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研究に閉じこもっているお母様は、側妃様という仕事がないとずっと会わない。


「きょう、面会の日だけど来るかな?」

「お待ちになっていると思いますよ」

『いなかったら、どうしてくれよう?』と母に強い乳母だ。
側妃付きの侍女をしていたらしい。

『居なかったら、研究道具を取り上げましょうかね』

顔に書いてある。
そして、女の人がどかどかっと部屋に入ってきて言った。

「紅茶ー。」

ノックなし、簡易なドレスの女性の淑女教育は活かされていないらしい。
けれど、ぬるい紅茶を優雅に啜る。

『喉渇いたわ。』「なんだっけ、あの書類』
『蒸留したから、冷やす時間が…』
母は、研究のことで頭がいっぱいのようだ。


「アイリーン、元気?」
「ええ。元気です。」

これで終えたいらしい。
こちらから話題を提供しなければ。

「お母様はどうして結婚されたのでしょうか。」

「結婚、ね。」

思考を巡らせている。お母様は思考が細波のように広がりやすい。
少し待っていると、話始めた。

「面倒だから結婚したの。
研究させてくれるし、子供は産んでみたかった。からかな?」

本心だ。


「そう。」
参考にはならないかな。

今のところ、貴族がたまに話かけてくる。それに何か解決策があるか聞きたかったけど。
時々、やり返すしかないか。面倒だな。ってお兄様が言ってたのが同感だわ。


今度、お姉様にも対処方法を聞いてみよう。
考え事をしていたら、お母様に次いで言われた。


「結婚したくなったら、したら?」

「そうします。」

結婚は、お兄様やお姉様の迷惑になるかもしれない。
何より、貴族が煩い。

とにか文句を言って、自分の息子をって話しかけてくる。

何が不満なのか?全部だろう。
変わっても変わらなくても、不満を持ち出してくる。


「そういえば王がなんか言ってたけど
王妃がどうにかしてくれるって、言ってたような。」

『なんだったっけ』の興味のない顔。
この場合、王妃様に伺った方が良い。経験則だ。

会話もしたから、早々にお暇しよう。
「お邪魔いたしました。」

『研究の邪魔だけど、また来ても良い』
という態度で、お見送りしてくれる。ソファに座ったままだけど。

「お母様、いつも香油をありがとうございます。愛用してます。」

「そう?」

嬉しい顔になったけど、そっぽむかれてしまう。


これが、可愛いと思う感情だろうか。
お兄様もお姉様をわたしを可愛いといってくださるけど、
笑顔だけが可愛いじゃないのね。


微笑みも張り付けているだけでは、ペラペラで。

可愛げがない
っていうのかしら。


久しぶりの親子の会話を楽しみ、わたしは


王妃様への面会をお願いして、部屋で過ごすことにした。
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