11 / 12
始まらないロマンス
しおりを挟む
一人取り残された俺は、緑肌種のキャンプ地を目の前に呆然としていた。
落ち着け、考えろ俺。ブルーノだってずっと走り回っていられるわけじゃない。追いかけてる緑肌種だって見失えばいつかは戻ってくる。その間に奴らの住処にいるかもしれないイブを探さなきゃならない。俺が。
俺は改めてテント群を見た。キャンプと聞いて想像するテントとは違って、中央の支柱に向かって外幕が張られている円錐形のテント。それがざっと見ても十かそこらは数がある。
……多くね?
あれ全部探すとして、途中でどれ探したのか分かんなくならね?
ここに来てから大半の人間にバカと言われた俺でさえ、それくらいの見当はついた。奴らのテントはどれもこれも似通っている。
「……んだよもー……。感応器なんて便利なものがあるくせに、ケータイもねえのかよこの世界は」
そりゃ愚痴もこぼれるってもんだ。そういえばここに来たばかりのとき、とりあえず母さんに連絡しようとしたっけ……。
そこまで思い出して、俺は画期的な閃きをした。
「そーだ、ケータイ! 樹のケータイ!」
俺はポケットに入れていたケータイを取り出す。
俺達にとってケータイはほとんど体の一部みたいなもんだ。家でもケータイ、学校でもケータイ、電車でもバスでも、どこでもケータイ。
今やこれひとつでマンガもゲームも事足りる。こんな便利なものを一瞬でも手放す奴がどこにいるだろう?
そして、それは樹も同じはずだ。さらにイブは樹を探しに行った。もしも二人が一緒にいたなら、俺がケータイで樹を呼び出すだけで二人の居所が分かる!
「うおー! 俺って超頭いいー!」
感激のあまり叫んでから、俺はさっそく短縮リストから樹のケータイへと架けた。
その時だった。かすかだったが、どこかから『天国と地獄』のコール音が聞こえてきたのだ。
……何であいつ、初期内蔵の音楽なんか設定してんだよ。
とにかく、これで確実に樹のケータイの場所が分かった! 俺は隠れていた木の影からテント群へと進んだ。
コール音が聞こえるテントはすぐに見つかった。今は空になってるとはいえ、怪物たちの住処に踏みこむのはやっぱり緊張する。
樹、イブ。どうか無事でいてくれ。
俺はテントの入口にかかっている幕を勢いよく捲り上げた。
中に入ろうと身をかがめた瞬間何かにつまずき、俺は勢いよく前のめりで転んだ。
「ぎゅ!」
カエルが潰れたような悲鳴をあげた俺の頭ギリギリの床に、木の棒の一撃が叩きつけられたのはその直後のことだった。
あまりのことに声も出ない。完全に凍りついた俺の頭上から、声が聞こえた。
「あなた……! どうしてこんな所にいるんですか!?」
イブの声だ。俺のフリーズは解除された。
「イブなのか?」
「質問に答えてください! どうしてあなたがこんな所に……!」
「イブだ! やった! 無事だったんだな! 良かった!」
地面から飛び起き、棒を両手で抱えてうろたえているイブの両肩を掴んで、俺は良かったとだけをバカみたいに繰り返した。
良かった、本当に良かった。死んでたりしてなくて、本当に良かった。
泣き出しかねない俺を見て逆に冷静になったのか、イブがため息をつく。
「はい、無事です。この通り怪我もありません。すこぶる健康です」
「本当に……本当に……」
「さあ、もういいですか? 質問に答えてください。どうしてこんな所に?」
イブに真っ直ぐに見つめられ、俺はたどたどしく答える。
「えと、助けに来た」
「私を? どうして?」
「だって、お前は普通の女の子なんだろ」
俺の言葉になぜかイブは絶句した。それに気づかずに続ける。
「だから、助けに行かなきゃって思ったん……だけど」
俺の声は尻切れになった。イブの肩がぶるぶると震え始めたからだ。
「え、何? 寒い?」
「よくも……」
「えっ?」
次の瞬間、俺はイブの全力のビンタを食らっていた。体がよろけ、テントの隅に置かれていた荷物に倒れこんでしまう。
「よくも、そんなことを!」
「えっ、えええええー!?」
イブの顔は怒りに染まり、凄まじい目で俺を睨んでいる。
どういうこと!? 俺が何したってんだよ!!
「な、何すんだよ!」
「ひどい侮辱です! 非常識です!」
「お、落ち着けよ……」
どうやら俺は、イブにとってひどく屈辱的なことを言ってしまったらしい。それは悪いことをした。マジで。
でも、だからっていきなりビンタ!? ありえねーだろ!
「た、たとえ、私があなたの言う通り、ごく平凡な能力しか持たないありきたりな女子だったとしても!」
「いやそこまで言ってねーんだけど」
「この世界に来たばかりの、右も左も分からない赤子同然のあなたに、言われたくありません!」
「なっ……!」
さすがにカチンと来た。俺だってそこまで言われる筋合いはない。
「調子に乗んなよ! せっかく……」
「あっ……」
何か言い返そうとしてきたイブの表情が凍りつく。それがあまりに鮮やかで、俺はつられて真顔になった。
――唸り声がした。
視線で床をなぞるように振り返ると、テントの入り口を塞ぐように、緑肌種が一匹立っていた。
落ち着け、考えろ俺。ブルーノだってずっと走り回っていられるわけじゃない。追いかけてる緑肌種だって見失えばいつかは戻ってくる。その間に奴らの住処にいるかもしれないイブを探さなきゃならない。俺が。
俺は改めてテント群を見た。キャンプと聞いて想像するテントとは違って、中央の支柱に向かって外幕が張られている円錐形のテント。それがざっと見ても十かそこらは数がある。
……多くね?
