【長編・完結】この冒険者、何者?〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

BBやっこ

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1-14 散歩

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いつものように市場へ、しかし一人で歩く事にした。

「久しぶり」「そうでもないですよ」と話しながら市場を見回る。

冒険者に声を掛けられてもサラッとかわした。今日は冒険者ギルドには行かない。
ひっそりと追いかけてくる男を数え、動きはいつものように自然に。商会で甘いものを求めに行く。

冒険者との接点を減らし、あの男達がどう繋がりがあるか?
寄ってきた男達をできるだけ調べてくれるだろう。つけ回し方が冒険者をしているだけの動きじゃないと確信する。

網に引っかかる人数が多くても、捌ける。詳しい事情は昨日のうちに調べるよう願っているから。
クリスは待つだけで、散歩を楽しんだ。


町は、久々に歩くと眩しい。ずっと部屋で本を読んでいたからじゃないと思う。手入れされた花が道に咲く。子供が遊んでいるのを遠目に見て、長閑な町を歩いた。木のの建築物は年季も経っていそうだが、大事に使われているのだろう。


ここの平穏さを伺わせた。魔物の脅威も少ないのは、冒険者が森に定期的に入っているお蔭か。町まで魔物が出ないよう守りに立っている。依頼を見れば、それほど危険も経験も必要ないと分かる。

この町に留まる冒険者は稀だが、森で採取した薬草を卸す役割があるため商人も行きに使って市場は賑やかだ。その関係で街との往復、通う冒険者も居るらしい。馬車で日のあるうちに行き来できる距離に、街があるのも良い立地なのだろう。

つけ回しやすいよう、のんびり移動して目当ての商会に顔を出した。

受付で挨拶、雑談してコーヒーの淹れる道具が揃って近日中に渡せると話がもたらされた。
「部屋に、送り届けてもらえますか?」

年甲斐もなく、ワクワクする。荷物が届くのを待つ事にした。
器具は割れ物、グラスでできているサイフォンを火で熱して淹れる。趣も味もひと味違うコーヒーが楽しめる。
荷物が届いたら、直ぐにコーヒーを淹れると決める。アイツのが上手いが、手が空かないかもしれなからな。




そんな楽しみの予定より、あちらの決行の時が先に来るようだ。夜、早々に動きがあると報せてきた。
「じゃあ、次で手を出してくるか。」

『裏組織からの襲撃計画』

私の周りを調べ回ったようだが、碌な情報を得られなかったんだろうな。
「こっちは、色々分かっているんだが。」

・この依頼が出されたのは、メイヤの依頼の件が問題視され冒険者ギルド内で処罰があった後
・依頼主は、あの男

・襲撃場所は開けたところを何処か、森にする

そこへの誘導は女性、標的を市場から差し向ける。


「あまり、練られた計画じゃないな?」
直ぐにでも思いつくような物ばかりだな。実行する人数が集まれば直ぐできそうな。
それもしょうがないのだろう。

標的の情報がなさすぎる。(私の事だが)引き篭もった冒険者にできる手段は少ない特に、この条件。
『ここへ襲撃するのは避けろという条件付き』なら尚更。

依頼人の意図は予想できる。

私への個人への攻撃ではない場合、商会へのものととられて大々的に襲撃者を捜す事になる。
そうされたくなくて、只の冒険者を襲った事件にしたいのか。

「イマイチな、私が原因の事件にはできていないな。」

後々のための条件、“クリスという冒険者の男が原因”にできていない。
女性関係、酒、金のない状態にできないとこうなるのか。

「過ぎたるは身を滅ぼすもの、か。」
今の籠城のような暮らしぶりでは相手方も踏み込んでこれないのか。

腕前は分からないが、人数でたたみ込む。地の利はあると見込んで、さっさと襲う事にした、と。

「私をどう所定の場所へと誘い込む気だ?ああ、メイヤに何かあったと報せが来るのか。
そちらは気にしていてくれ。こっちは誘いに乗ってみよう。」

明日の予定が決まったので、眠った。



いつも通りに起き、散歩してくると婦人に声をかけて出てきた。
「まずは市場か。」

わかりやすい場所にいようと心がけて、早く釣られてくれる事を期待した。
そう、期待はしていた。


(それにしても、まだ日が高い。)

