。
それは幸せなことだと思った。
何かあったらと、パスポートだけはココに引き取られるときに作ってあった。
大きなキャリーケースを片手に、僕はただ社長の後について飛行機へと乗り込んだ。
洋服の準備は、メイドさんに手伝ってもらった。
沢山の服を最初に買ってもらったが、普段は結局地味な着心地のいいものを3着ほどで廻していた。
もちろんそれも持って行くようにしたが、スーツや堅苦しい服も準備され、何処に行くかも知らされないままついて来てしまった。
到着したのはニューヨークマンハッタン。
世界的有名な経済の街だ。
沢山の企業が本拠地として、常に世界を動かしている。
到着したとたんスーツに着替えろと言われ、すぐさま他の秘書と一緒に社長についていき、いろんな会議に同席した。
たしかに僕はもう周りの大人と変わらない体格をしていた。
身長は170cm近くあったし、オーダーメイドで作ってくれたスーツは体に馴染み、見た目も悪くはなかった。
しかし、顔はまだまだ子供っぽく、他の人種に比べると日本人はただでさえ年齢を若く見られるのに、そんな僕がこんな場にいていいものかと、不安になった。
ハイヤーの中から街の様子を見れば、高くそびえ立つビル郡。
圧倒されるほどのエネルギーを感じる。
社長は次々といろんな企業の重役や社長職の人たちと、時には会議室で、時には会食をしながら、時にはバーでと詰め込んだ予定をこなしていた。
そして、そんな社長の傍らで社長秘書を勤めている方は、人種のるつぼと化しているこの街の沢山の会社のすべてを把握し、社長に情報を耳打ちし、通訳までもこなしていた。
すごい……。
勉強は「取り得」としか思わなかった「知識」をこれだけ活用できる仕事はないと感じ、僕は次第に憧れの眼差しでそんな秘書の方々を見ていた。
学校はそこそこ楽しいが、やはり私立校で皆お金持ちのご子息がほとんど。
感覚が僕とは違っていて、なじめなかった。
クラスの何人かは、僕がどうしてあのキャッスルプレスの社長に引き取られる事になったか興味深々に聞いてきたが、遠い親戚の一点張りで通した。
ただ、勉強だけは人一倍頑張った。
僕にはそれしかとりえが無かったからだ。
でもそのおかげで、それ以上に僕の素性に口を挟む者もいなくなった。
3年生ではあったが、エスカレーター式に高校への入学が決まっているので受験生という認識は無く、夏休み前には「休み中は何処へ出かける?」といった話題で持ちきりで、その輪の中にも入る事はできなかった。
「今年はモルディブへ行くんだ」
「私はモナコでクルーザーに乗って、F1を観戦するわ」
「へー……やっぱり行くならカリブ海だな」
そんな会話が当たり前のように飛び交う。
僕がかつて新聞配達をしていたなんて知ったら、彼らはどんな反応をするんだろう。
それはもちろん社長にも話さないように強く言われているし、話す必要もないが……。
夏休み、さて、僕はどうしたらいいのだろうか。
また、何か本でも読んでみようか。
そう考えながら社長の書斎の本棚をもう随分長いこと眺めていた。
ガチャ
「ここにいたのか。準備しろ」
「えっ?!」
突然、帰ってきた社長は書斎の扉を開け、僕にそう言った。なんだか汗だくで。
もしかして…家中僕を探してくれていた?
なんて、自分勝手にそう考える。
違うんだろうけど、そう考えると嬉しくなるから、いつもそう思うようにしている。
僕が生きてきた中での知恵だ。
義母さんになじられても、父さんに見放されても、ちょっと自分の都合のいいように考えるようにすると辛くない。
ただ、今は辛さを逃れるためじゃなく、こんな嬉しくなれることを考えれる。
それは幸せなことだと思った。
何かあったらと、パスポートだけはココに引き取られるときに作ってあった。
大きなキャリーケースを片手に、僕はただ社長の後について飛行機へと乗り込んだ。
洋服の準備は、メイドさんに手伝ってもらった。
沢山の服を最初に買ってもらったが、普段は結局地味な着心地のいいものを3着ほどで廻していた。
もちろんそれも持って行くようにしたが、スーツや堅苦しい服も準備され、何処に行くかも知らされないままついて来てしまった。
到着したのはニューヨークマンハッタン。
世界的有名な経済の街だ。
沢山の企業が本拠地として、常に世界を動かしている。
到着したとたんスーツに着替えろと言われ、すぐさま他の秘書と一緒に社長についていき、いろんな会議に同席した。
たしかに僕はもう周りの大人と変わらない体格をしていた。
身長は170cm近くあったし、オーダーメイドで作ってくれたスーツは体に馴染み、見た目も悪くはなかった。
しかし、顔はまだまだ子供っぽく、他の人種に比べると日本人はただでさえ年齢を若く見られるのに、そんな僕がこんな場にいていいものかと、不安になった。
ハイヤーの中から街の様子を見れば、高くそびえ立つビル郡。
圧倒されるほどのエネルギーを感じる。
社長は次々といろんな企業の重役や社長職の人たちと、時には会議室で、時には会食をしながら、時にはバーでと詰め込んだ予定をこなしていた。
そして、そんな社長の傍らで社長秘書を勤めている方は、人種のるつぼと化しているこの街の沢山の会社のすべてを把握し、社長に情報を耳打ちし、通訳までもこなしていた。
すごい……。
勉強は「取り得」としか思わなかった「知識」をこれだけ活用できる仕事はないと感じ、僕は次第に憧れの眼差しでそんな秘書の方々を見ていた。
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