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行方
2. 《弘和side》そんなことは私が許さない!
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《弘和side》
カードは電車賃としてだけに使用されていた。
行き先には身に覚えがあった。
車で一時間、郊外の静かな住宅街を抜け、街灯だけがぽつんぽつんと照らす緩やかな坂道を上り、たどり着いたのは滑り台とブランコしかない、小さな公園だった。
車を降りると、もう秋も近い冷たい夜の空気が高台特有の下から吹き上げる風となって私を包んだ。
慌てて上着も着ずに来てしまっていたことに、今頃気づく。
私は辺りを見渡した。
町並みは疎らでそんなに夜景も美しいわけではないその公園のブランコに、華奢な身体の男が座っていた。
ゆっくり近づく。
後姿しか見えないその人影の半そでのTシャツから見える腕には無数の引っかき傷があり、すぅっと長い腕を伸ばしたかと思うと、もう片手には半分に割られたカードが握られていた。
そのカードの鋭くとがった場所を手首にあてがう。
私はその細い両手首を掴んだ。
「なにをしているんだ。」
ビクッと身体を強張らせ、おどおどと私を見る眼鏡越しの大きな瞳。
それは二日前と同じ格好の手島だった。
何処をどう歩いたのか、薄汚れ、手にも力は入らず、細い手首を片手で一まとめに掴んでも抵抗もできない様子で、
二つに割られたクレジットカードも地面に落としてしまっていた。
「………社長…」
びくびく震えながらただそう呟いた手島に、私は沸々と怒りが込上げてくる。
爪の中には肉片のようなものが挟まっていて、自分で腕に傷を負わせたのだとわかる。
そして、さらに手首を切ろうとするなど、私の中で許しがたい行為だった。
手島が逃げた先がココだったということも私の心を掻き乱し、冷静さを失わせた。
パンッ!!!
私は手島の頬を打ち、手島はその場に崩れ落ちる。
「そんなにあの頃に戻りたいのか!?」
そう、ココは元々叔父の家があった地域だ。
あれから5年。
叔父の家は売却され、あの広大な敷地には大きな15階建てのマンションが建っていた。
最寄の駅から、思い当たる場所を転々と車で走らせ、この公園にたどり着いた。
そう、彼にとってココは故郷の地。
そして彼が13歳のとき、新聞配達をしている途中、この公園までの坂道で私は彼を見つけ、無理やり車に連れ込み、レイプした。
あの日までの彼の人生は、多分ごく平凡でありふれたものだったに違いない。
私がそれを踏みにじった。
そうしてでも、手島、お前を手に入れたかった。
そして今も………。
「そんなことは私が許さない!」
手島は座り込み、項垂れたまま呟く。
「………から……」
「ん!?」
「もう、僕は無用だ……から… 」
私は眉真にシワを寄せた。
無用だと!?
誰がそんなことを!!
手塩にかけ、育て、調教し、私だけのお前になったと思っていた。
それがどうして無用などと!
