蜘蛛の糸の雫

ha-na-ko

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初夜

2. 明美さん

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「こちらは本当に蒸し蒸しするわね」

結婚式から1ヶ月、あれからも社長は慌しく仕事に追われ、僕も少し時間を作っては秘書の方のお手伝いをしながら日常が過ぎたころだった。

「明美様、おかえりなさいませ。」

僕が他の秘書と談笑しながら二階の踊り場へ出たとき、一階玄関でメイド達が揃って明美さんを出迎えているところだった。
大きなサングラスを取ると、シルクのスカーフをふわっとひる返し、玄関ホールにピンヒールの靴音が響き渡る。
僕と一緒に談笑していた秘書も会釈をし、僕も慌てて明美さんに頭を下げた。
その時明美さんは僕達の方へも視線を向けたが、意に介さない態度で自分のお抱えの女中と共にエレベーターへ乗り込んでいった。

「まったく関心がないんだな。
自分の結婚した相手が誰と仕事をしているとか、誰と一緒に住んでいるとか……」

そういえば、この秘書の方が社長と明美さんの結婚式を取り仕切っていた。
だったら知らない相手でもないというのに。

「金持ち育ちのお嬢さんなんて、一体何考えてるかわからないな」

「………。」

確かに僕にも理解できなかった。
一生に一度の結婚式に関わった人間に対してとるような態度ではなかったし、いくら仕事が忙しいといっても新婚早々一ヶ月も離れて旅行するなんて、寂しいと思う。

……でも、僕と育った環境が違いすぎるからなんだろうな。

それは、社長も同じで……。
社長もそんな明美さんの事を不思議には思ってはいない。
どちらかといえば、当たり前のような物言いだった。やはり僕には理解できなかった。

正直、僕も明美さんに紹介すらされていなかった。
僕にしてみれば別に関心がないならそれはそれでいいのだけど……。

この広い家で人の出入りも激しい。
誰が住んでいて、誰が働いているかなんて、どうでもいいのかも知れない。

そんな価値観の違いにも距離を感じ、社長のことが遠く、遠く、感じた。



「おかえりなさーい♪」

甲高い明美さんの声。
会社から帰ってきた社長を出迎え、腕を組んでそのままエレベーターに乗り4階へと行ってしまった。
今まで僕が家に居る時は、玄関中央の階段を上がり、二階の踊り場で待っている僕のところへ来て一緒に食事もしたけれど。

もう、僕のところへ来てはくれないんだ。


わかってはいたが実際に目の当たりにすると、自分の足元が突然沼地のように歪みだし、ずぶずぶと沈み身動きすら取れなくなっていく感覚に陥った。
僕の中で「社長の性奴隷」であるということが、どんなに生きる糧になっていたのか思い知ったのだ。

見返りを求めるつもりなど毛頭ないが、糧を失った自分の中での喪失感は想像以上で。
食事も喉を通らないまま、対応できない体を引き擦り5階の自室へ戻ると、社長の寝室からまだ聞きなれないあの甲高い声が聞こえてきた。

……もう明美さんは社長の寝室へ入っているんだ。

社長にとって、明美さんは特別。
そりゃあ、そうだ。
奥さん……なんだもん。


これからは、社長と寝室でも共に過ごすのだろうか。
僕はその隣の部屋で、眠ることができるのだろうか。

いけないとわかっていながらも、そっと扉を開け隙間から部屋の様子を覗いた。


今回のコレは、最初に社長を見かけ茂みから盗み見た時の、いけないとわかっていながら止められなかった衝動、好奇心から来る純粋な感情に突き動かされたものではなく、
黒い心の闇が僕を覆い、足元を揺るがす沼地の恐怖から、藻掻き、這いだし、掴める蔓を探すように、自分という存在を誇示する何かを求めての行動だった。

しかし、それはただ自分を追い詰めただけとなってしまった。



ベッドに座る二人。

優しいキスを繰り返しながら、社長は明美さんをゆっくり押し倒す。
片手は指を絡め、もう片手で明美さんのシルクのブラウスのボタンを外していく。

「気持ちいいかい?」そんな社長の囁きが聞こえ、僕は息を殺しながらも震える唇を噛み締めた。

明美さんの豊満な胸が露になり、社長は胸からお腹、わき腹、腰とキスをしながら秘部へと到達する。

「ここか……奥がいい?」社長の指が股座を弄り、「入れていいか。」と優しく呟くと、二人は指を絡ませ、社長はしなやかな白い綺麗な脚をそっと掴んで割り、その間に体を滑り込ませた。

社長の腰がソコへと沈むのが見え、思わず僕は目を逸らす。

「狭いな……。大丈夫か?」「動くよ……。」その言葉が聞こえた時、僕は耐えられなくなって扉を閉め、立って居られなくてその場に崩れ落ちた。


僕は気づいてしまった。




このSEXは、僕との最後の夜と同じだった……。






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