【長編・完結】この冒険者、何者?〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

BBやっこ

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クリスの去ったギルドではさっきの騒ぎが酒の肴になっていた。

「なあ、あの男どういう奴なんだ?」
「蛇に睨まれるとはな」

クリスを知らない者も混ざっているようだが、ほとんど『あいつ、帰ってきてたんだな』と話している。この町出身で知ってる者も多い。そして有名な<蛇の眼>のクラン長だった。

クランの名になったように、その風貌は蛇の様な眼。妙な嗅覚を発揮して街の主だったクランのひとつになっている好戦的で、すぐ冒険者に絡みに行く。街に大きなクランを作っても性格は変わらなかったようだった。

目立つ、すぐ絡みつく蛇のような男。
新人の頃は手がつけられない、暴走気味だったがあれでも落ち着いたんだろう。

「まあ悪い奴じゃないが、あのすぐ武器を出すのはな。」
「本人、戯れのつもりだがギルドの机を壊した事あるもんな!」

昔話の様に話しているば、記憶に新しい事なのだろう。冒険者ギルドには迷惑なのだ。

「そんな暴れん坊を、あの優男と混ぜたら?」

…喧嘩になるか、子供と大人の対応、綺麗に躱す・躱せる間柄。

「怪我もしなそうだな」
「ああ、大丈夫そうだな。なんなら暴走するのを止めてくれる気がする。」

慕われているのだろう、俺様クラン長の兄貴分。その男の興味を惹いた男もまた、気になる存在として話題に上がる。酒を呑んで冗談を言いながら、話は別のものになっていった。

妙な嗅覚を持つ男に目をつけられたクリスは、ため息を吐いた。
「周辺が騒がしくなってきた。」

借りている部屋の一室、冒険者ギルドに近づかない事にしたクリスは寝床に身体を預け、考える。
(部屋に篭りっきりも、つまらないな)

やることも、やるべき事もない。予定もないのは贅沢な事だろうが、自由だが何処にも行けない現状は望まない。
「冒険者、だもんな」

自由の代名詞、その実状が下働きから一攫千金の夢まで幅広いが。そうなってから何十年経ったのか。
「まだ飽きていない。」

そう言葉にして、楽しくなる。
まだ行っていないところがある。まだ食べていない物がある。

(まだ知らない事もある、か?)


忘れていく事に、記憶を留める名前。もう呼ぶ事も呼ばれる事もない…。


「クリスさん、お茶でもいかが?」
階下からの婦人の声かけに応えて、降りて行く事にした。


階下へ降りると、夫君もお茶をしていた。



忘れていく事に、記憶を留める名前。もう呼ぶ事も呼ばれる事もない…。
「クリスさん、お茶でもいかが?」

階下からの婦人の声かけに応えて、降りて行く。階下へ降りると、夫君もお茶をしていた。


「美味しく淹れられたんですよ」

出されたお茶をいただき、そろそ甘味を買いに出ようかと思ったが、冒険者ギルドにふらりと行くわけには行かない。蛇の眼クラン長に触発されるように、冒険者からの誘いが増えたのがキッカケだ。

『依頼を一緒に』
『手合わせしてみないか』

『酒を呑みに行こうぜ!』と声をかけられる。

「あの男の影響力はなかなかあるらしい。」
誰が繋がっているかわからないが。気軽に誘いを受ければ、面倒が絡みそうだった。


「暇しているようだな。本でも貸そうか?」
「3冊ほど貸してもらえますか?」

夫君の言葉に甘えて本を見せてもらうと旅行記が多く、村の風習がお話として記されている。
タイトルは…
[ダウジル商会 旅の記録]
[海の幸を得る戦いの記憶]

実用にも使えそうな内容だが、知っている内容が多いので除外。

[空島への旅路]
[山の恵みの美味しい食べ方]
[精霊の友 妖精との付き合い方]

こちらは読み物として楽しめそうだ。
空想か、現実かわからない内容の中に今もある風習から、危険を回避する知恵が得られる。

実際、旅する商人は知っていた方が良い内容だろう。冒険者あたりもこういう知識がないと、とんでもない事態を招くんだが妖精や精霊関係の揉め事が後を絶たないらしい。

(この辺りの森の言い伝えか。)