あれ全部探すとして、途中でどれ探したのか分かんなくならね?
ここに来てから大半の人間にバカと言われた俺でさえ、それくらいの見当はついた。奴らのテントはどれもこれも似通っている。
「……んだよもー……。感応器なんて便利なものがあるくせに、ケータイもねえのかよこの世界は」
そりゃ愚痴もこぼれるってもんだ。そういえばここに来たばかりのとき、とりあえず母さんに連絡しようとしたっけ……。
そこまで思い出して、俺は画期的な閃きをした。
「そーだ、ケータイ! 樹のケータイ!」
俺はポケットに入れていたケータイを取り出す。
俺達にとってケータイはほとんど体の一部みたいなもんだ。家でもケータイ、学校でもケータイ、電車でもバスでも、どこでもケータイ。
今やこれひとつでマンガもゲームも事足りる。こんな便利なものを一瞬でも手放す奴がどこにいるだろう?
そして、それは樹も同じはずだ。さらにイブは樹を探しに行った。もしも二人が一緒にいたなら、俺がケータイで樹を呼び出すだけで二人の居所が分かる!
「うおー! 俺って超頭いいー!」
感激のあまり叫んでから、俺はさっそく短縮リストから樹のケータイへと架けた。
その時だった。かすかだったが、どこかから『天国と地獄』のコール音が聞こえてきたのだ。
……何であいつ、初期内蔵の音楽なんか設定してんだよ。
とにかく、これで確実に樹のケータイの場所が分かった! 俺は隠れていた木の影からテント群へと進んだ。
コール音が聞こえるテントはすぐに見つかった。今は空になってるとはいえ、怪物たちの住処に踏みこむのはやっぱり緊張する。
樹、イブ。どうか無事でいてくれ。
俺はテントの入口にかかっている幕を勢いよく捲り上げた。
中に入ろうと身をかがめた瞬間何かにつまずき、俺は勢いよく前のめりで転んだ。
「ぎゅ!」
カエルが潰れたような悲鳴をあげた俺の頭ギリギリの床に、木の棒の一撃が叩きつけられたのはその直後のことだった。
あまりのことに声も出ない。完全に凍りついた俺の頭上から、声が聞こえた。
「あなた……! どうしてこんな所にいるんですか!?」
イブの声だ。俺のフリーズは解除された。
「イブなのか?」
「質問に答えてください! どうしてあなたがこんな所に……!」
「イブだ! やった! 無事だったんだな! 良かった!」
地面から飛び起き、棒を両手で抱えてうろたえているイブの両肩を掴んで、俺は良かったとだけをバカみたいに繰り返した。
良かった、本当に良かった。死んでたりしてなくて、本当に良かった。
泣き出しかねない俺を見て逆に冷静になったのか、イブがため息をつく。
「はい、無事です。この通り怪我もありません。すこぶる健康です」
「本当に……本当に……」
「さあ、もういいですか? 質問に答えてください。どうしてこんな所に?」
イブに真っ直ぐに見つめられ、俺はたどたどしく答える。
「えと、助けに来た」
「私を? どうして?」
「だって、お前は普通の女の子なんだろ」
俺の言葉になぜかイブは絶句した。それに気づかずに続ける。
「だから、助けに行かなきゃって思ったん……だけど」
俺の声は尻切れになった。イブの肩がぶるぶると震え始めたからだ。
「え、何? 寒い?」
「よくも……」
「えっ?」
次の瞬間、俺はイブの全力のビンタを食らっていた。体がよろけ、テントの隅に置かれていた荷物に倒れこんでしまう。
「よくも、そんなことを!」
「えっ、えええええー!?」
イブの顔は怒りに染まり、凄まじい目で俺を睨んでいる。
どういうこと!? 俺が何したってんだよ!!
「な、何すんだよ!」
「ひどい侮辱です! 非常識です!」
「お、落ち着けよ……」
どうやら俺は、イブにとってひどく屈辱的なことを言ってしまったらしい。それは悪いことをした。マジで。
でも、だからっていきなりビンタ!? ありえねーだろ!
「た、たとえ、私があなたの言う通り、ごく平凡な能力しか持たないありきたりな女子だったとしても!」
「いやそこまで言ってねーんだけど」
「この世界に来たばかりの、右も左も分からない赤子同然のあなたに、言われたくありません!」
「なっ……!」
さすがにカチンと来た。俺だってそこまで言われる筋合いはない。
「調子に乗んなよ! せっかく……」
「あっ……」
何か言い返そうとしてきたイブの表情が凍りつく。それがあまりに鮮やかで、俺はつられて真顔になった。
――唸り声がした。
視線で床をなぞるように振り返ると、テントの入り口を塞ぐように、緑肌種が一匹立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる