8 / 11
仕掛け
しおりを挟む
舞台に立つまで稽古不足は芸の名折れ
お狐様の前で考えがまとまった貞吉は
待たせていた男を呼んだ。
今度の舞台にあらすじを決めたのだ。
筋書きを書き留めるため、見習いは20ほどの年で卒なく動いた。
それを見かけ三左が睨む
いや観察しているのだが、これから喝上げするような雰囲気だ。
(どっかで?)
なよっとした雰囲気
化粧が映える顔立ちだった。
その化ける容姿が気に入られている。
舞台で光るものがあると目をかけている見習いだ。
(名前は…)
三味線の音がする。
唄に
「別の長屋になったみたい」とおすみが驚く。
習い事などやっていないから珍しいのだろう。
そのおすみは今日、手習いに寺へ行く。おちかさんの茶屋の近くだ。
寺から茶屋に顔を出して少し手伝ったりお駄賃をもらって、用事を言い付かる。
この日も寺子屋に行ってから茶屋に顔を出した。
「あらおすみちゃん!
寺子屋の帰りかい?」
と言われたのは、荷物を持っているからだろう。
「こんにちは!何かお手伝いすることありますか?」
挨拶して手伝いがいるか聞いてみる。
「今日は大丈夫だね。いつもの御隠居さんが来ただけさ。
まあ出がらしだが、茶でも飲んでいきな。」
以前の長屋でお父ちゃんといた時よりは上等な、お茶を飲んだ。
こうお茶を勧める時は。おちかさんが話をしたい時なんだ。
そのつもりで、座ってお茶を飲み、聞く姿勢に入った。
「そろそろ、若様が来た頃じゃないかい?」
若様とは貞吉のことだ。確かに今日、移り住んできた。
たびの一座の興行が立ったのでわかったのだろう。
「うちにきてくれないかねえ
いや来てもらっても良いもんが出せるわけじゃないが」
とても楽しそうに舞台の話をしてくれる。
珍しくしっかり話し込んでしまい、夕暮れの気配が迫る中
長屋への帰路につく。
人通りの多いよく通る道を進んでいれば
もうすぐ帰りの人でごった返す頃だろう
慌ただしく通り過ぎる人がいた。
その邪魔にならぬよう気をつけて進む。
そこへ
「掏摸だ!!」
大きな声で叫んだ男の声。
ざわつく橋の上、財布を探す浪人の男。
優男が「あっしじゃございませんぜ!」と言い
野次馬が遠巻きに見る。
おすみも何となくその中心を見ていた。
「着物を脱いであっしじゃありやせん!!」
と言い張る男に、
「さようだな、すまぬことをした。」と場が収まる気配がした。
危ういことにはならないらしい。
掏摸に気をつけろと言われるが、おすみは金子を持っていないので
いらない心配だ。
早く帰ろうろ思い立ち、歩を進めようとした時
ふと見知った顔が目に入った気がした
(はて、誰だろうか?)
若旦那風の男を思い出せず
まあいっかと足を早めて帰った。
今日の夕食は三ちゃんと一緒だ。
少し変わった長屋の住人が加わり、初夏の涼しさを感じながら
お狐長屋に帰って来た。
「ただいま~」
お狐様の前で考えがまとまった貞吉は
待たせていた男を呼んだ。
今度の舞台にあらすじを決めたのだ。
筋書きを書き留めるため、見習いは20ほどの年で卒なく動いた。
それを見かけ三左が睨む
いや観察しているのだが、これから喝上げするような雰囲気だ。
(どっかで?)
なよっとした雰囲気
化粧が映える顔立ちだった。
その化ける容姿が気に入られている。
舞台で光るものがあると目をかけている見習いだ。
(名前は…)
三味線の音がする。
唄に
「別の長屋になったみたい」とおすみが驚く。
習い事などやっていないから珍しいのだろう。
そのおすみは今日、手習いに寺へ行く。おちかさんの茶屋の近くだ。
寺から茶屋に顔を出して少し手伝ったりお駄賃をもらって、用事を言い付かる。
この日も寺子屋に行ってから茶屋に顔を出した。
「あらおすみちゃん!
寺子屋の帰りかい?」
と言われたのは、荷物を持っているからだろう。
「こんにちは!何かお手伝いすることありますか?」
挨拶して手伝いがいるか聞いてみる。
「今日は大丈夫だね。いつもの御隠居さんが来ただけさ。
まあ出がらしだが、茶でも飲んでいきな。」
以前の長屋でお父ちゃんといた時よりは上等な、お茶を飲んだ。
こうお茶を勧める時は。おちかさんが話をしたい時なんだ。
そのつもりで、座ってお茶を飲み、聞く姿勢に入った。
「そろそろ、若様が来た頃じゃないかい?」
若様とは貞吉のことだ。確かに今日、移り住んできた。
たびの一座の興行が立ったのでわかったのだろう。
「うちにきてくれないかねえ
いや来てもらっても良いもんが出せるわけじゃないが」
とても楽しそうに舞台の話をしてくれる。
珍しくしっかり話し込んでしまい、夕暮れの気配が迫る中
長屋への帰路につく。
人通りの多いよく通る道を進んでいれば
もうすぐ帰りの人でごった返す頃だろう
慌ただしく通り過ぎる人がいた。
その邪魔にならぬよう気をつけて進む。
そこへ
「掏摸だ!!」
大きな声で叫んだ男の声。
ざわつく橋の上、財布を探す浪人の男。
優男が「あっしじゃございませんぜ!」と言い
野次馬が遠巻きに見る。
おすみも何となくその中心を見ていた。
「着物を脱いであっしじゃありやせん!!」
と言い張る男に、
「さようだな、すまぬことをした。」と場が収まる気配がした。
危ういことにはならないらしい。
掏摸に気をつけろと言われるが、おすみは金子を持っていないので
いらない心配だ。
早く帰ろうろ思い立ち、歩を進めようとした時
ふと見知った顔が目に入った気がした
(はて、誰だろうか?)
若旦那風の男を思い出せず
まあいっかと足を早めて帰った。
今日の夕食は三ちゃんと一緒だ。
少し変わった長屋の住人が加わり、初夏の涼しさを感じながら
お狐長屋に帰って来た。
「ただいま~」
0
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
無用庵隠居清左衛門
蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。
第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。
松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。
幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。
この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。
そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。
清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる