上 下
4 / 10

乳母

しおりを挟む
図書館では静かな時間が訪れる。

ときおり、紙がめくれる音。この静寂がとても好き。
お姉様もお兄様もお忙しい。

それでもわたしと話す機会を作ってくださる。

恵まれた環境と人は言うけど、その大半が煩い。

煩わしい人達とも挨拶をしてとの言いつけを守っているけど
(本に囲まれて過ごしたいわ。)


お姉様とこっそりお話しをする。
「どうしてあの貴族のことがわかったの?」

誰の事だろう?思い出して答えた
「あの人の顔を見ると思い出せるの。」

名前も、何か変わったことをしているとわかるのに。
だいたいが嘘だ!と叫んで、きみが悪いって顔になる。


「そう、言う時を考えないとダメよ?“身の安全を第一に”約束覚えている?」

「はい。もちろんです。」

「返事は良くなたわね。」

淑女教育というものが役立ったらしい。
今日は廊下でやり返しただけだけど。

お姉様に心配をかけないよう、気をつけよう。


ねえ、私の顔にはなんて書いてある?

「“本当かしら”」

「わかりやすいわね。」


そう口にしていたけど、

『困った子ね心配だわ』の顔だった。


「ここに居たか。」
「お兄様?」

心配だの顔だ。どうしたのだろう。


「廊下での事を聞いてね。庭でも何かあったらしいが。」

庭?ああ。この子に近づいたらモテるって顔にあった子か。
興味ないな。花を勝手にむしるにはやめて欲しいけど。


お姉様が説明している。ただ貴族が話しかけてきてそれをやり返しただけなのに。

「また護衛が増えるの?」

視界に入らないで欲しい。

「可愛い妹のためだ。」

やはり、心配だの顔だったので、とりあえず頷いた。


その夜、
「どうしてわからないの?」

乳母に聞いた、ちゃんと考えて答えてくれる。

「どうしてわかるか、わかっていないのです。その反対でしょうか?
特別ですね。」


「他にはいないの?」

「わたくしは、知りませんね。
世界は広いそうですから、いるのかもしれませんが。

隠すでしょう。」

「どうして?


「バレたくない事がわかる人をこわいんです。いつ話してしまうのか?とか。」

「嫌なら話さないよ?」

「それもわかりませんもの。」


「わからないことが多すぎて、わからないわ。」


「そうですね、少しづつ覚えてください。」


「わかったわ。

寝る前にはお風呂がお姫様の仕事ね。」


「ええ。わたくし達に仕事をさせてくださいね?」

そうやって楽しそうな乳母に連れられ、風呂に入る。

髪も指もオイルで潤いを与えらえる。

「お母様が作ったやつ。」

「ええ。落ち着いた香りですね。」

「薔薇は嫌いだもの。」


そしてお姫様は眠りについたのでした。





しおりを挟む

処理中です...