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始まらないどんでん返し
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イブを助けるため一念発起した俺を、レオという俺より背が高くて俺よりちょっとかっこいい男はせせら笑った。
「は??? 道案内???」
「そうだよ」
「お前、バカなの? 留守番してろって言ってんだろ。役立たずがのこのこ付いてきて、俺がイブを助けるのを大人しく見てんのか?」
こいつの言い方はマジで腹が立つ。けど、実際その通りなんだから言い返しようもない。俺は歯を食いしばって黙った。
「必要ねえ。つか、お前の道案内とかいらね。邪魔なだけ。分かったら――」
「おい、その辺にしとけ」
その時だった。じっと俺とレオのやり取りを見守っていたブルーノが、その大きな体でレオと俺の間に割り込むようにしてきた。
「な、何だよブルーノ?」
「誰がお前に行かせるって言った?」
「な!?」
おお、レオが慌ててる。どうするつもりなんだろ。
「行くのは俺だ。お前は留守番してろ」
「はああああ!? 何だよそれ!」
顔を真っ赤にして詰め寄るレオを、ブルーノは軽くあしらっている。やっぱ、ブルーノって強いんだな。
ブルーノが割って入ってきてくれた安心感からか、俺は少し余裕ができていた。
「何だよも何も、お前は戻ってきたばかりだろうが。連続出動は規則違反だ。他の奴らが戻ってくるまで待機してろ」
「ちっ、違うし! これはいつもの回収の仕事とは別で……」
「同じだよ。さ、座った座った」
ブルーノは有無を言わさない強引さでレオを押しやり、カウンターに座らせた。正しくは上から押さえつけた、ように見えた。
「ほれ」
さらに手の平を突き出してくるブルーノを、レオは怒鳴りつける。
「何だよ!?」
「感応器だよ。ほれ、よこせ」
レオは悔しそうに歯がみしていたが、観念したように自分のコートのポケットを探った。
「ほらよ!」
「おっとっと、危ねえな」
そのままブルーノの方に放り投げた何かを、うまくキャッチする。俺はブルーノに尋ねた。
「それ、何スか?」
「ああ。仕事道具だよ。追跡魔術に反応する探知機みたいなもんだ」
「早く行けよ!」
レオの怒りが爆発している。もっと聞きたいけど、これ以上こいつの前で長話するのはまずそうだ。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい!」
相当キレてるみたいだけど、きっちり見送りの挨拶をしてくれるところを見ると案外イイ奴なのかもしれない。
玄関脇に置いてあった荷物を背負うブルーノの後ろを、俺は付いていった。
イブを助けるために山へ向かう道すがら、ブルーノは俺に説明してくれた。
「別の世界から招かれた『寄り人』にはな、自動的に追跡魔術ってのがかけられる」
「追跡? スか?」
「ああ。招いたはいいものの、どこに居るのか把握できなくてそのまま野垂れ死にさせちまうのも本末転倒だろ」
本末転倒の意味は正直よく知らなかったけど、俺はとりあえず頷いておいた。
「だから、こちらが寄り人をできるだけ早く回収できるように、そういう仕組みが作られたんだ。そして追跡魔術はこいつに反応する」
言って、ブルーノはレオから受け取った感応器とやらを見せてきた。透明な手の平くらいの大きさの宝石の中に、小さな針のようなものが入っている。針の片方の先端が小さく光って、ゆっくりと点滅していた。
「もしかして、これが?」
「ああ。この光が大きいほど追跡魔術のターゲットが近くにいて、点滅が早くなるほど正確な方角を示してるってわけだ」
「なるほど……?」
「ものは試しだ、ほれ」
ブルーノは感応器を俺に向けた。石全体が光るくらい眩しく輝き、点滅はほとんど感じられなくなった。
「これでも点滅してるんだぞ。早すぎてずっと光ってるように見えるが」
「すげえ……。これは、俺に反応してるってことスか」