風が運ぶ音で、浮気男の所業がバレた話。
森の浅い場所でぐるぐる迷ったものの、リンリンと音がする。その音を辿ると迷った子供が家に帰れた話。

よくある類のお話だ。子供なら、学び舎に行く前に読み聞かせられるようなもの。
読み返せば、少し内容が違ったり記憶違いに覚えている部分など確認できた。

筋書きが同じでも、終わり方や取り上げ方は違うようだ。

音に気づき、顔を向けると外が暗くなっていた。
「久しぶりに読書だけして時間を過ごしたな」

荷車の音だったのか、すでに2人とも帰ってきているか。老夫婦2人外出しても、クリスは留守番をしている事が多い。その事に、信用されているものだなと思う。

今も、クリスの詳しい素性は不明である。



本は読み終わった。

精霊の話か。ある男に会い、惚れられてしまうのに困った末。男達を懲らしめる話だ。
(真似てみるか。)


今の状況に仕えるかもしれない。釣れなくても暇つぶしにはなる
思案を巡らせていると声が届いた。


「今日はこないのかなー?」「今度こそ私、誘ってみる!」
ギルド内の会話を風が拾ってくる。

「勧誘が増えそうだな。多くなっている」

リンリンと気を引く音が、クリスに向けられている。

「市場でもいるなあ。」

冒険者にの格好に、商人も参加して誰かを探しているらしい。
追われる立場ではないはずが、監視を掻い潜っての行動が難しくなっている。

「誰かに追われる様な事をしたかなあ。」

独りぼやいても狙われているのはクリスらしい。
メイヤに接近する者もいるが、仲良くなった女冒険者達といれば、回避できているので大丈夫だろう。
楽しそうに、夜の町へ呑みに出かけるらしい。

そして、この家の周りの監視は、今日も続いている。
「どうしたものかなあ」

自身から動く気はないものの、どこに強く出るというのもなし。
引き篭もるのにも、飽きがくる。

「暇は、最大の敵だな」

独り言に応えるように風が吹き、リンと音が響いた。



情報が集められた。標的は部屋からほとんど出ない。なので周囲の者を監視した。
会話で探りを入れ、

買い物で寄る市場を同じ道を沿って歩いた。新しい情報は出ない。


冒険者ギルドへは用がないので行かないので襲撃はあの部屋にするか?
一度、襲撃依頼は成功している。しかし、同じようなルートでの侵入は対策がとられているだろう。

あれでも冒険者だ。2度同じ方法は避けるべきだ。

「しかし、下働きの冒険者なら干上がる日数だが、あの男に焦った様子はない。」
「支援者でもいるのだろうか?」

護衛の依頼が終わったとはいえ、今の依頼ペースでは金も尽きるだろうに。
「主人が金持ちなんだろ?」

「背景も不明だ」
「とことん、情報がないターゲットだなあ」


男達の仕事も、やりづらくなる。


「金を持っているほうが、実入りがふえる。」

そこには同意だ。今日も、部屋を監視している。しかし連絡には『ずっと部屋にいた接触なし』と、新たな情報はなかった。


「相手の腕前もわからねーのか!」
「討伐依頼も受けてないんだ。魔物の素材を納入した記録はあったがここでは全然ない。」

「冒険者じゃねーだろ。」
「採取依頼と、登録はある。」

流れてきた情報には、見てもわかるような内容しか書かれていなかった。

「なめてんのか!」

どこを探れば出るのか、教えて欲しいくらいに出ない。
商会を探るのも、足がつくとなると控えろという依頼だ。

「めんどくせえ」

ただ突っ込んで行くだけとでも思っているのか?下調べした上での交渉。
脅すだけなら簡単だが依頼はひねくれている。

『負け犬に身の程を教えろ』

それにしたって情報が皆無に等しい。
「どうしろっていうんだ?」

その後も男達の頭を悩ませる事になるのだった。
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