確かにこのところは仕事で家を離れることも多く話も聞いてやる時間が取れなかったり、結婚し明美も住むようになって、堅苦しさを感じさせたかもしれない。
でも、あの結婚を告げた時の手島の私を求める姿で、逃げるなど考えられなかったし、もう数えきれないほど身体を合わせたが、あの時ほど手島をいとおしく思い、愛を注いだSEXはなかった。
私と手島の生活が噛み合わず会えない日でも、何度も思い出すほどに
あの日の夜は私にとって特別だった。
だから、明美の排卵日に合わせて行為に及ばなくてはいけなかったときでも、頭のなかであの時の手島を思い浮かべ、あの我が儘な女も満足させてやることが出来たんだ。
そして今も、仕事を放棄して真夜中探しまわって……。
私はこんなにお前を欲して止まないのに、どうしてそんな考えに至るのか理解できなかった。
どんなに愛を注いだところで、伝わらないのかもしれないとやるせない想いのまま、今の手島をどうすれば私の元から逃げ出さなくなるのだろうかと、
それだけに頭を巡らせていた。
カードは電車賃としてだけに使用されていた。
行き先には身に覚えがあった。
車で一時間、郊外の静かな住宅街を抜け、街灯だけがぽつんぽつんと照らす緩やかな坂道を上り、たどり着いたのは滑り台とブランコしかない、小さな公園だった。
車を降りると、もう秋も近い冷たい夜の空気が高台特有の下から吹き上げる風となって私を包んだ。
慌てて上着も着ずに来てしまっていたことに、今頃気づく。
私は辺りを見渡した。
町並みは疎らでそんなに夜景も美しいわけではないその公園のブランコに、華奢な身体の男が座っていた。
ゆっくり近づく。
後姿しか見えないその人影の半そでのTシャツから見える腕には無数の引っかき傷があり、すぅっと長い腕を伸ばしたかと思うと、もう片手には半分に割られたカードが握られていた。
そのカードの鋭くとがった場所を手首にあてがう。
私はその細い両手首を掴んだ。
「なにをしているんだ。」
ビクッと身体を強張らせ、おどおどと私を見る眼鏡越しの大きな瞳。
それは二日前と同じ格好の手島だった。
何処をどう歩いたのか、薄汚れ、手にも力は入らず、細い手首を片手で一まとめに掴んでも抵抗もできない様子で、
二つに割られたクレジットカードも地面に落としてしまっていた。
「………社長…」
びくびく震えながらただそう呟いた手島に、私は沸々と怒りが込上げてくる。
爪の中には肉片のようなものが挟まっていて、自分で腕に傷を負わせたのだとわかる。
そして、さらに手首を切ろうとするなど、私の中で許しがたい行為だった。
手島が逃げた先がココだったということも私の心を掻き乱し、冷静さを失わせた。
パンッ!!!
私は手島の頬を打ち、手島はその場に崩れ落ちる。
「そんなにあの頃に戻りたいのか!?」
そう、ココは元々叔父の家があった地域だ。
あれから5年。
叔父の家は売却され、あの広大な敷地には大きな15階建てのマンションが建っていた。
最寄の駅から、思い当たる場所を転々と車で走らせ、この公園にたどり着いた。
そう、彼にとってココは故郷の地。
そして彼が13歳のとき、新聞配達をしている途中、この公園までの坂道で私は彼を見つけ、無理やり車に連れ込み、レイプした。
あの日までの彼の人生は、多分ごく平凡でありふれたものだったに違いない。
私がそれを踏みにじった。
そうしてでも、手島、お前を手に入れたかった。
そして今も………。
「そんなことは私が許さない!」
手島は座り込み、項垂れたまま呟く。
「………から……」
「ん!?」
「もう、僕は無用だ……から… 」
私は眉真にシワを寄せた。
無用だと!?
誰がそんなことを!!
手塩にかけ、育て、調教し、私だけのお前になったと思っていた。
それがどうして無用などと!
確かにこのところは仕事で家を離れることも多く話も聞いてやる時間が取れなかったり、結婚し明美も住むようになって、堅苦しさを感じさせたかもしれない。
でも、あの結婚を告げた時の手島の私を求める姿で、逃げるなど考えられなかったし、もう数えきれないほど身体を合わせたが、あの時ほど手島をいとおしく思い、愛を注いだSEXはなかった。
私と手島の生活が噛み合わず会えない日でも、何度も思い出すほどに
あの日の夜は私にとって特別だった。
だから、明美の排卵日に合わせて行為に及ばなくてはいけなかったときでも、頭のなかであの時の手島を思い浮かべ、あの我が儘な女も満足させてやることが出来たんだ。
そして今も、仕事を放棄して真夜中探しまわって……。
私はこんなにお前を欲して止まないのに、どうしてそんな考えに至るのか理解できなかった。
どんなに愛を注いだところで、伝わらないのかもしれないとやるせない想いのまま、今の手島をどうすれば私の元から逃げ出さなくなるのだろうかと、
それだけに頭を巡らせていた。
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