「そうだ。だからお前さんはできるだけ俺の前には立たないようにしてくれ」
言われなくてもブルーノの前を歩く気なんてなかった。俺はブルーノの広い背中を眺めながら、山道をずんずん登っていった。
やがて、川が流れる谷間に出た。あのとき俺がイブに手を引かれて立ち寄った場所だ。
「ここか?」
「いや、まだ上の方だと思うんスけど……」
「どうかしたか?」
「イブ、何とかって煙幕持ってたスよね」
「ああ、刺激物入りのやつだろ」
「俺、あれモロに食らっちゃって。ここまで引っ張ってこられる間の道は全然見てないんスよ」
「そうだったのか」
ブルーノは唸った。口に出しはしないみたいだけど、当てが外れたって顔だ。
「まあいい。こいつがあるしな」
「反応してるんスか」
「それがなあ」
ブルーノは感応器をかざし、色々な方向を探るように動かした。俺は邪魔にならないよう、それを避けるように動く。
「どうも反応が弱い」
「え?」
「追跡魔術はな、ターゲットに意識がない状態では感応器に反応しないんだ」
「な、何で? もし気絶とかしてたら、回収できないじゃないスか」
「……気絶ならまだいいが」
ブルーノは固く前置きしてから、俺に言った。
「いいか、悪く取るんじゃないぞ。意識がないターゲットに反応しないってことは、死体は最初から対象外ってことなんだ」
「した……?」
俺は絶句した。死体って、何だよそれ。
「回収に行ったはいいが、死体が転がってましたじゃ労力が無駄になる。運が悪い奴ってのはいるもんだ。気の毒だが、そういう奴は俺たちの仕事からは除外される」
「……」
言葉もなかった。そんな俺をフォローするように、すかさずブルーノが背中を叩いてくる。
「まあ、でも大丈夫だろ! 腹でも空かせてひっくり返ってるだけかもしれん」
ありえない話じゃない。なんたって俺たちは育ち盛りだ。ここに来たばかりのとき、腹が減ったとぼやいた俺にたまたま持っていた豆腐を差し出してきた樹の顔が浮かび、俺はちょっぴり笑った。
「心配するな。必ず見つけてやるから」
「……うん」
「もちろん、イブも一緒にな」
ブルーノはそう言って、にかっと笑ってみせた。
「は??? 道案内???」
「そうだよ」
「お前、バカなの? 留守番してろって言ってんだろ。役立たずがのこのこ付いてきて、俺がイブを助けるのを大人しく見てんのか?」
こいつの言い方はマジで腹が立つ。けど、実際その通りなんだから言い返しようもない。俺は歯を食いしばって黙った。
「必要ねえ。つか、お前の道案内とかいらね。邪魔なだけ。分かったら――」
「おい、その辺にしとけ」
その時だった。じっと俺とレオのやり取りを見守っていたブルーノが、その大きな体でレオと俺の間に割り込むようにしてきた。
「な、何だよブルーノ?」
「誰がお前に行かせるって言った?」
「な!?」
おお、レオが慌ててる。どうするつもりなんだろ。
「行くのは俺だ。お前は留守番してろ」
「はああああ!? 何だよそれ!」
顔を真っ赤にして詰め寄るレオを、ブルーノは軽くあしらっている。やっぱ、ブルーノって強いんだな。
ブルーノが割って入ってきてくれた安心感からか、俺は少し余裕ができていた。
「何だよも何も、お前は戻ってきたばかりだろうが。連続出動は規則違反だ。他の奴らが戻ってくるまで待機してろ」
「ちっ、違うし! これはいつもの回収の仕事とは別で……」
「同じだよ。さ、座った座った」
ブルーノは有無を言わさない強引さでレオを押しやり、カウンターに座らせた。正しくは上から押さえつけた、ように見えた。
「ほれ」
さらに手の平を突き出してくるブルーノを、レオは怒鳴りつける。
「何だよ!?」
「感応器だよ。ほれ、よこせ」
レオは悔しそうに歯がみしていたが、観念したように自分のコートのポケットを探った。
「ほらよ!」
「おっとっと、危ねえな」
そのままブルーノの方に放り投げた何かを、うまくキャッチする。俺はブルーノに尋ねた。
「それ、何スか?」
「ああ。仕事道具だよ。追跡魔術に反応する探知機みたいなもんだ」
