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7 今生こそは
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「ところで、姫様は陛下を襲った暴漢を返り討ちになさり、その際に一撃を食らったという話を聞いているのですが。もしやその衝撃で前世の記憶を思い出されましたか?」
「よく分かってんじゃん」
「では、魔法も思い出されましたか? 私は物心ついた頃に前世の記憶を思い出し、それと一緒に魔力を取り戻したのですが……」
言われて、はたと思い至る。
そういえば、前世と違ってこの国には魔法というものが存在しないのだ。前世では魔法を駆使して討伐しまくっていた魔物という存在もいないんだよね~。
……あれ? 魔王が率いる魔物軍との対戦で「ルナ」は死ぬはずなのに? なんで魔物がいないんだ?
「姫様?」
「ああ、聞いてる、聞いてるよ。魔法でしょ? まだ使ってないから分からないんだよね……よし、今やってみるか!」
前世ではわりかし優秀な聖女として認められていて、結構強力な治癒魔法をぶっ放していたのだ。当時の自分がどう力を使っていたかは、身体が覚えているってもんよ。それをなぞるようにしてみると、全身に魔力が巡る感覚を捉えることが出来た。これならいけそうだな。
おっ、お誂え向きにソルダードの手に傷がある。これは武人の手だ。王族に生まれた今生でも剣の鍛錬は怠ってないんだなあ。はしっとその手を取ると、なんか無駄にびくっとしていたような気が……。別に取って食いやしないよ?
『癒しの光』
呟きながら傷に手をかざすと、まるで元から何もなかったかのように傷が消え去った。かつてと何ら遜色ない出来栄え。
「よし、ちゃんと魔法も使えるな」
納得して一人頷いていると、ソルダードが弱々しい声で「御手を……」と言ってきた。ああ、手を握りっぱなしだったな。
嫌だったのかと反省して「勝手に手を取って悪かった」と詫びると、「いえ、むしろありがたいことです」と薄赤い顔色でブンブン首を振られた。まだどこか挙動不審な様子だけど、治癒を喜んでくれたっぽいので良しとしよう。
「ところで、ソルダードはこの世界が前世のアタイの異母姉ミラージュが書いたゲームブックの世界だって気付いてた?」
「えっ?」
「ほら、『運命の愛は何度でも』っていうやつ」
絶句する様子を見るに、気付いてなかったんだな。アタイは献本が来ちゃったから軽く目を通すくらいはしたけど、こいつがあんな恋愛小説を読むわけないよな。本の内容を知らなければ、この世界との相似に気付くはずもないわけで。
ざっと話の流れとアタイが死にキャラに転生したらしいことを伝えると、ソルダードはこめかみをひくひくと引き攣らせた。「あの皇女、よくも姫様に……」と呟く声は地獄の底から響くかのようなおどろおどろしさ。おぉ、めちゃくちゃ怒っている。
「先程の話に出てきた『愛の女神』ですが、その名はミラージュです。第一皇女殿下と同じ名であり、彼女がこの世界に大いに干渉していることの証左でしょう」
異母姉が、この世界の神――まあ、この世界を創造したのだからそりゃそうか。
全力でアタイを殺しに来ている人間が神を務める世界で生き残らなきゃならないって、なかなかハードモードだな。思わず遠い目になる。
それにしても、「愛の女神」だなんて。あの嗜虐趣味がねぇ。愛し合う二人に慈悲を与えるとか、そんなガラじゃないだろうに。
「今度こそ、必ずお守りしますから」
思考が逃避に走っていたアタイを引き戻したのは、静かで、しかし決然としたソルダードの声だった。その顔を見て小さく息を呑む。
ああ、何ていう目をしているんだよ。まるで手負いの獣のような。強敵に無慈悲に傷つけられ、それでも敢然と立ち向かおうとしていくような、脆くも強い光を湛えて。
……そうだよな。護衛対象を目の前で喪ったのだ、どれだけ心に傷を負ったことだろう。地獄を見て、絶望に染まって。その中でこいつは死んだのだ。
なんて不甲斐ない主君だろう。忠臣の、騎士としての矜持一つ守ってやれないなんて。情けなさ過ぎて涙も出やしない。
アタイが死んだのがこいつのせいだなんて、そんなことはない。それがアタイの意見だけど、ソルダードはきっとそうは思わないのだ。何を言ったところで変わらずに、己を責め続けるのだろう。
だったら、どこまでも相容れることはないのなら――。
「これからも頼むよ。アタイの騎士、ソルダード」
アタイはただひたすらに、変わらぬ信頼を捧げようじゃないか。そうして、今度こそアタイは生き延びてみせるのだ。他ならぬ、こいつとともに。
「よく分かってんじゃん」
「では、魔法も思い出されましたか? 私は物心ついた頃に前世の記憶を思い出し、それと一緒に魔力を取り戻したのですが……」
言われて、はたと思い至る。
そういえば、前世と違ってこの国には魔法というものが存在しないのだ。前世では魔法を駆使して討伐しまくっていた魔物という存在もいないんだよね~。
……あれ? 魔王が率いる魔物軍との対戦で「ルナ」は死ぬはずなのに? なんで魔物がいないんだ?
