【長編・完結】この冒険者、何者?〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

BBやっこ

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話し合いが終わり、出る前にギルドの依頼を見ようとしたところだった。因縁のありそうな対峙に冒険者達は、遠巻きに見ている。立ち去らないのは、どうなるのか気になるからだろう。

「楽勝だったな?」
「まあ、怪我はないな。」

蛇の眼のクラン長とその配下達がクリスを待ち受けていた。仲良さげな会話に、少しどよめきが起きる。
ギルドとの情報共有に来たのなら、早い対応だ。

クリスへ襲撃の噂となれば、1度目に関わったクランは疑われる。
平然とした態度で、会話しているところを見せれば払拭できるだろう。

こういうタイミングを持てるから、クラン長としてやっていけるんだろうな。


「なんか分かったか?」
「襲撃された、その依頼主・主犯格がギルド員で、青い顔された。」

本当は誘い出したが、そういう事にしておく。

ここにいる意図が意思疎通できたと確信して、ニヤリと笑う。

なぜここにいるかじゃ不思議じゃない。冒険者であるしギルドの招集ではなく、関係するクランの冒険者が報せたのだろう。態々ご苦労な事だが、この機会を得られたのは利がある。

“仕掛けてきたのはこの男の配下ではない”とクリスの口から証言を得られた。

実際の起きた事、疑惑が沸いても被害を受けた者の証言を無視できない。事実、元ギルド員の男が、依頼を出していた。その文章は回収済み。さっき置き土産にしてきた。受付の男は、慌ててたな。


裏の組織という奴だ。元々繋がっていたのか、知っていて今回使ったのかはわからない。
それに、蛇の眼がクランとして関わっていない事は、クリス独自に調べられていた。

「君達だとは思わないよ」

蛇の男は笑うだけだが、後ろのは表情が変わり過ぎだ。
クリスが容疑をかければ、怒る。褒め言葉を言えば当然だという表情をするんだろう。

(わかりやすいな。交渉ごとには向かないタイプだ)
それもまた憎めないが。


目の前の男は、何か掴んでいるのだろう?探りを入れる。
「どこのゴロツキか知ってるかい?」

「あ?街ででも雇い入れたんだろ」

この町に居た者ではないことは、調べられていたか。冒険者ではないと把握できれば、飛び火は防げる。クランの動きとしては、軽快で迅速だった。クラン長自ら動いているのは、まだ育っている最中なのだろう。

「街に来いよ!俺様、直々に案内するぞ」
蛇の眼のクラン長は、そう言い残して立ち去って行った。

歓迎されているらしいが、案内してもらう予定はないな。冒険者達の間で噂は流れるがそのうち、たち消えるだろう。ギルドもそこまで風評被害は受けない。

早速冒険者ギルドの酒場で噂が巡っていた。

「なんでまた2度も襲撃されたんだ?」
「さー、女関係で恨みを買っちゃとかあるんじゃねーの」

「僻みか?モテそうとか」

「いや、暗殺される動機ってなにされたんだ?」
「あの男じゃなー」

クリスの昔、何をしたかはわからないのだが話が作られていった。

襲撃を受けたのは、ひとりの男である。
冒険者であることは確かだが

名前以外、定かではない。
「こんな報告書、必要?」


主犯格と思しき元、ギルド員の男。同僚だったとはいえ、ムカつく奴。捕まっておとなしくしているが、碌に喋った情報はない。
『無理だったんだよ、あの男に何かするなんて』
そう言葉をこぼし、あとはダンマリだった。沈黙すれば罪から逃れられるのかと踏んでたのかもな。

依頼書をサクッと出されてすぐ確定だったし。けどそれをスッと渡されたのがびっくりだったし、関わった全員がわかっているってどういうこと?

