始まらない物語

siruhi

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始まらないロマンス

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 一人取り残された俺は、緑肌種グリーンスキンのキャンプ地を目の前に呆然としていた。
 落ち着け、考えろ俺。ブルーノだってずっと走り回っていられるわけじゃない。追いかけてる緑肌種グリーンスキンだって見失えばいつかは戻ってくる。その間に奴らの住処にいるかもしれないイブを探さなきゃならない。俺が。
 俺は改めてテント群を見た。キャンプと聞いて想像するテントとは違って、中央の支柱に向かって外幕が張られている円錐形のテント。それがざっと見ても十かそこらは数がある。
 ……多くね?
 あれ全部探すとして、途中でどれ探したのか分かんなくならね?
 ここに来てから大半の人間にバカと言われた俺でさえ、それくらいの見当はついた。奴らのテントはどれもこれも似通っている。
「……んだよもー……。感応器サーチジェムなんて便利なものがあるくせに、ケータイもねえのかよこの世界は」
 そりゃ愚痴もこぼれるってもんだ。そういえばここに来たばかりのとき、とりあえず母さんに連絡しようとしたっけ……。
 そこまで思い出して、俺は画期的な閃きをした。
「そーだ、ケータイ! いつきのケータイ!」
 俺はポケットに入れていたケータイを取り出す。
 俺達にとってケータイはほとんど体の一部みたいなもんだ。家でもケータイ、学校でもケータイ、電車でもバスでも、どこでもケータイ。
 今やこれひとつでマンガもゲームも事足りる。こんな便利なものを一瞬でも手放す奴がどこにいるだろう?
 そして、それは樹も同じはずだ。さらにイブは樹を探しに行った。もしも二人が一緒にいたなら、俺がケータイで樹を呼び出すだけで二人の居所が分かる!
「うおー! 俺って超頭いいー!」
 感激のあまり叫んでから、俺はさっそく短縮リストから樹のケータイへと架けた。
 その時だった。かすかだったが、どこかから『天国と地獄』のコール音が聞こえてきたのだ。
 ……何であいつ、初期内蔵の音楽なんか設定してんだよ。
 とにかく、これで確実に樹のケータイの場所が分かった! 俺は隠れていた木の影からテント群へと進んだ。
 コール音が聞こえるテントはすぐに見つかった。今は空になってるとはいえ、怪物たちの住処に踏みこむのはやっぱり緊張する。
 樹、イブ。どうか無事でいてくれ。
 俺はテントの入口にかかっている幕を勢いよく捲り上げた。
 中に入ろうと身をかがめた瞬間何かにつまずき、俺は勢いよく前のめりで転んだ。
「ぎゅ!」
 カエルが潰れたような悲鳴をあげた俺の頭ギリギリの床に、木の棒の一撃が叩きつけられたのはその直後のことだった。
 あまりのことに声も出ない。完全に凍りついた俺の頭上から、声が聞こえた。
「あなた……! どうしてこんな所にいるんですか!?」
 イブの声だ。俺のフリーズは解除された。
「イブなのか?」
「質問に答えてください! どうしてあなたがこんな所に……!」
「イブだ! やった! 無事だったんだな! 良かった!」
 地面から飛び起き、棒を両手で抱えてうろたえているイブの両肩を掴んで、俺は良かったとだけをバカみたいに繰り返した。
 良かった、本当に良かった。死んでたりしてなくて、本当に良かった。
 泣き出しかねない俺を見て逆に冷静になったのか、イブがため息をつく。
「はい、無事です。この通り怪我もありません。すこぶる健康です」
「本当に……本当に……」
「さあ、もういいですか? 質問に答えてください。どうしてこんな所に?」
 イブに真っ直ぐに見つめられ、俺はたどたどしく答える。
「えと、助けに来た」
「私を? どうして?」
「だって、お前は普通の女の子なんだろ」
 俺の言葉になぜかイブは絶句した。それに気づかずに続ける。
「だから、助けに行かなきゃって思ったん……だけど」
 俺の声は尻切れになった。イブの肩がぶるぶると震え始めたからだ。
「え、何? 寒い?」
「よくも……」
「えっ?」
 次の瞬間、俺はイブの全力のビンタを食らっていた。体がよろけ、テントの隅に置かれていた荷物に倒れこんでしまう。
「よくも、そんなことを!」
「えっ、えええええー!?」
 イブの顔は怒りに染まり、凄まじい目で俺を睨んでいる。
 どういうこと!? 俺が何したってんだよ!!
「な、何すんだよ!」
「ひどい侮辱です! 非常識です!」
「お、落ち着けよ……」
 どうやら俺は、イブにとってひどく屈辱的なことを言ってしまったらしい。それは悪いことをした。マジで。
 でも、だからっていきなりビンタ!? ありえねーだろ!
「た、たとえ、私があなたの言う通り、ごく平凡な能力しか持たないありきたりな女子だったとしても!」
「いやそこまで言ってねーんだけど」
「この世界に来たばかりの、右も左も分からない赤子同然のあなたに、言われたくありません!」
「なっ……!」
 さすがにカチンと来た。俺だってそこまで言われる筋合いはない。
「調子に乗んなよ! せっかく……」
「あっ……」
 何か言い返そうとしてきたイブの表情が凍りつく。それがあまりに鮮やかで、俺はつられて真顔になった。
 ――唸り声がした。
 視線で床をなぞるように振り返ると、テントの入り口を塞ぐように、緑肌種グリーンスキンが一匹立っていた。
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