「早く行けよ!」
レオの怒りが爆発している。もっと聞きたいけど、これ以上こいつの前で長話するのはまずそうだ。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい!」
相当キレてるみたいだけど、きっちり見送りの挨拶をしてくれるところを見ると案外イイ奴なのかもしれない。
玄関脇に置いてあった荷物を背負うブルーノの後ろを、俺は付いていった。
イブを助けるために山へ向かう道すがら、ブルーノは俺に説明してくれた。
「別の世界から招かれた『寄り人』にはな、自動的に追跡魔術ってのがかけられる」
「追跡? スか?」
「ああ。招いたはいいものの、どこに居るのか把握できなくてそのまま野垂れ死にさせちまうのも本末転倒だろ」
本末転倒の意味は正直よく知らなかったけど、俺はとりあえず頷いておいた。
「だから、こちらが寄り人をできるだけ早く回収できるように、そういう仕組みが作られたんだ。そして追跡魔術はこいつに反応する」
言って、ブルーノはレオから受け取った感応器とやらを見せてきた。透明な手の平くらいの大きさの宝石の中に、小さな針のようなものが入っている。針の片方の先端が小さく光って、ゆっくりと点滅していた。
「もしかして、これが?」
「ああ。この光が大きいほど追跡魔術のターゲットが近くにいて、点滅が早くなるほど正確な方角を示してるってわけだ」
「なるほど……?」
「ものは試しだ、ほれ」
ブルーノは感応器を俺に向けた。石全体が光るくらい眩しく輝き、点滅はほとんど感じられなくなった。
「これでも点滅してるんだぞ。早すぎてずっと光ってるように見えるが」
「すげえ……。これは、俺に反応してるってことスか」
「そうだ。だからお前さんはできるだけ俺の前には立たないようにしてくれ」
言われなくてもブルーノの前を歩く気なんてなかった。俺はブルーノの広い背中を眺めながら、山道をずんずん登っていった。
やがて、川が流れる谷間に出た。あのとき俺がイブに手を引かれて立ち寄った場所だ。
「ここか?」
「いや、まだ上の方だと思うんスけど……」
「どうかしたか?」
「イブ、何とかって煙幕持ってたスよね」
「ああ、刺激物入りのやつだろ」
「俺、あれモロに食らっちゃって。ここまで引っ張ってこられる間の道は全然見てないんスよ」
「そうだったのか」
ブルーノは唸った。口に出しはしないみたいだけど、当てが外れたって顔だ。
「まあいい。こいつがあるしな」
「反応してるんスか」
「それがなあ」
ブルーノは感応器をかざし、色々な方向を探るように動かした。俺は邪魔にならないよう、それを避けるように動く。
「どうも反応が弱い」
「え?」
「追跡魔術はな、ターゲットに意識がない状態では感応器に反応しないんだ」
「な、何で? もし気絶とかしてたら、回収できないじゃないスか」
「……気絶ならまだいいが」
ブルーノは固く前置きしてから、俺に言った。
「いいか、悪く取るんじゃないぞ。意識がないターゲットに反応しないってことは、死体は最初から対象外ってことなんだ」
「した……?」
俺は絶句した。死体って、何だよそれ。
「回収に行ったはいいが、死体が転がってましたじゃ労力が無駄になる。運が悪い奴ってのはいるもんだ。気の毒だが、そういう奴は俺たちの仕事からは除外される」
「……」
言葉もなかった。そんな俺をフォローするように、すかさずブルーノが背中を叩いてくる。
「まあ、でも大丈夫だろ! 腹でも空かせてひっくり返ってるだけかもしれん」
ありえない話じゃない。なんたって俺たちは育ち盛りだ。ここに来たばかりのとき、腹が減ったとぼやいた俺にたまたま持っていた豆腐を差し出してきた樹の顔が浮かび、俺はちょっぴり笑った。
「心配するな。必ず見つけてやるから」
「……うん」
「もちろん、イブも一緒にな」
ブルーノはそう言って、にかっと笑ってみせた。
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