「姫様?」
「ああ、聞いてる、聞いてるよ。魔法でしょ? まだ使ってないから分からないんだよね……よし、今やってみるか!」
前世ではわりかし優秀な聖女として認められていて、結構強力な治癒魔法をぶっ放していたのだ。当時の自分がどう力を使っていたかは、身体が覚えているってもんよ。それをなぞるようにしてみると、全身に魔力が巡る感覚を捉えることが出来た。これならいけそうだな。
おっ、お誂え向きにソルダードの手に傷がある。これは武人の手だ。王族に生まれた今生でも剣の鍛錬は怠ってないんだなあ。はしっとその手を取ると、なんか無駄にびくっとしていたような気が……。別に取って食いやしないよ?
『癒しの光』
呟きながら傷に手をかざすと、まるで元から何もなかったかのように傷が消え去った。かつてと何ら遜色ない出来栄え。
「よし、ちゃんと魔法も使えるな」
納得して一人頷いていると、ソルダードが弱々しい声で「御手を……」と言ってきた。ああ、手を握りっぱなしだったな。
嫌だったのかと反省して「勝手に手を取って悪かった」と詫びると、「いえ、むしろありがたいことです」と薄赤い顔色でブンブン首を振られた。まだどこか挙動不審な様子だけど、治癒を喜んでくれたっぽいので良しとしよう。
「ところで、ソルダードはこの世界が前世のアタイの異母姉ミラージュが書いたゲームブックの世界だって気付いてた?」
「えっ?」
「ほら、『運命の愛は何度でも』っていうやつ」
絶句する様子を見るに、気付いてなかったんだな。アタイは献本が来ちゃったから軽く目を通すくらいはしたけど、こいつがあんな恋愛小説を読むわけないよな。本の内容を知らなければ、この世界との相似に気付くはずもないわけで。
ざっと話の流れとアタイが死にキャラに転生したらしいことを伝えると、ソルダードはこめかみをひくひくと引き攣らせた。「あの皇女、よくも姫様に……」と呟く声は地獄の底から響くかのようなおどろおどろしさ。おぉ、めちゃくちゃ怒っている。
「先程の話に出てきた『愛の女神』ですが、その名はミラージュです。第一皇女殿下と同じ名であり、彼女がこの世界に大いに干渉していることの証左でしょう」
異母姉が、この世界の神――まあ、この世界を創造したのだからそりゃそうか。
全力でアタイを殺しに来ている人間が神を務める世界で生き残らなきゃならないって、なかなかハードモードだな。思わず遠い目になる。
それにしても、「愛の女神」だなんて。あの嗜虐趣味がねぇ。愛し合う二人に慈悲を与えるとか、そんなガラじゃないだろうに。
「今度こそ、必ずお守りしますから」
思考が逃避に走っていたアタイを引き戻したのは、静かで、しかし決然としたソルダードの声だった。その顔を見て小さく息を呑む。
ああ、何ていう目をしているんだよ。まるで手負いの獣のような。強敵に無慈悲に傷つけられ、それでも敢然と立ち向かおうとしていくような、脆くも強い光を湛えて。
……そうだよな。護衛対象を目の前で喪ったのだ、どれだけ心に傷を負ったことだろう。地獄を見て、絶望に染まって。その中でこいつは死んだのだ。
なんて不甲斐ない主君だろう。忠臣の、騎士としての矜持一つ守ってやれないなんて。情けなさ過ぎて涙も出やしない。
アタイが死んだのがこいつのせいだなんて、そんなことはない。それがアタイの意見だけど、ソルダードはきっとそうは思わないのだ。何を言ったところで変わらずに、己を責め続けるのだろう。
だったら、どこまでも相容れることはないのなら――。
「これからも頼むよ。アタイの騎士、ソルダード」
アタイはただひたすらに、変わらぬ信頼を捧げようじゃないか。そうして、今度こそアタイは生き延びてみせるのだ。他ならぬ、こいつとともに。
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