【長編・完結】この冒険者、何者？〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

街

ナンパされる方

「そういや冒険者ギルドに行かなくて良いのかい？」

二日酔いという言葉を忘れたような商人から、純然たる疑問を投げかけられる。
商人が商会に行くように、冒険者もそうだと思っているから。

「いえ、特には」

結構飲んでたが、酒は持ち越さないのかもしれない。
他の人々も、日が昇る前から働きに出ていた。その気配を知っていても寝ていたのだ。

のんびり朝食を食べたクリスは、そういえば行ってないなと思っただけだった。

「用がないので」
「そ、そうかい。」

用がなければ行かないところだが、冒険者なら情報収集に何かと顔を出すものだろう。
報せが来ているかもしれないし、依頼あってこその冒険者というところもある。

まあ、商会の長期依頼の扱いか。それなら完了まで休んでいるのかもな。
そういう結論に落ち着いたが、このクリスという男が不思議な存在に見えるのだった。


「さて、今日は。本屋にもう一回行くというのも芸がない気がするな。」

部屋で本を読むのももったいない気がする。良い陽気だ。
カザンは、市場での買い物を楽しんでいるらしい。酒が買える場所や、出す店の情報を結構手に入れてきていた。

クリスは全体的に街を回ったが、買い物は特にしていない。
仕事だったしな。

建物や装飾は面白いものが見れたが、もう一度行きたいという訳でもないな。

気になった店に客として行ってみるかと、決める。昼食は断りを入れ、何を食べるか考える。

「冒険者向けの店を行ってみるか。」

「お、クリスさん。近いうちに商会へ顔出してくれよ！」
「ええ、明日には。」

商会で報酬を受け取るのは、まだ後で良いと言われている。

「量を出してくれる店より、変わった物出す店はないかな？」
「それなら、冒険者ギルドの近くより酒場の方に流れた方があるな。」

ざっと場所を聞いて、探してみる事にした。行き当たりばったりなのも面白いだろう
近くに行けばフウやリンが気になる店を教えてくれる。

香辛料を使った料理ならリンが興味を示し、面白い人だったり物があるとフウが主張する。
賑やかな店も良いが、夜はカザンと合流してハシゴ酒かな。


揚々と出掛けたものの、冒険者ギルドの近くは鬼門だった。


「なあ、兄さん冒険者？」
「一応な」

「どこのクラン、少しお話しない？」


男と、女性が別々のクランのようだが声をかけられた。
女性の方、妖艶な視線はちょっと魔力が混ざっているか？


「悪いけど先約がいるんだ」

勝手に口喧嘩を始めた2人から逃れ、さっさと人ごみに紛れた。
追いかけてくるのは、フウとリンが遮ってくれる。

もう、距離が空いていた。

そして、ほどほどに混んでいる食事処へさっさと入っていった。