予定通り、女性が声をかけてくるかと思ったが変更したらしい。
なんでも、市場に居る雰囲気の女性ではなかったとか。

酒場を想定した人選だったのだろうか?結局、冒険者のような男が声をかけて、報せに来た。

「アンタがクリスか?メイヤって娘が助けを求めている!来てくれっ」
市場で叫ばれた。驚くより、ちょっと恥ずかしさを感じてしまった。
呼びに来た男が演技地味ていたからからだ。

連れられて来れば森の浅い場所、しかし人は来ないだろう絶妙な場所。
道標だけが置かれている寂しいそこまで誘き出された。


「弱いとしても意地がある、戦い方は色々だろう?」
そう言って出てきたのは、いつかのギルド員だ。引き連れている男たちは3人と隠れている2人。
冒険者風の装いだが、冒険者ギルドで顔を見た覚えはない。

「冒険者ごときが、俺に逆らいやがって。許しを乞えよ!」
人を下に見るのを隠さなくなったらしい。


「あの女がどうなっても?」
(メイヤの事から攻めてくるか。)

助けたくらいだから今更、見捨てられないだろう?と前提か。

「心配しなくても今は、友人とお茶をしているよ。」
「どうなったか知らないだろ?虚勢張るのは止せよ」

こちらの態度が崩れないのに焦れているのは、そちらだな?
「いいや、今甘味を追加で頼んだ。そちらの手のものはいない」


見えているかのように、真実だと言う男に気味の悪さを感じたじろいている男達。
それでも引く事は矜持が許さない。

奇妙な男。

(何者なんだ?)
後方で隠れている男は、引き上げる気になった。3人で襲えば少しは怪我をさせられるだろう。これ以上はあの金額じゃ割に合わん。

「あんなの、意味不明だ。」
こんな中途半端な情報で、標的にする相手じゃない。

囲まれているのに平然としている、あんな態度をとれるのが只の冒険者な訳がない。
味方が捕まっていると告げられているのに、言い返す内容も。

「見えているのか?」

そう思うも、場を離れる行動に移る。そうした筈の隠れていた男は、自身の意識が刈り取られた事に気づく事はなかった。
そんな状況にも気づかず、主犯格の男がやっとクリスの挑発で襲い掛かろうとしていた。

「誘いこまれる?誘い出したんだよ」
「強がりを!」

雇った3人と自身が加われば、その態度も崩れる。確信した顔は受付をしていた頃の面影はなく醜悪に、接近してきたものの…後に続く男たちが居ない。
「は?」

振り返れば、木々に吊るされた男が2人。もう一つは叫んで吹っ飛んだ。
まるで“見えないモノに殴られたかのように”。

男と、クリスは対峙したまま。
少しの逡巡を得て、ヤケになって殴りかかる事にしたらしい。


軽くいなそうとして、間に入ったものがいた。人が間に入る事など不可能な筈。
そんな驚きと思考に、固まった男へ告げる。

「貴方様が、手撃ちにする必要もありません。」

誰もいないはずだったそこに、男が割り込む。その容姿を見るまでもなく、襲い掛かった男は地面に倒れていた。


「ご苦労だったな、カザン」
「いいえ、とんでもございません。例の女性の安全を確認してから参りました。」

「そうか、何もないようで良かった。」



老夫婦の方に守りにはフウが。
周囲の警戒には、リンが働いてくれていた。

するりと木の枝が、男2人を追加する。

「全部で6人。どうやって運ぶかな」

「お任せください。人を呼んで参ります。」

そう言って消えたが、誰を呼んでくるつもりか聞くのを忘れた。
まあ適当に、冒険者ギルドから連れてくるのだろう。

「この!」

まだ動けた男が木の枝に捕まりながらも、小刀を投げたが。バッサリ斬って無力化し、ガツんと地面に叩きつけられる。

無駄な足掻きであった。
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