あのクリスさんって、ヤバい人?いや、対応は柔和だし怒鳴らないから良い人だって。
超便利なスキル持ちだったりするのかな。

そういうのって秘匿するし、ギルドでも把握できていないものもある。
場所によってギルドも特色があって、漏れたりするからな。今回、やらかした男もギルド員だったし反論の余地がないな。

今回の件をまとめようと思ったけど、証拠に被害者の証言もあって。後は捕まえた奴らの罵詈雑言か沈黙。
ペラペラの内容の書類をさっさと提出して、逃げた。

「まだ仕事があるんで」
あの上司が書類をしっかり読むこともないし、問題も起こることないだろう。
この町でこんな事件らしいものが起きるのなんて、そうないのだから。


数日経って変わらない様子でクリスさん来てた。相変わらず冒険者ギルドの依頼はあまり受けず、採取を持ち込むくらいしかしない。変化は、受付にきたら話かけられるようになったくらいか。

依頼やら、勧誘の手応えのないものの世間話なんかをする。

偏屈な冒険者だっているんだ。あの人はとっつきやすく、近づかせない印象だけど。
程よい距離感、少々砕けたが馴れ馴れしいがまあいいかと思っている。



こうして、クリスに平穏な時間が戻っていた。そして待ってた荷物が来た!

「コーヒーを淹れましょう!」

嬉々としたクリスに驚きながらも、夫君は頷いた。そしたら、従者と言う紹介で男が出現する。
隠れも、魔導具でもなさそうだ。こんだけの驚きで使うものでもない。

「執事か?」
夫君は内心は盛大に驚いてはいるが、先に聞いてみた。もっといきなり出てきた事に驚くべきか、何者なのか問うべきか。


「只人、ではないな?」
突然出てくる人というのを、認められない。タネの仕掛けもないんだろうことは予想がついた。

精霊か妖精?転移の魔術はそれほど進んでいるとは思えないためここに辿り着く。平然としている男とクリスは沈黙したままだ。

手元のコーヒー器具に集中している様子だ。

答えは得られないと分かり、じっと目で観察するも手慣れたようにコーヒーを淹れていく。
透明な器具に炎が当たり、黒い液体が温められていく。


「良い香りだ」
嬉しそうなクリスに、根掘り葉掘り聞くことはなく黙って男がコーヒーを淹れるのを待った。本当はすごく気になる。人前に妖精や精霊が現れるなんて早々ない。それこそお話の中だ。

その動揺は炎の揺らめきを見ていて落ち着いた。夫君にも、コーヒーは久しぶりであるため期待は上がる。



「街に出れば、豆の種類もあるんだがな。」

この辺は、紅茶が主流の地域だ。普段に飲むし購入も容易い。


「それは気になりますね!近々、街に行ってみようかと思いまして。」

おや、街には興味がないと言っていたと思うが気が変わったらしい。
「ゆっくり馬車で出て、昼には着くような距離だが。いつ出るんだ?」

「まだはっきりとは決めてません、けどコーヒーのためなら早くしましょうか。」


コーヒーを2杯飲み終わった頃、クリスは男に話しかけた。


「呼び出してしまって悪かった。これで酒でも あがなってくれ。」

少々の気持ちを渡して、去っていった。いや消えた。本当に人ではないらしい。
やっと、質問に答えてくれそうだ。

「人の姿だが、精霊か?」

泉の精霊が有名だが、その姿を見せることは少ないのが通説だ。

「気に入ったものを加護、付き従うらしいですね。」

クリスを見る。守護を受けているのか。彼の存在が秘密の情報収集に関わるのだろう。
それを明かしたのは信頼か、試すのか。

何も考えていないというのはないだろう。気持ちを切り替える。
「商会の馬車に乗せてもらえるか聴きに行くか。」

土産に何が良いか話し合う。戻ってくるつもりがあるとなんとなく気分が上向いた。
しかしひと言言ってやりたい気分になる。

「よくわからん男だの」
「わかりやすいと思うんですがね。」

ご機嫌にコーヒーを飲む。その側には婦人の出してくれたパンが、ちょうど良い味だった。

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